【読了】Q&A 監査のための統計的サンプリング入門

第1編 サンプリングの基礎

○エラー:故意(不正)と過失の両方を含む
・内部統制評価:内部統制からの逸脱
・実証手続:財務諸表の誤謬

○監査証拠の入手方法
・項目の抽出を伴わない方法:分析的手続、ヒアリング、など
・項目の抽出を伴う方法
 ・精査(全数検査)
 ・試査(標本検査)
  ・特定項目抽出による試査
  ・サンプリングによる試査
   ・非統計的サンプリング
   ・統計的サンプリング

第2編 属性サンプリング

Q11. 仮説検定と統計的サンプリング

・内部統制評価→属性サンプリング
・財務諸表監査→変数サンプリング

○サンプルサイズと棄却域上限の決定
・第1種サンプリングリスクおよび信頼度、第2種サンプリングリスクおよび検出力は、サンプルサイズおよび棄却域上限を変えることで調節できる。
・監査人がサンプルサイズおよび棄却域上限のペアを決定するにあたっては、まず有効性を重視(要求信頼度の決定)し、次に効率性を重視(必要検出力法または期待件数法)すべき。いくら効率的でも有効性が乏しいと監査の意味がないから。
棄却域上限:検出された逸脱件数が何件以下であれば帰無仮説を棄却できるか

Q16. 要求信頼度の設定

○監査リスクモデル
AR=IR×CR×DR
AR=IR×CR×DR1×DR2
・サンプリングリスク(DR1)
・非サンプリングリスク(DR2)

Q17.許容逸脱率と許容誤謬金額の決定

○許容誤謬金額
・「重要性の基準値」>「勘定や取引ごとの重要性の値」

○許容逸脱率
・あるコントロールからの逸脱は、必ずしも全てが虚偽記載になるわけではない(リスクに対してコントロールは複数かかっているため)

Q18.サンプル数算定(必要検出力法)

○サンプル数算定に必要な3条件
信頼度条件(第1種サンプリングリスク):達成信頼度≧要求信頼度
検出力条件(第2種サンプリングリスク):予想検出力≧必要検出力
・最適化条件:できる限り少ないサンプル数であること

○サンプル数算定のために必要な数値
・母集団サイズ:母集団サイズが十分に大きい場合、サンプル数に与える影響はないと考えられる
信頼度条件に関わる値:許容逸脱率、要求信頼度
検出力条件に関わる値:予想逸脱率、必要検出力

○反復計算法
・昔は時間がかかり過ぎて実行しにくかった

Q21. サンプル数算定(期待件数法)

・監査実務において、必要検出力を合理的に決定するのは難しい
・期待件数法は、必要検出力を明示的に決める必要がない
必要検出力が高すぎると必要サンプル数が増えて効率性がさがり、低すぎると棄却域上限件数を超えてしまう

○期待件数法
・予想標本逸脱件数=予想逸脱率×サンプル数
・棄却域上限件数≧予想標本逸脱件数

Q22. サンプリングリスクの総量と配分

○サンプリングリスクの配分:棄却域上限によって決まる
・有効性リスク(第1種)と効率性リスク(第2種)を同時に小さくすることはできない

○サンプリングリスクの総量:サンプルサイズによって決まる

○棄却域
・帰無仮説を棄却することにするサンプル実現値の領域。
・棄却域が{1,2,3}であるとき、棄却域上限は3。

Q23. 基礎数値とサンプル数の関係

○必要検出力法(属性サンプリング)における基礎数値
・許容逸脱率:小さくするとサンプルサイズを増やす必要あり
・予想逸脱率:大きくするとサンプルサイズを増やす必要あり
・要求信頼度:大きくするとサンプルサイズを増やす必要あり
・必要検出力:大きくするとサンプルサイズを増やす必要あり
・母集団サイズ:母集団サイズは、サンプルサイズに比べて、復元抽出としてみなせるほど十分に大きなサイズが必要
※期待件数法の場合、必要検出力は不要
※信頼度:危険率α(αエラーの発生確率)の補数、信頼度↑なら危険率↓
※検出力γ:β(βエラーの発生確率)の補数、検出力↑ならβ↓


Q24. 母集団の定義(内部統制評価の場合)

・統制活動の目的(網羅性、実在性、正確性)によって、統制評価手続の対象にすべき母集団は異なる。

○母集団の完全性
・サンプリングの前に母集団の完全性を確認する(連番チェック、件数チェック)。
・注文書を母集団に選ぶとして、注文書の整理方法によっては抜け漏れがないかの確認が困難な場合がある。例えば、受注番号の連番順に保存されてない場合、システムとマニュアルが併用されている場合。

