ハロウィーンって元々なんなの?

最近日本でも季節のイベントとして定着したハロウィーン。9月に入ると、街は早くもハロウィーンの色に染まります。気が早いですね。みんなで仮装して「トリックオアトリート!」とか言ってお菓子をねだったり、かぼちゃを食べたりする。大体そんな感じのハロウィーン、日本にはアメリカから伝わったらしいです。

その起源がケルト人の習俗「サウィン」とされている、ということはそこそこ知られていますが、それ以上のことを知っている人は中々いないのではないでしょうか。今回はハロウィーンの起源と言われるサウィンについて、可能な限り調べてみました。現代のハロウィーンはアメリカを経由しているので、全ての要素をサウィンから説明することはできないかもしれません。しかし現代のハロウィーンの形と関わりそうな点もありますので、そこに触れつつも、サウィン祭儀全体についてわかる限りみていきましょう。


1.サウィンの日の性質

「サウィン」(アイルランド語Samain, スコットランド語Samhuinn, マン語Sauin)とは「夏の終わり」を意味し、毎年の11月1日に当たります。この日はケルト人の一年の最初の日であり、フランスのケルト人(ガリア人)の「コリニーの暦」(Coligny Calendar)にも「サモニオス(Samonios)としてみられます。

サウィンは前夜祭から始まります。ハロウィーンが10月31日となっているのは恐らくこのためでしょう。ケルト人の一日は日の出ではなく日の入りから始まり、日ではなく夜(一日、二日、ではなく一夜、二夜)で数えるものだったと証言されており、そのため前夜祭からサウィンが始まるのでしょう。というよりも、前夜祭と考えるのは日の出から一日を数える場合の捉え方で、日没から数えた場合は「前夜」ではないのでしょう。

ケルト人の暦にはサウィンを含む四つの大きな節目の日があり、アイルランド語でそれぞれサウィン(11月1日)、インボルグ(2月1日)、ベルティネ(5月1日)、ルグナサド(8月1日)です。これは農耕及び牧畜に関連する暦であり、その中でも最も重要なのが一年の始まりのサウィンです。なぜ11月なのかというと、この季節には収穫が終わり、冬に備えた播種が始まり、また家畜は冬越しのため、一部をつぶして繁殖のために残りを囲いに移すので、農耕・牧畜のちょうど節目に当たるからです。すなわち、夏の半年の周期が終わり、冬の半年が始まるのがこの時期なのです。ケルト人の暦は、このように夏と冬の半年に分かれていることをはじめ、二元性を基本としています。


2.サウィンに関する伝承

さて、二つに別れた一年の半分のちょうど中間に当たり、どちらにも属さないサウィンの日は、異界との境界線が消え、祖先たちが現世に戻り人びとに知識を授け、妖精たちが跋扈するなど、不思議なことが起こるとされています。

例えば「侵略の書」では、フォウォーレ族が穀物、乳、子供を取り立てるのはこのサウィンの日です(拙あらすじ集①、ネヴェズの段参照)。またフィン・マックールに殺されるアレン・マク・ミーナがタラを焼きに来るのもこの日です。クー・フランが鳥に変身した妖精の乙女に出会うのもサウィンに起こります(「クー・フランの病床、あるいはエウェルのただ一度の嫉妬」、拙記事参照)。若さの神オイングスが恋人のカイルとともに白鳥になって飛び去ったのもまたサウィンです(「オイングスの夢」、拙記事参照)。このように、伝承の中ではサウィンの日に特別な事が起こり、異界からの訪問者(必ずしも友好的ではない)がやって来たり、逆に現世から異界にわたることができたりするのです。


3.サウィンの儀礼と祭

このように特別な日であるサウィンには、当然古来から儀礼が行われました。アイルランドでは、アルスター、コナハト、レンスター、マンスターの四つの国が、三年に一度、高王のいるタラで行われるサウィン祭に人を送り、大集会を行っていました。そしてタラの西に位置するトラフトガという地の丘で、冬の最初の聖なる火が点火されました。ダグザ神が三人の女神と結ばれたことを記念する祭式も行われたため、妊娠に吉とされていたそうです。

