【読了】「AI監査」の基本と技術: データサイエンティストの活躍

この本の「AI監査」というのは「会計監査にAI技術を応用する」という意味合い
なので内部監査にそのまま適用できるかは要検討


序:企業が信頼できる生成AIを利用するために必要なこと

生成AIの使用に伴うリスクが雑多に挙げられている
取締役や経営陣はリスク管理してねって話

第1部:監査の変革に向けられたロードマップ

VRとかブロックチェーンとか取り敢えず進出単語を並べてる感じ

1 現時点で実施されている監査

2 既に実現しつつある未来の監査

3 中長期を展望した新しい監査像


第2部:AIを利用した財務諸表監査

1 監査と監査証拠の基礎、監査プロセス

経営者の財務諸表に対するアサーション(主張・言明)を立証するのが監査人の役割分担

監査手続
特定のアサーションに対して、監査技術を適用して、監査証拠を収集し、確からしさを判定すること

監査リスクアプローチ
監査リスク(=重要な虚偽表示リスク×発見リスク)を合理的に低い値に抑え込めるように、重要な虚偽表示リスクを値を評価し、それに応じた発見リスクの値を決定する
※重要な虚偽表示リスク=固有リスク×統制リスク

監査プロセス
①契約プロセス
・企業から監査の依頼を受ける
・パイロットテストを行う
・監査契約を締結する
②実施プロセス
・監査計画
・監査手続の実施(監査証拠の収集)
・アサーションに対する判断
・監査意見の作成
③報告プロセス
・監査報告書の原案を作成(監査チーム)
・監査報告書の原案を審査(監査チームから独立した審査担当者)
・監査報告書の最終化&承認、署名、提出

2 監査手続・監査技術へのAIの適用

監査手続の分類
○分析的手続
○実査(現物実査):現金、手形、証券などの現物を監査人が目視で確認すること
○確認(残高照会):金融機関や取引先に対して監査人が直接問い合わせて書面回答を得ること
○観察:他者が実施するプロセス(コントロールを含む)を監査人が目視で確認すること
・立会(実地棚卸立会):観察対象が実地棚卸プロセスである場合
○突合(Reconciliation)
・証憑突合
・計算突合(再計算)

2.1 現預金の残高照会
①被監査会社等から資料を入手
・現預金勘定の残高:会計システムから自動取得
・金融機関の残高:オンラインバンキングで自動取得
・為替レート:Webサイトから自動取得
②明細データの加工
・PDFなどからOCRで読み込み
・外貨建預金残高に為替レートを乗じて残高を再計算
③突合
・金融機関と現預金勘定の残高を突合
④推移分析
・前期比較などにより増減理由を分析
⑤調書化
・自動作成

2.2 実地棚卸立会
・写真測量法:ドローンとデジタルツインの活用

2.3 突合
・証憑突合(Vouching)
・計算突合、再計算(Footing, Computation)
①会計システムから取引を全件取得
②テスト対象のサンプリング:全件精査できる場合は内部統制の有効性に依拠する必要がなくなる
③サンプルについて現場からの証憑収集
④照合結果の出力

2.4 分析的手続
①一時点において、複数のデータ間の関係性から推定値を算出し、実績値との乖離を検出する
②一定期間において、特定のデータの推移(経時変化)を見て、異常を検出する

3 監査計画へのAIの適用

3.1 監査計画の立案
・AIによる情報収集
・データベース化

3.2 内部統制評価、リスク評価
・業務担当者に対するヒアリングではなく、業務システムに対するプロセスマイニングにより、業務プロセスと内部統制の理解(文書化)、運用実態の評価(時系列分析による非効率や異常の発見)が可能になる
・リスク評価にあたって、数理モデルが導入される(例:金融工学によるリスクの定量化)
・内部統制の課題
 ・外部委託、M&A、グローバル化などにより、統制環境が複雑になると、グループガバナンスが難しくなる
 ・法令規制は年々厳格化していく
 ・内部統制を担う人材は慢性的に不足している

4 監査における新たなテクノロジーの利用

4.1 不正会計検出
・不正検出システムが実用化すれば
 ・契約プロセスの段階で、不正会計リスクを想定できる
 ・実施プロセス中に、不正を発見できる

4.2 異常仕訳検知
・機械学習モデルを使って膨大な仕訳データを分析し、人間が従来の仕訳テストで想定できなかったリスクを把握する
・仕訳データ全件を学習データとして使い、機械学習モデルを獲得し(法則性を見出し)、個々の仕訳が異常か正常かを判定する

4.3 開示分析
・財務諸表上の数値と、その他の開示書類(注記など)上の数値の整合性チェック
・記載文章(KAMなど)がボイラープレート化していないかのチェック

5 完了手続へのAI適用

完了手続のステップ
・監査報告書の原案を作成(監査チーム)
→監査意見のドラフトを自動生成する
・監査報告書の原案を審査(監査チームから独立した審査担当者)
→ドラフトを自動レビューする
・監査報告書の最終化&承認、署名、提出


6 「新しい監査・会計実務者像」とは

変わること
・ジェネラリストは減り、スペシャリストによる分業化が進む
・機械(プログラム)がしたほうがいい仕事は機械を使うようになる
・試査による定期監査から、精査による継続的監査へ

課題
・開示業務にかかる会計データの加工や分析は、多くの時間がかかる処理であったが、ツールの普及により効率化されてきている(しかし、データの標準化には時間がかかり、依然として膨大な前処理が必要)
・データの信頼性(正確性・網羅性・正当性)を検証/担保するための技術は発展途上

講義

①デジタル経営の成熟度(河本薫)