○階層化と分割
・母集団の階層化:母集団を下位集団に分割して、全てサンプリングを適用する
・母集団の分割:母集団をいくつかに分割して、サンプリングを適用する集団と他手続を適用する集団を分割する

Q25. エラーの定義(内部統制評価の場合)

・エラーとは、統制記述から逸脱していることではなく、統制目的が達成されないこと。統制目的に留意しないと、統制記述からの些末なズレでエラー扱いにするという形式的な判断に陥ってしまう。

例えば、
統制記述「標準販売単価以外の価格を適用する場合には、個々の受注について営業部長が個別に事前承認を行い、注文請書に承認印を押す」
に対して、
監査手続「標準販売単価以外の価格が適用された受注に係る注文請書からN件をサンプルとして抽出し、営業部長の承認印があることを検証する」
を実施し、
・発見事項A「N件の注文請書には、営業部長の承認印が捺印されていなかった」
・発見事項B「N件の注文請書には、所定の場所ではないところに承認印が捺印されていた」
・発見事項C「N件の注文請書には、営業部長の承認印が捺印されていなかったが、稟議書が作成されていた」
・発見事項D「N件の注文請書には、営業部長の承認が事後承認となっていた」
が得られた場合を考える。

もし、
統制目的「販売単価が、会社の方針に基づき、適切な承認を得て決定されていること」
ならば、A〜Dを逸脱として扱うことはできない。適切な承認を得て決定されていたが、捺印を忘れたり、別の方法で承認されたりしている可能性があるため。
もし、
統制目的「標準販売単価以外の価格を適用する場合には、個々の受注について営業部長が個別に事前承認を行い、注文請書に承認印を押すこと」
ならば、A〜Dは全て逸脱の扱いになる。

Q26. 計画段階における文書化(内部統制評価の場合)

監査調書の目的
・監査の効果的かつ効率的な実施とその管理
・監査責任者が監査補助者に支持および監督する手段
・監査意見形成の根拠
・業務遂行(職業的専門家)の証拠
・次期以降の参考資料

監査プログラムの構成
①監査目的:立証すべき監査要点の定義
②内部統制手続の詳細:統制記述
③監査手順(計画段階):監査調書を作成するため
・統計的サンプリングにより立証すべき監査要点の定義
・サンプルに適用する監査手続とエラーの定義
・母集団の定義(期間、入手ソース、項目数)
・サンプルサイズ算定用パラメータの決定
・サンプルサイズ&棄却域上限件数の導出
・母集団からのサンプル抽出方法の決定(どうやって無作為抽出するか)
④監査手順(実施段階):実施チェックリストを作成するため
・母集団の有効性確認(完全性)
・計画で決定した抽出方法に従うサンプリング
・サンプリング結果に基づく証憑の収集
・監査手続が実施できなかったサンプル差し替えなどの検討
・追加的サンプリングの検討と実施
⑤監査手順(評価段階):評価調書を作成するため
・推定上限逸脱率の算出、許容逸脱率との比較
⑥結論:
・結論の記載

監査調書:監査プログラムの③に従って作成
①立証すべき監査要点
②適用する監査手続とエラーの定義
③母集団の情報
④サンプルサイズ算定のための条件値
・信頼度条件(αサンプリングリスク=有効性に欠けるリスク):要求信頼度、許容逸脱率(許容誤謬金額)
・検出力条件(βサンプリングリスク=効率性に欠けるリスク)必要検出力、予想逸脱率(予想誤謬金額)
⑤サンプルサイズと棄却域上限件数(サンプリング区間)
⑥サンプルの抽出方法

実施チェックリスト:監査プログラム④に従って作成
①母集団情報の入手
・母集団情報の原本名
・保管場所
②母集団の有効性確認
・項目一覧
・母集団件数
・完全性:連番チェック、合計値チェック、異常値チェック
③サンプル抽出
・サンプル抽出過程記述
④証憑の依頼と入手
・依頼証憑名
・依頼日
・入手期限
・証憑の有効性確認
⑤監査手続の適用
⑥代替的監査手続の必要性検討
⑦追加的サンプリングの必要性検討

評価調書
①推定逸脱率と推定上限逸脱率の算定
②追加的監査手続の必要性検討
③結論

28. 無作為抽出(属性サンプリング)

○無作為抽出の方法
・単純無作為抽出法:乱数法など
・系統的抽出法(systematic sampling):固定間隔抽出法など
・層化抽出法:比例割当法、最適割当法(ネイマン割当法、一定値以上は精査&一定値未満は試査)
・多段抽出法:単純無作為抽出を階層化して実施