一方、現代にも残るサウィンの祭りには、ハロウィーンとの繋がりを思わせるような要素がいくつもあります。

例えば、アイルランドのウォーターフォードやコークでは、若者たちが農家を訪れ、祭りのための小銭と食べ物を集めるそうです。コークではさらに、作り物の頭と白いローブで牝馬に変装した者を先頭に、若者たちが角笛やその他の音を立てながら行進します。ヘブリディーズ諸島のルイス島では、お祝いの真似事をするためにエールや食べ物を集め、カブをくり貫いて中にろうそくを灯し、ショニー(英語Shoney, スコットランド語Seonaidh)という海の精霊を呼び出して土地の豊穣を祈願します。ジャック・オー・ランタンは元々カボチャではなくカブを使っていたというのは有名な事実ですが、このようにスコットランドでは今でもカブを使っているようです。


4.時間の境界とサウィン

サウィンは過行く一年と来たる一年のちょうど間に位置し、どちらの年にも属していない、宙ぶらりんの状態です。一般的に言って、このような境界的な日や時期には、世界は一時的な混沌状態になる傾向があります。その結果、サウィンのように異界と行き来できるようになったり、未来がわかったり、普段では許されないことも許されるようになったりします。

日本における例を探しましょう。お盆は今では8月15日(地域によっては7月15日)ですが、旧暦では道教における中元(これがお中元の語源)の日に行われていました。三元は一年を三つに区切る三つの節目の日であり、中元はそのうちの一つというわけです。そしてお盆には、ご存知の通り地獄の釜の蓋が開き、ご先祖様が戻ってくるとされています。サウィンと同じく、節目の日に異界との行き来が可能になるというわけです。

もう一つの例を挙げると、初詣があります。正月の初詣は割と最近、鉄道敷設に従って生まれた伝統ですが、ここで引くおみくじはその一年の運勢を占うものです。一方で、今に残るサウィンの伝統にも占いがあります。それはバームブラック(英語barmbrack, アイルランド語bairín breac「斑入りのパン」)と呼ばれるパンまたはケーキのような食べ物の中に、様々なものが入れられ、中に入っているものによって一年間の運勢を占う(指輪があれば結婚でき、コインがあれば金運が上がる、など)というものです。おみくじとそっくりですね。このようにして、節目となる特別な日には時間的秩序も一時的に停止し、現在にいながらにして未来のことがわかるようになる、すなわち占いの類が可能になるのです。

もちろんここで述べたことは一種の解釈に過ぎません。基本的な理論はミルチア・エリアーデの『永遠回帰の神話―祖型と反復』に則り、私がそれをサウィンに適用しました。しかし主流のサウィン解釈と大筋で異なるところはありません。このようにして比較文化的視点から眺めると、人類規模での共通点が見えてきて、非常に面白いものですね。


さてさて、ハロウィーンの起源であるサウィンについてお伝えしてまいりましたが、いかがだったでしょうか。遠く距離と時代を越え、古のケルト人の習俗が日本に伝わって来た、と考えるとロマンを感じますね。皆さんも楽しいハロウィーンをお過ごしください。ハッピーハロウィーン!(気が早い)


参照文献

木村正俊、松村賢一編、『ケルト文化事典』、東京堂出版、2015年
James MacKillop, Dictionary of Celtic Mythology, Oxford University Press, 1998
ミランダ・グリーン著、井村君江監訳、『ケルト神話・伝説辞典』、東京書籍、2006年[1992]
ミルチア・エリアーデ著、堀一郎訳、『永遠回帰の神話ー祖型と反復』、未来社、1963年[1949]
バームブラック-Wikipedia, https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%90%E3%83%BC%E3%83%A0%E3%83%96%E3%83%A9%E3%83%83%E3%82%AF, 2018/10/10
サムネイル画像:[ハロウィン]カボチャランタン(ジャックランタン)のイラスト-Frameillust かわいい無料イラスト素材集, https://frame-illust.com/?p=4140, 2018/10/10

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