小さな優越感

「パーシーさん、これお願いできますか?」


 この言葉にみなさんは何を想像しますか?

 仕事、普通に考えたら仕事のお願いでしょうね、コピーとってきてだとか、得意先に届けてだとか、お茶いれてだとか、出したり入れたりしてだとか、いろいろありますよね。

 お願いできますか?という事は、その人にはできない事を頼んでるわけですから、小さな優越を感じるわけですよ。 

もちろんその人には時間がなくて、暇そうな僕に頼む事もありますけど、僕にしかできない仕事もあるのでそうゆう事を頼まれたときは、小さな優越を感じずにはいられないんですよ。 

とゆーか僕なんかはお願いできますか?と聞かれた時はいつもながら、もしかして

 「私の事、お願いできますか?」

 と、言ってるんじゃねぇかと期待せずにはいられないんですよ。 

というか、僕は基本仕事があればすぐ片付けちゃって、後はずっとダラダラサボるとゆうエリートなんだかニートなんだかわからないスタイルなんですよ。 

だから何か仕事お願いできますか?とか聞かれても、もうそれ三日前に終わってるよ、とゆうか付き合ってくれ頼むから付き合ってくれ、みたいになる事がほとんどなんですよ。 

なぜ終わった三日前に言わないか?とみなさん疑問に思うでしょうが、それにはもうすごい、ものすごい浅はかな理由があるんですよ。 僕の48の殺人技のひとつの、納期ギリギリに提出して上司にやり直しとか言わせないハートブレイクショット、相手はこれを食らうと動けなくなります、納期ギリギリなので焦ってますし考える時間もありませんのでパッと確認してそのまま提出になるのです。 こんな事を言うと、パーシーって最低だとか、パーシーって卑怯だとか、パーシーって変態だとか思うかもしれませんが、まぁまさにその通りなんですけど、言い訳させてもらうと、クレームはきた事がありません。 上司にやり直し指示を受けた時には大体クレームがきます。

とゆうわけで、僕が最低でも卑怯でも変態でもない、もこみちみたいカッコ良いメンズって事はわかってもらえたと思うんですけどね。 もはやメンズを超えてるね、たまに自分はエックスメンの一員じゃないかって思いますもん。 ウルヴァリンのポストも夢じゃないわ。 僕、クールだし。狂だし。 

とまぁ、そんなこんな言ってますけど、僕は

「お願いできますか?」

と言われたらほとんど断れないんですよ。 イエスマンなわけですよ、それに小さくも優越を感じますしね。 

さすがのエックスメンも、優越を求めるがうえ、イエスマンになりすがるんですよ。 

満面の笑みでオーケーだしちゃうんですよ。 それこそ僕の持ち前の悩殺スマイルで女子社員にオーケー出した日には、 

「え?オーケーってどこまでオーケーなんですか?」 

「オールオーケーさ!レッツオーラルコミュニケーション!」

 と女子社員の一人や二人、即ベッドインみたいな展開になっちゃうんですけど。 持ち前の妄想ではね。 うぉう、うぉう、バッドコミュニケーション。 


今日もね、昼に言われたんですよ、後輩に 「お願いしたい事あるんすけど。」 


お断りですよ。


聞く前からお断りですよ。 

さっきまでイエスマンとか言うてた自分が信じられないってくらいお断りですよ。 

男のお願いなんて内容を聞くまでもなくお断りですよ。 大体、男のお願いなんてめんどくさい仕事に決まってるんです。 残業確定的な仕事に決まってるんです。 何でおまえの為にプライベートな時間を削んなきゃなんねぇんだ、生まれ変わってEカップになって出なおして来い!

とまぁ心の中で思いつつも、僕もまぁ鬼じゃないし、無下に断る事なんてできませんから

 「何?」

 と、めんどくさい用件だったらこのまま飛び付きDDT食らわすよ?みたいな感じで冷たく聞くと、

 「あれ?機嫌悪いんすかー?」

 だってさ。 

機嫌悪いよ、悪くした張本人はおまえだけどな、なはははは!と、笑いとばしたいところだけど、 

「悪くない。お願いって?」

 と、めんどくさい仕事だったらこのままフランケンシュタイナー食らわすよ?みたいな感じで聞くと 

「24日の日曜日空いてますか?」

 とか、言うの。

 ふーん、休日出勤させる気ですか。 

僕の心の拠り所である休日さえ潰す気ですか。 と、僕が純粋な怒りに身を震わせながら、あと3秒で髪が金色になって逆立つくらいのところで

  「合コンあるんすよ、人数足りないんでお願いできないかなと。」 

なに?

 「ん?ちょっと待って、なんだって?」

 「いやだから合コンあるんでお願いできないかなって。」 

なになになんだって? 

コイツは何言っちゃってんの?

 「え、なにコン?」

 「合 コ ン ですよ!」 

合コン! 

