マシュマロお返事2

マシュマロで再びご質問をいただきましたのでお答えいたします。今回も発音と表記に関するご質問です。

アイルランド語の "m" の音に関するご質問です。かなり細かく調べていらっしゃるようですね。私の記事も調べていただいたようで、恐縮です。

まず、『ケルト文化事典』(木村正俊・松村賢一)と表記が異なっている所は、『ケルト文化事典』の表記の方が正しいと思います。

アイルランド語の発音規則は難しくて、私もまだまだ未熟なので、間違えてしまっていますね。申し訳ありません。

"m" の音に関して、「ム」なのか、「ウ」なのか、それとも「ヴ」なのか、規則性がわからない、という点を最もお気にされているのかと思いますので、ご説明いたします。

まず、アイルランド語には「軟音化」という現象があり、ある条件下で子音の音が変化します。

"m" の場合、それは英語の [v] の音に近く、ただし [v] とは異なり、音を鼻に通す音になります([m] のように。やってみてください)。これを日本語で正しく表記するのは不可能で、「ウ」と書く場合と、「ヴ」と書く場合もあります。なのでどちらであっても同じ音を表しているとお考え下さい。

次に、この軟音化現象が発生する条件は何なのかというと、一つ目に単語中の子音の位置があります。これは単純に、アクセントのある音節以外では軟音になります。アイルランド語のアクセントは通常第一音節にあるので、語頭以外の "m" は基本的に軟音になると考えてよいと思います。ただし、子音の繋がり方によっては、そうならない場合もあるようです(ご指摘されたような間違いはここら辺を完全に把握できていないためです)。

ご質問の中にある「オスカル」vs「オスガル」の問題も、これと同様の現象で、"c" は [g] になります。なので正しくは「オスガル」の方が近いです。しかし私は「オスカル」の表記の方に親しんでいるので、そちらで書いてしまいます。

軟音化の条件の二つ目として、「ミューテーション」という現象があります。これは、ある単語が、次の単語の語頭を軟音化、鼻音化、気息音化させるという効果です。この現象は、例えば一つの名詞句の中で、定冠詞→名詞→形容詞のように影響します。

ミューテーション効果は、単語の格変化の種類によって決まっており、また格と数によって変わります。例えば "ech"「馬」という語は、David Stifterの用語では「男性・o語幹」の変化類に属します。この単語は、主格単数形ではミューテーションなしですが、属格単数形では後続の単語を軟音化させます。しかし属格複数形では鼻音化の効果を持ちます。

"Emain" は「i語幹女性」の変化類に属するため(多分)、主格単数形で軟音化の効果を持ちます。そのため "Emain Macha" の "Macha" の "M" は軟音化しているのです。

"Goll Mac Morna" の場合は、この条件に当てはまらないので、「ゴル・マク・モルナ」の表記で良いと思います。


以上でご納得いただけるでしょうか。難しいご質問ですが、精いっぱい答えさせていただきました。よろしければ、マシュマロの方でご感想をお聞かせいただければ幸いです。ご質問ありがとうございました。

依然としてマシュマロ募集中です。質問以外にも、感想などいただけると大変やる気が出て参りますので、ぜひよろしくお願いします。それではまた。

記事を面白いと思っていただけたらサポートをお願いします。サポートしていただいた分だけ私が元気になり、資料購入費用になったり、翻訳・調査・記事の執筆が捗ったりします。