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戦神の星から

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ケルト神話やケルト文化の話をします。
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記事一覧

論文を寄稿した本が出ます

論文を寄稿した本が出ます

こんにちは。今回は宣伝記事です。

私が論文を寄稿した書籍が出版されました。
12/5に笠間書院様より発行予定の『神話研究の最先端』になります。

私は『「ケルト」神話と「ケルト神話」――「ケルト神話」という語の妥当性について』というタイトルで、「島のケルト」問題と「ケルト神話」という語の使用について論じました。
私なんかよりもすごい先生方がたくさん書かれていますので、ぜひご購入ください。

ケルト神話翻訳してみた

私はかねてより、いわゆるケルト神話を原語であるゲール語から翻訳し、noteにて公開してきました。

私が翻訳したのは「マグ・トゥレドの戦い」(Cath Maige Tuired)、「ブリクリウの饗宴」(Fled Bricrend)、「エウェルへの求婚」(Tochmarc Emire) の三つのエピソードです。以下はそれぞれの翻訳をまとめたマガジンです。

ケルト神話といえば、クー・フリン(クー・フ

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論文紹介「<研究動向>「ケルト」とは何か」(九鬼 由紀)/「ケルト研究の現在・過去・これから:近年の考古学,言語学,考古遺伝学の動向から」(常見 信代)

「ケルト」って、何でしょうか。

そう質問されたらどう答えたらいいでしょうか?

私は多分答えられません。言葉に詰まってうなり声を出すしかなくなってしまう。

なぜかというと、これはまさに今議論の真っ最中の熱い議題で、はっきりした結論が出ていない問題だからです。今回は、この議題の論点を概括した二つの論文をご紹介します。

なんとこれらの論文、現在オープンアクセスになっており、誰でも読めます。日本語

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『ムルセヴネのクーフーリン』翻訳同人誌監修しました

『ムルセヴネのクーフーリン』翻訳同人誌監修しました

皆さんお久しぶりです。

既にご存じの方もいらっしゃるかもしれませんが、グレゴリー夫人の "Cuchulain of Muirthemne" (1902) の翻訳同人誌が刊行されています。

翻訳をされているのはケイロカミオカ氏 (@Might_Overwhelm) 。シアトル住まいで占い師Vtuberというキャラの濃い方です。

"Cuchulain of Muirthemne" はグレゴリー夫

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ケルト神話における王の盤遊戯フィドヘル

彼は繰り返して言った 、「王に聞くがいい」と。「これらの技芸の全てを一人で持つ者が、王のもとにいるどうかを。そしてもしいるのなら、私はタラの王宮に入ることはない」
それから門番はヌァザ王の館へ行き、王に全てを語った。「王宮の門のところに来ている戦士」と彼は言った、「その名前はサウィルダーナッハといいます。そしてあなた様の人びとの役に立つ全ての技、それら全てを彼一人が持っており、ゆえに彼は全ての技芸

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アイルランド神話の装身具

アイルランド神話の装身具

ケルト人が極めて装飾好きであり、高い関心を払っていたことは、大陸側でも島嶼側でも同様で、彼らの美術はその非常に高いレベルのために有名です。今回は、そのなかでもアイルランド神話の中の装身具に注目してみました。ケルト人の美術については、『図説 ケルトの歴史―文化・美術・神話をよむ』(松村一男・鶴岡真弓)や『ケルトの美術と文明』(ロイド&ジェニファー・ラング著、鶴岡真弓訳)をご参照なさるとよいでしょう。

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ケルト神話の神々の王、ダグザについて

ケルト神話の神々、すなわちトゥアサ・デー・ダナン(ダーナ神族)の中で一番「偉い」神様は誰でしょう?

