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【よみか】映画「HELLO WORLD」 ~浜辺美波に実在感がキモかな

ソードアート・オンライン(SAO)シリーズの伊藤智彦監督が書きおろした完全オリジナル・アニメ映画。

「現実だと思っていたこの世界は、ただのデータだった」
「未来から10年後の僕がやってきた」

という設定だけで、SAOファンとしては、「これは見なければ」となるようなデジタルファンタジーなわけで、十分楽しめる。リアルとバーチャル(デジタル)、データと記憶。変えられない過去と変えられる未来。こういう物語が繰り返し作られること自体に、現代社会においてリアルや記憶があいまいになっていることが感じられる。

事故に遭った恋人を救うということは、過去を変えることであり、未来を作り替えることだ。これも、タイムマシンものとして繰り返されてきたモチーフ。この物語は、このモチーフにどんな解を見せるのか?

というような、サイバーな興味はいったんおいといて、この物語はシンプルなラブストーリーでもあるわけで、僕としてはその愛の物語をそのまま楽しむのがオススメな気がする。ヒロインの瑠璃、とてもまっすぐでかわいいし。

ダイナミックだけど安心感のある2Dアニメーションの魅力を、劇場でぜひ。
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  (ネタバレあり)
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今生きていると思っていた時空は、実は過去の時空の中で、10年前の時空。その時空の中ではほどなくできたばかりの恋人の瑠璃が事故にあう。過去を変えて瑠璃を救え、と10年後、「今」を生きる僕は言う。

もし瑠璃を救ったら、彼女は生き続けて「僕」といっしょの10年を過ごすだろうけれど、彼女なしに生きてきた「未来の僕」とはちがう「僕」になってしまう。今の僕が彼女を救うことは、未来の僕を否定することだ。

というような込み入った設定は、この物語の中ではほとんど示されない。シンプルに、瑠璃を救えば今の僕も未来の僕も救われると思って瑠璃を救おうとする。

でもデータの改ざんはデータの管理者から見れば大問題。改変が進むにつれて修復パトロール隊から攻撃を受けるようになる。このあたりは、評価の高い名作アニメ「電脳コイル」からもらってきたモチーフ。「未来の僕」が「過去のデータの中」で過ごす描写はアバターでバーチャル世界にダイブしているので、ソードアート・オンラインと重なるところがある。

これまでのサイバーパンクアニメのモチーフの寄せ集め

という評価があるのもわかるし、伊藤監督もそこは十分わかっていて作ったのだろう。

では寄せ集めだから魅力がないのかと言えば、むしろ逆で、設定を理解するのに悩む必要がなく、物語世界をそのまま楽しめればよいということになるし、物語そのものも、おそらくあえて、あまり複雑にしていなくて、主人公直実(なおみ)とヒロイン瑠璃の出会いも王道、キャラクター設定もテンプレートから大きく外れることがないので、安心して楽しめる。

その意味では、サイバー空間をモチーフにした物語になれていないオトナにこそ楽しめるというか、見てほしい作品でもあるし、慣れている若い世代にはCYBERだったりデジタルだったりするところに過度の期待をせずに(伊藤監督だとそこをみたくなっちゃうけど)、未来のラブストーリーとして楽しめばよいと思う。

さて、気になる「ラスト1秒ですべてが・・・」という予告編のメッセージだけど、ここはあえてネタバレしないけど、

「あまり期待しすぐいない方がいいかも」

と伝えておきます。というか、この「ラスト1秒」がなくても物語は十分成立しているし、楽しめる。次回作、続編が企画されていそうな感じ。

で、なんで楽しめるのかなーと思って考えていたのだけれど、声優陣が、

瑠璃→浜辺美波
直実→北村拓海
未来の直実→松坂桃李

というように、声優ではなく、リアルの俳優を起用しているところが味噌で、これは「階段島」シリーズの映画「いなくなれ、群青」のときと同様。

俳優の良さと、声優との仕事の違いを実感した。

・声優さんたちの滑舌や、キャラクター表現は圧倒的にすごい。

・アニメーションで映像表現にニュアンスが不足していると、俳優さんの台詞回しだと滑舌的に聞きにくいところがある(実写映画だったら十分聞き取れるはず)。

・キャラクターの「実在感」は俳優さんが声を演じた方がぐっと厚みが出る。でもなまなましすぎるところも。

本作で言えば、俳優を起用することで、「今」がバーチャルなデータ出ることをアタマでは理解しつつも、実在感では「今ここにある」という状況を作り出すことに成功している。声優を起用すれば、今がバーチャルであることがもっとわかりやすくなってしまうだろう。

ともあれ、浜辺美波の演じる瑠璃は、ヒロインのわりに台詞は少なめなんだけど、とてもチャーミングで、本当に恋をしてしまいそうだった。

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