○発見サンプリング
・属性サンプリングの対象となる属性が極めて重要な場合、要求信頼度(95%以上)を高く、許容逸脱率を低く(5%未満)することがある。
・発見サンプリングは、高い信頼度で、少なくとも1件のエラーを探すためのサンプリング方法。

29. 母集団データ入手時の留意点

①計画段階
・必要なデータ項目の洗い出し
・入手可能性の確認
⇒必要なデータが入手できない場合、入手可能な範囲で監査目的が達成できるか検討し、必要に応じて監査手続を集成する。
②依頼段階
・入手データの特定:対象のシステム、データベース、抽出条件(期間、項目、件数)、データサイズ
・入手方法の決定:オンラインストレージ
・不完全なデータが含まれる可能性を考慮して、余分に多く依頼する
③取込段階
・原本(受領データのオリジナル)の保全
・取込後の整合性検証(件数、数値データ項目の合計値、など)

Q30. テスト実施時の留意点

①適切な監査手続の選択:実査、確認、突合
②エラーの定義
③監査手続の適用:適用できない場合は代替的手続を適用する
④テスト結果の評価

Q31-36. 結果の評価

○母集団の特性
・属性サンプリングの検証により、①だけではなく②も分かる。
①母逸脱率は許容逸脱率よりも小さいと推定できるか
②母逸脱率の上限値=推定上限逸脱率(ULD)=推定逸脱率(標本逸脱率)+サンプリングリスクに対するアローワンス
・サンプリングリスクがあるため、標本逸脱率(sample deviation rate、今回抽出したサンプルにおける逸脱率)は、そのまま母逸脱率とみなすことはできない。
・例えば、許容逸脱率5%のもとで、標本逸脱率が4.5%でも、たまたま逸脱していないサンプルを抽出してしまっただけで、母逸脱率は5%を超えているかもしれない。

○2種の属性サンプリング
・採択サンプリング:標本逸脱率≦棄却域上限件数のとき、母逸脱率≦許容逸脱率とみなす。αサンプリングリスクを考慮していない?
・属性推定サンプリング:ULD≦許容逸脱率のとき、母逸脱率≦許容逸脱率とみなす。αサンプリングリスクを考慮している。

○計算の厳密性と実行安定性
↑厳密・不安定(高負荷)
・超幾何分布
・二項分布
・ポアソン分布
↓非厳密・安定(低負荷)

○「実施基準」によるサンプル数25件の解釈
・サンプリングが復元抽出だとみなせるくらいに母集団サイズが大きい場合、90%の要求信頼度(αサンプリングリスク10%)のもとで、ULDは、
サンプル20件中逸脱0件であれば、10.9%
サンプル25件中0件であれば、8.8%
サンプル25件中1件であれば、14.7%

○追加的サンプリングの検討
・サンプリングによる監査手続で棄却域上限件数よりも多くの逸脱が検出された場合、「棄却できない」と結論するのではなく、まずは必要検出力と予想逸脱率の値が適切だったかどうか検討する。
・適切ではない場合、βサンプリングリスクを下げるため、必要検出力をより高い値に再設定する。また、予想逸脱率をより高い値に再設定する。その後、サンプルサイズと棄却域上限件数を再計算する。
・追加サンプル数を再計算したら、サンプル抽出コストを検討し、実施の要否を決める。
・追加的サンプリングを実施しない場合、監査手続の変更と、監査報告書への影響分析が必要になる。

○監査手続の変更方針
・サンプル数を拡大する
・他の代替的な統制活動に対する評価を行う(当該の統制活動には依拠できないと判断する)
・実証手続を増やす

第3章 金額単位サンプリング

Q38. サンプル数算定(金額単位サンプリング)

○金額単位サンプリング
・属性サンプリング(逸脱率に対する検定)を金額サンプリング(金額に対する検定)に適用したもの
・母集団に含まれる誤謬金額に対する結論を得る手法
・財務アサーションのうち「実在性」の監査に有効

○基礎数値
①母集団の合計金額
②予想誤謬金額:属性サンプリングにおける予想逸脱率に対応
③許容誤謬金額:属性サンプリングにおける許容逸脱率に対応
④信頼度条件(αサンプリングリスク=有効性に欠けるリスクに関係):要求信頼度
⑤検出力条件(βサンプリングリスク=効率性に欠けるリスクに関係):必要検出力

Q39. 母集団の定義(実証手続の場合)

