石の本。そして雨の本。1

11月4日

宇都宮へ向かうため私と田所さんは始発の山形新幹線に乗り込んだ。田所さんの荷物があまりにも重そうだったので「私が持ちます」なんて言ったのが間違いだった。一体、何が入っているのだと思うくらいキャリーバッグは重かった。

「大丈夫ですか?」

と田所さんが心配そうに尋ねてくれたが、「大丈夫です。余裕です」なんて強がった。列車が走り出した。前日、田所さんと話す話題をアレコレ考えていたが、キャリーバッグがどこかに行かないように押さえるのに必死でそんなことを話している余裕はなかった。

宇都宮駅前は随分と小奇麗な印象だった。会場まではもう少し歩かなければならない。キャリーバッグをガラガラと引っ張る。途中、何度か段差につまづいた。

「気持ちいい朝ですね」

田所さんは深呼吸した。私も立ち止まり大きく朝を吸い込む。本当だ。晩秋の空気だけでなく紅葉の赤や黄色も一緒に吸い込んでいる気分だった。

深呼吸のおかげなのか会場まで苦も無く辿り着いた。時間はまだ早かったが、いよいよ始まると思うと少しドキドキした。

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