合コン! 合同コンパ! 

ついにきましたよ、しかもクリスマスイブに合コンですよ、クリスマスに女性と過ごせるチャンスですよ、目の前の後輩が天使に見えてきた。 サンタさんて本当に居るんですね、マジヤバイ、今世紀最大、いや戦後最大のプレゼントだよこれは。 大体、男って奴は~~コンって言葉に否応なしに反応してしまうものなのです。

 合コン、ファミコン、パソコン、ロリコン、ファミコン、合コン、ズッコン、バッコン。

いやはや東西南北コンとつく言葉で溢れてますわい。

でもね、今は結構社員どもが周りに居るんですよ、例えばここで 

「パーシー、行きまーす!」 

と戦闘態勢まるだしで今にも女性と言う名の戦艦を生まれ持ったビームサーベルで落としますみたいに飛び付いてはダサい男じゃないですか。

 だからここは、ちょっと引き気味に 

「え?日曜?んー日曜は図書館で調べものがあるんだけどなー。」 

と、ものっそい男前な声で答えました。 図書館なんてかれこれ五年は行ってないけど。 

調べるなんてゲームのコマンドでしか使った事ないけど。 

「えー、そうなんすかぁ…」

 おいおい、何を落ちこんでるんだ。 無理やり誘えよ。

 おまえはそうゆう性格だろ、俺の目を見ろ、合コンと言う名の戦場に駆り出す兵士の目だろ、空気読め、言え、言っちまえ、図書館なんていつでも行けるじゃないすかって言っちまえ!

 「調べものって結構大事な事なんですか?」

 お、きたきた、多少予想とは違うけど、ここは焦らずセオリー通りに 

「いや、んー、まぁ、そんなに大事な事でもないけどなー…」 

強引に誘えば行けそうとゆう隙を作り釣り糸を垂らす。

 「じゃあ決まりっすね!」


 フィーッシュ!!!! 


よし、最後の締めにとりかかろう。

 「お、おいおい、ったくしょうがねーなー、ま、可愛い後輩の頼みだ。付き合ってやらぁ!」

 「さすがパーシーさん!ノリいい!」 完璧だ。さすが僕、いやさすがおまえだ。後輩。

 死ぬまで後輩でいてくれ。 

頼むから出世しないでくれ、僕を置いてかないでくれ。 

これで仕方なく付き合うとゆー最高の形で合コンに繰り出せる。 そしてなおかつ、硬派でクールな印象を社員どもに与えたであろう。

策士だぜ、自分でも怖いくらいの策士だぜ。 もしも三國志に僕が登場していたら、孔明と並ぶほどの策士だっただろう。 くくく、今日は冴えてる、いや冴えすぎてる、切れるぜ、僕の冴えきった頭脳は半端なく切れるナイフだぜ。 サンタさんもさぞかしビックリだろうよ、プレゼントは合コンだけのはずが 

「こ、こやつ、合コンに行くだけにはとどまらず、自分の好感度までUpさせよったわ!」 

とか思ってるに違いない。 これだ、この優越感……くくく、無敵だ。 無敵だ。今日の僕は無敵だ。 おやおや、上司がこっちに歩いてきよるわ、ふっ、怖くない怖くないぞ! 

ジョジョ、俺は非モテをやめるぞ!

 と、意気込んでいると、上司が僕の肩を叩き、

 「広島の件、頼んだぞ。」 

と一言。

 なに?広島ってなに? 

おいおい広島ってなんだよ? 

なに脳ミソぶっとんだ事言ってんだよ。 

広島ってなんだよ、広島焼きの具にされちまえ。

 あれ?広島?

 知ってる、なんかこの前聞いた覚えがある。 

!? 

はい、思い出しました。 この前の会議で、広島出張を誰にするかみたいなのを議論してたんですけど、まぁ普通なら出張なんて上司が、えーと君と君、とか適当に決めちゃうんだけど、今回は24、25日、クリスマスイブ・クリスマスですから、誰もかれも何かしら予定があって、予定がなくてもクリスマスに出張とか嫌に決まってるんですよ。 それで会議ですよ、しかしいつまでたっても決らない、だからね、僕、言っちゃった。 

「なら僕、予定潰して行きますわ。」

 予定なんかないけどね。 ただ小さな優越感に浸りたかった。 嫌がる仕事を自分から申し出て、みんなから誉められたかった。 そしたらみんなからは歓声はあがるわ、上司からは誉められるわで、もう想定を超える反応にすごい満足したんですよ。 満足したんですよじゃねぇよ。 合コンかえせ。 過去の自分を殴りたい。 サンタさんからのプレゼントが、合コンから広島の旅へと変わった事に憂鬱になりながら、後輩に

「合コン延期、お願いできますか?」 と頼みこむしかなかった。

 あぁ憂鬱だ。

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