カリガ

穴を掘ったり、直したり、本を読んだり、文章書いたり。

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マガジン

  • 金沢妖手帖

    金沢は決して奥の奥を見せない。ほんの少しだけ覗かせるだけである。

  • 月歩堂商品カタログ集

    この世の摩訶不思議を扱う月歩堂の商品カタログです。 販売はカタログからの通販のみ。

  • 金沢小風景

    金沢ハ美シイダケニ非ズ。不思議ナ街デアル。

  • 物語の舞台裏

    物語の舞台裏をご紹介

  • 道化に拍手を。できれば花を。

    就職浪人大里君と山形に住む水島さんのなんともヘンテコな話

最近の記事

小瓶と金平糖

その日の月夜さんの部屋はカエルだらけだった。私は恐る恐る部屋に入った。 「お義姉さん。これは一体なんなんですか?」 月夜さんは私が怖がっているのが面白いらしくクックックックとずっと笑っている。 「あー面白い。やはりあなたと家族になれて良かった。夕子は元気?」 「そりゃあ、もう。すいませんね今日出張で京都に行ってます。」 カエルが1匹私の頭に乗っかり大あくびをした。これが月夜さんのツボだったらしく、フフフフ…フフフと机をパンパン叩いて笑っている。 「元気ならいいの。

    • Baby's in black No.3

      蒸し暑い一日に街中バイクを走らせるとこんなにも消耗するのかと絶望的な気分になる。早く家に帰って冷たいものを飲みたい。炭酸を摂取したいという強い気持ちが頭を何度もグルグルした。 スーパーに寄って炭酸飲料を買って真っすぐ自宅に帰る。郵便ポストを開けると手紙やら広告が珍しくごそりと入っていた。 自室の扉を開けたら取り敢えず窓を全て開けて熱気を外に逃がす。夕方ということもあって気持ちのいい風が少しだけ吹いている。さて…ジャガイモをレンジで温め塩コショウをかけて噛り付いた。私はジャ

      • Baby's in black No.2

        「お姉ちゃんにいい人がいたとはね」 郵便局員が帰った後に風花は意地の悪い目で姉の千鶴を見た。 「優弥さんはたまにお仕事を手伝ってくれるだけですよ。いい人には違いないけれど」 千鶴はきょとんとした声で答えた。風花はため息をついた。 「あ、そうですか。まぁどうでもいいけど。いや、良くないな。私が必死で世界を飛び回っている時に男の人といい感じになるなんて。私なんてこの間、ボーイフレンドが指名手配犯だったんだよ。その前はマッドサイエンティストだったし」 「フウちゃん。男の人とは慎重に

        • Baby's in black No.1

          夏が始まり、ムッとする湿気が絡みついてくる随分不快な季節だった。 私は千鶴さんの家に郵便を届けにバイクを走らせていた。彼女の自宅兼店へたどり着くには山奥の細い道を何度もクネクネ走らせる必要があった。 道は昨日の雨でぬかるんでいたし、雑草は生気を取り戻したように大きくなりつつあった。 千鶴さんの家に着くと車が1台停まっていた「珍しいな」と呟きポストに湯便を入れようとすると玄関の扉が開いた。 「あ、こんにちは。郵便です。」 私はポストに入れようとした郵便をひらひらとやって彼女に手

        小瓶と金平糖

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        • 金沢妖手帖
          16本
        • 月歩堂商品カタログ集
          44本
        • 金沢小風景
          57本
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          5本
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          19本
        • 図鑑
          12本

        記事

          金沢忍法帖4

          「そこの人」 と言われ男はビクリとした。自分の忍びの技術は完璧だと思っていたので、いとも簡単に見抜くとはなかなかやる。流石、金沢市の職員だ。恐らく忍びの技術を見抜く訓練を積んでいるに違いない。ここはひとまず退くか?どうする? 「あなた、出土品を預かりにきた人ですよね。何やっているんですか。早くプレハブに来てください」 「あ、はい」 男はすごすごとプレハブに向かう。プレハブの明るさに一瞬目がくらんだ。市の職員はカラーコンテナを机に置いた。中には錆びた鉄の棒みたいなものが