この問いに「これだ」とはっきり答えるのは難しいですが、最も有力な候補の一人は、ダグザ (Dagda) です。いくつもの話で重要な役割を果たす神ですが、一方で滑稽な面もあり、笑い者になることもあります。ダグザの性質を説明しながら、そこから示唆される神的性質をみていきましょう。

なお、以下に述べるダ

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古いアイルランド語を辞書で引く

古いアイルランド語を辞書で引く

こんにちは。久しぶりに単発記事を書きます。

情報化して久しい我々の社会ですが、たまに「ネットで調べればたいていのことはわかる」みたいな言葉を聞きます。

最近も某小学生Youtuberが「漢字はググればいい」と発言したとか。別にその子に思うところがあるわけではないですが……。

世の中必ずしも「ググればわかる」ことばかりではなく、ジャンルによってはググっても情報が無かったり、あるいは逆に嘘情報が

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フィン・マックールが率いた戦士団フィアンについて

これらの物語の近代の批判的読者は、すぐに次のように感じるだろう、この煌びやかな蜃気楼の中に、事実の裏付けを探すことは徒労であると。しかしその蜃気楼は、この種の文芸に対する極めて稀な才能を有する詩人たちと語り部たちによって作り上げられたものであるからして、かつてアイルランドとスコットランドのゲール人の想像の世界を深く支配していたのである。(Myths And Legends Of The Celti

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フィンの生涯

アイルランドに比類なき英雄、戦士にして狩人にして詩人、強く、賢く、美しい、戦士達の王。それがフィン・マックールです。彼が如何なる男なのか知るために、彼が伝承の中でどのように語られているかを、ライフステージ毎に見ていきましょう。

0.名前まず先に名前を明らかにしておかなければなりません。フィンの名前は「フィン・マク・クウァル」(フィン・マク・クウィル;古期・中期アイルランド語Finn mac Cu

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クー・フリンの必殺の槍「ゲイ・ボルグ」

引用1:
するとフェル・ディアドはクー・フリンが油断しているのを見てとり、象牙の柄の剣の一撃を見舞い、クー・フリンの胸に突き刺した。そしてクー・フリンの血が彼の腰帯の中に入り、浅瀬はこの戦士の血で赤くなった。フェル・ディアドが強烈な死の連撃を放ったため、彼はこの傷に耐えられなかった。彼はロイグにガイ・ボルガを要求した。ガイ・ボルガの性質は以下のようであった――それは川の流れに置かれ、足指の間から投

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ケルト学のためのオンラインデータベース "CODECS" を使えばケルト神話について調べるのが5000兆倍楽になる

ケルト学のためのオンラインデータベース "CODECS" を使えばケルト神話について調べるのが5000兆倍楽になる

1.CODECSって何だ今回は便利なサービスの紹介記事です。有料サービスに誘導して裏で報酬をもらうとかはしないのでご安心ください。

ご紹介するのは、"CODECS" というデータベースです(注:英語です)。

これは、ケルト学のためのオンラインデータベースで、一次、二次問わないケルト学関係の膨大な量の文献が集積されています。私も普段お世話になっています。とても便利なので、皆さんにも知ってもらいた

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ケルト神話の偉大なる王、コンホヴァル

昔々、エウィン・ウァハに素晴らしくかつ高名なる王、ファフトナ・ファサッハの息子コンホヴァルがいた。彼の治世下、アルスターの人びとには素晴らしいことがたくさん起こった。平和と平穏と喜びがあった。裁きと地の恵みと海の恵みがあった。支配と法と良き統治が長い間アルスターの人びとの上にあり、名誉と集会と財産とがエウィンの王の舘において大であった。(「エウェルへの求婚」、¶1、拙訳)

アイルランドの伝承、ア

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王たちのサイクルと「霊の幻視」あらすじ

王たちのサイクルと「霊の幻視」あらすじ

1.王たちのサイクルアイルランドの伝承では、「神話サイクル」、「アルスターサイクル」、「フィンサイクル」の三つのサイクルが有名です(拙記事参照)。しかし、実はその三つとは別の、あまり知られていないサイクルがあるのです。それが「王たちのサイクル」(またの名を「歴史サイクル」)です。これは、伝説及び史実上の諸王に関する様々な伝承群のことを言います。

「王たちのサイクル」の特徴は、他の三つのサイクルと

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