○監査要点(財務アサーション)によって、実証手続の対象にする母集団は異なる。
・実在性:仕入先別買掛金一覧
・網羅性:研修報告書

○母集団の分割
・一定額以上は精査、未満はサンプリング

Q40. エラーの定義(実証手続の場合)

・形式的な判断に陥らないように、監査の手続と目的の関係を考慮してエラーを定義する。
・監査の目的は、「BS上の金額が一致してないこと(得意先元帳上の債権残高と、確認状で取り寄せた得意先の認識している債務残高が一致してないこと)」ではなく、「BS上の売掛金が顧客との取引に基づいていないこと」。
・単に一致しているかどうかではなく、正しい基準(検収基準など)で計上されているかを検証する。

Q41. 計画段階における文書化(実証手続の場合)

→Q26参照

Q42. 無作為抽出(金額単位サンプリング)

○金額単位抽出法
・金額単位サンプリングのうち、系統的抽出法の1種。
・母集団リストに累積金額欄を作成し、累積金額額が一定値を超えるごとに1件サンプルを選択することを繰り返す。
・系統的抽出法なので、無作為性は低い
・無作為性を上げるために、最初に乱数により母集団リストを並び替える

Q43. 結果の評価(誤謬あり、差異率100%)

○金額単位サンプリングにより導出可能な母数
・推定誤謬金額(projected misstatement)
推定上限誤謬金額(ULM; Upper Limit on Misstatement)=推定誤謬金額+サンプリングリスクに対するアローワンス金額
※監査人は、母集団の誤謬金額を過小評価することを避けるため、サンプリングリスクを考慮して、アローワンスを見込んで母集団誤謬金額の上限値を推定する。

○信頼性係数λ(Reliability Factor):ULMとULDの関係
・λ=ULD×サンプル数
・ULM=λ×サンプリング区間(円)

Q47. 結果の評価(監査手続の修正・監査意見の検討)

・実証手続の結果、推定上限誤謬金額ULMが許容誤謬金額よりも大きいという結論が得られた場合は、母集団特性の予備評価を修正する必要性を検討する。
・もし他の監査手続の結果から、重要な虚偽表示がないことを示せなければ、監査人は財務報告に重要な虚偽表示があると判断する可能性がある。

○監査計画
・統制活動に依拠することを前提に、実証手続の範囲を決定し、予備的評価を実施する。
・実証手続を実施した結果、許容誤謬金額を下回っていれば、監査人は予備的評価を結論できる。上回っていれば、統制活動に依拠することができなくなって予備的評価を使えなくなり、母集団に対する結論が導けなくなる。

○監査手続の修正方法:以下を組み合わせる。
・サンプルサイズを拡大する
・母集団を分割する(統制活動に依拠できる/できない集団)
・他の監査手続を実施する

○虚偽表示の金額
・推定誤謬額の内訳
検出されて訂正済:虚偽表示額から除外
検出されたが未訂正:虚偽表示だが除外事項にできる
検出されていない:虚偽表示かつ除外事項にできない

Q48. 実施・評価段階における文書化(実証手続の場合)

→Q37参照

第4章 サンプリングのための確率統計学

Q49. 統計的サンプリングにおいて用いられる確率分布

○超幾何分布(HYPGEOMDIST):非復元抽出
↓母集団サイズが十分に大きい
○二項分布(BINOMDIST):復元抽出
↓逸脱率が十分に小さい
○ポアソン分布(POISSON):サンプル数×逸脱率≦5
○正規分布(NORMDIST):サンプル数×逸脱率>5

57. 帰無仮説の形式

・H0は、「許容逸脱率≦母逸脱率」ではなく「母逸脱率=許容逸脱率」にすれば十分である。なぜなら、H0「母逸脱率=許容逸脱率」が棄却できれば、H1「母逸脱率<許容逸脱率」と結論できるため。

第5章 ケーススタディ

属性サンプリング

金額サンプリング

第6章 Appendix

○固有サンプル数(発見サンプリングと属性サンプリングの接点)
・母集団サイズが小さい場合、母集団サイズの増加に伴い必要サンプル数も増加するが、母集団サイズがある程度を超えると、母集団サイズに関わらず必要サンプル数は一定になる。
・母集団サイズが十分に大きく、予想逸脱率が0%の場合、必要サンプル数は要求信頼度と許容逸脱率の2値のみから決定できる。逸脱が検出される可能性が低い(βサンプリングリスクは無視できる)と想定すると、棄却域上限件数を0件(αサンプリングリスクを最小化する値)だと考えるられる。

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