          金沢忍法帖4

          文化財係橋本正太郎の憂鬱 金沢忍法帖3

          金沢市文化課文化財係橋本正太郎はいらついていた。何故自分が休みであるはずの土曜日にこうして発掘現場の休憩プレハブにいなければならないのか。昨日の夜、急に上司から 「橋本君、明日の夕方なんだけど時間あるかな」 「い、いやぁ明日はちょっと大学の同期と飲みに…」 「あ、そう。じゃあ、飲み会前に頼まれ事をしてくれないかな」 上司の頼まれ事なんて大抵ろくでもないことだとわかっていた。しかし、下っ端の弱いところ。引き受けるしかない。 「え、あ、はい。どういったことでしょう」

          文化財係橋本正太郎の憂鬱 金沢忍法帖3

          金沢忍法帖2

          男は片町までバスで向かった。忍者は格好よく屋根の上を軽やかに飛び移り移動するなんてのは漫画での話で本物の忍者は市民に紛れ込み任務を遂行するのだ。 …というのは建前で、男は隠密部隊の中でヘマばかりするいわゆる窓際族だった。ガマガエルもオオダヌキも出せない。では何故、これほど重要な任務を男に依頼したのか。実は現在、加賀重臣会議が行われており、他の忍びは警備に忙しく手が回らないのだ。 「次は片町」 アナウンスがあったので、男は降車ボタンを押しバスを降りた。片町は往時の賑やかさ

          金沢忍法帖2

          金沢忍法帖

          今宵は新月。忍者寺として知られる金沢市の妙立寺。そこに忍者の格好をした男が一人準備運動をしていた。彼の格好は冗談ではない。彼は本当の忍者なのだ。ただしかし、この格好で昼間にウロウロしていたら市民から白い目で見られるだろう。 男には任務があった。頭領より建設前の金沢21世紀美術館の敷地にある発掘現場で見つかった妖刀を回収しなければならない。今度作られる金沢21世紀美術館の地下は元々金沢城の武器庫だったのだ。新聞では加賀藩が戊辰戦争時に集めた刀数点が見つかったと書いてあった。記

          金沢忍法帖

          6月のある日

          優弥さん、明日お時間がありますか。もし、お時間があったらお手伝いいただきたい事があります。 千鶴さんからメールが来た時、あまりにもびっくりしたのでスマホをお手玉した挙句、つるりと私の手をすりぬけ床に落ちてしまった。急いでスマホを掴み2・3度撫でてからもう一度メールを読んだ。明日はちょうど仕事が休みだったので、「もちろんです」と即答した。 それでは、明日10時にお待ちしています。 ……次の日、千鶴さんの自宅兼お店に向かうと千鶴さんは難しい顔をしてカメラを構えていた。 「

          6月のある日

          贋作士語る

          あの女には借りがあった。だから今回の未完の書?とかいう本の贋作を格安で(ここ重要)引き受けた。俺の工房には古今東西の材料があるからあの程度の本の贋作を作るなんて簡単すぎるくらい簡単だった。むしろ、本物を超えるくらいのものを作ってやろうと思った。そして、あの女に本物と贋作を逆に渡す。あの女は恐らく気づかないだろう。よし、面白いことになってきたな。俺は俄然やる気になって本を作り始めた。 2日後。本は完成し、あの女を呼んだ。一見すると女は礼儀正しく清楚な雰囲気だが騙されてはだめだ

          贋作士語る

          未完の書ー本の行方ー

          「それで、本物の本はどうしたんですか?」 「処分しました。ある意味ものすごく危険なものですから」 優弥さんは一目見たかったなぁと呟いていましたが致し方無いことです。私は優弥さんに全てをお話して胸のつかえが取れました。 「帰りましょうか。今日はありがとうございました。優弥さんがそばにいてくれて心強かったです」 電車の時刻が近づいてきたので店を出ました。日が沈み冷たい夜風が喫茶店の窓をガタガタ揺らしました。 ・・・・ 優弥さんと別れ、自宅につくと私は地下室に向かいまし

          未完の書ー本の行方ー

          未完の書ー 千鶴さんの種明かしー

          私は当初からこの未完の本が何が何でも欲しいということに違和感がありました。当然ですよね。未完のモノをコレクションしている風変わりな人はいるかもしれませんが、聞いたことがありません。 それで考えました。この本にどんな魅力があるのか。まず一つはこの本の作者が高名な人であること。でも、この本の作者がわかる痕跡は見当たりません。私も作者は不明とサイトに書きました。 二つ目はこの本に何か秘密がある。もっと言えば大金が手に入るような何かです。私はこちらの説が有力だと思いました。そこで

          未完の書ー 千鶴さんの種明かしー

          未完の書ー喫茶店にてー

          「あっ喫茶店があります。優弥さんコーヒー飲んでいきませんか?」 駅前まで無言で歩いていたのに急に千鶴さんは嬉しそうに声を弾ませた。 「ええ、いいですね」 千鶴さんが落ち込んでいなくてよかった。私は安堵して喫茶店のドアを開けた。 店内は薄暗かった。店主が疲れた声で「いらっしゃいませ」と言った。私たちは席に着くとそれぞれコーヒーを頼んだ。 「無事に終わってよかったです」 「なんだか…残念でしたね。その、偽物…なんて」 私は口ごもりながら言った。言ったことで彼女が傷つ

          未完の書ー喫茶店にてー

          未完の書ー未完の収集家ー

          「この度はご連絡いただきありがとうございます。月歩堂でございます」 「ああ。わざわざ遠いところからありがとう。早速のところで悪いがね。例の本を見せてくれるかな?」 千鶴さんはトートバッグの中から青い風呂敷に包まれた例の本を出して男に手渡した。男は嬉しそうにパラパラと本をめくっていたが、次第にその顔は曇っていった。 「これは…残念だが偽物だ。悪いが購入する気はないよ」 「そうですか。申し訳ございません」 千鶴さんは深々と頭を下げた。私は驚いて「えっ」と思わず声が出た。

          未完の書ー未完の収集家ー

          未完の書ーその人は海の近くに住むー

          電車を乗り継ぎ未完の書を買い取りたいお客様のご自宅へ向かいました。お客様のご自宅は海の近くにあり、潮風が仄かに香りました。今年は暖冬で冬の気配が全くない奇妙な昼下がりでした。 「ここですか。本を買いたいお客さんのおうちは」 優弥さんが何度も住所を確認し辺りをキョロキョロしました。 「そのようですね」 その家は古い洋館でした。おそらく大正か昭和にかけての建物です。ベルを鳴らすと50代くらいの女性が扉を開けました。 「お世話になっております。月歩堂と申します」 女性は

          未完の書ーその人は海の近くに住むー

          未完の書ー豊丘炭鉱図書館にてー

          その図書館は山中の獣道のような細い道を30分くらい歩いてようやく辿り着きます。今年は雪が降らないので、なんとか歩いて行くことができました。 豊丘炭鉱図書館。かつては炭鉱で働く労働者向けに設立された図書館ですが、炭鉱が閉山した後は特殊な本のみを扱う図書館として一部の図書に詳しい人たちに知られています。 玄関正面に古いカウンターがあり、おばあさんが1人ちょこんと座っていました。自動ドアが開き私が来館するとそれまで眠っていたおばあさんが目を覚まし「いらっしゃいませぇ」と気のない

          未完の書ー豊丘炭鉱図書館にてー