1.0:情報処理の自動化・効率化(システム化)
2.0:現状の業務プロセスにおける業務改善(故障予知による予防保全、画像判別による検品)
3.0:業務プロセスの再設計、組織の全体最適化
4.0:ビジネスモデルの変革

・デジタル技術の活用は、技術不足の問題ではなく、経営の問題(技術自体は他社から借りてこられるため)
・変革を阻んでいるのは現状維持を願う人の心(マニュアルな勘と経験を重視してきた現場担当者、自部門を率いてきた管理職、従来のビジネスモデルに愛着がある経営者)
・組織員の心を変革できるのは経営者だけ

②コンピュータビジョン技術

・画像解析
 ・画像計測:特に奥行き情報の再現
 ・画像認識
・画像合成:拡張現実

③大規模データ

大規模データ
・件数が多い
・属性(次元)が多い

スパース推定:線形回帰やロジスティック回帰(不正のあり/なし)などにおいて、回帰係数を推定する(必要な説明変数を絞り込む)方法

関数データ解析:本来は離散的に測定される時系列データ(検査したタイミングのみ測定値が得られる)を、連続関数に変換して分析する方法

④因果探索

相関関係があっても、因果関係があるとは限らない
因果関係の推測において、最も仮定の少ない方法は、ランダム化実験である
しかし、現実社会でランダム化実験を行うことは難しい

他の因果推論技術では、以下の2個の仮定を前提とする。
・因果の方向が事前に把握できている
・全ての未観測交絡因子(unmeasured confounder)が事前に識別できデータが取れる

因果モデルと予測モデルを組み合わせることで、制御モデル(介入により何をどのくらい変化させるべきか)が構築できる

⑤EBPM(根拠に基づく政策立案)

政府統計
・国勢調査
・GDP統計
・四半期速報/年次確報値

従来からもビッグデータはあったが、標本集団に偏りがある(代表性に欠ける)という問題があった(例:視聴率)
インターネットの普及に伴うデータ収集技術の発展や、統計学理論の発展により、サンプルの偏りを無視できるようになってきている

EBPM(Evidence-Based Policy Making)
・EBM(根拠に基づく医療)と同様に実証分析に基づく
・経験と勘(Episode-Based)ではなく、データ分析結果を根拠として政策を行う

⑥異常データが少ない場合

・データに基づいて知見を得たい場合、異常データが少ないと分析が難しい(むしろ、古典的な確率論を使ったほうが、異常発生率を的確に見積もれる場合あり)
・機械学習は統計学の上位互換ではない(双方に得手不得手がある)

データサイエンスの2大手法
・統計学的手法(数学)
 ・仮定を置く:観測値は独立同一に正規分布に従う
 ・性能評価も数学的:推定誤差の確率分布(量的変量)、誤判別率(質的変量)
 ・サンプルサイズが小さくても、機械学習手法と比較すると、分析結果が安定する
 ・解釈が容易(数理モデルが、機械学習手法と比較すると、単純)
・機械学習手法(アルゴリズム)
 ・大量のデータを扱える(サンプルサイズが小さいと分析結果が信頼できない)
 ・観測されなかったデータについて考察するのは不向き(ブラックスワン=未実現リスクの軽視、リーマンショック前は「過去データでは一度も債務不履行になっていない金融商品は、今後も債務不履行にならない(なるとしても低確率すぎて考慮する必要がない)」と信じられていた)

リーマンショック時に話題となった金融工学の問題点は、実は主観に過ぎない値(前提条件を恣意的に変えることで操作できる値)を客観的な値として見せかけていた(正当化していた)こと
例えば、損失の発生確率や金額は、現在からどれくらいまで過去に遡ってデータを含めるかに大きく依存するため、発生確率や金額が分析者の期待通りになるように操作できてしまえた

何故その値が観測されなかったのか?
・測定の原理的に観測が不可能
・何らかのバイアスにより観測されない
・観測されうるが確率が低すぎて今回は観測されなかった

美人投票
「誰が美人なのか(リスクを正確に把握する)」よりも、「他の多くの人が美人と思うのは誰なのか(他の多くのトレーダーがどのようにリスクテイクしているのか)」を推測するほうが当たる

⑦不正会計検出システム

利益調整(利益捻出/利益圧縮)行動にかかる研究
・インセンティブ報酬仮説
・ビッグバス仮説:経営者が業績のV字回復を演出するために行う
・財務制限条項(Covenants Clause)への抵触を避けるため
・上場前、資金調達前、買収を受ける前などに業績をよく見せかけるため
・利益ベンチマーク仮説:アナリスト予想や業績目標を達成するため(ベンチマークを境界値として分布が歪む)

会計発生高
・会計利益から営業CFを控除した指標
・CFの裏付けがない利益(発生主義を悪用して調整された利益)の総額を示す
・いくつかの財務変数から会計発生高を予測し、会計発生高の実績値との差を求めることで、裁量的会計発生高(裁量的な行動により生み出された会計発生高)を把握できる

利益調整の典型例
・費用支出額の恣意的な変更:研究開発費、宣伝広告費、人件費など
・押込販売・架空販売

Beneishプロビット分析(Mスコア)における利益調整関連8指標
・売上高受取債権比率の上昇
・粗利益率の低下
・ソフトウェア資産の割合の上昇
・売上高成長率の上昇
・減価償却率の低下
・対売上販管費率の上昇
・対総資産会計発生高比率の上昇
・財務レバレッジの上昇

Dechowロジスティック回帰分析(Fスコア)における28指標
・会計発生高の質
・財務パフォーマンス
・非財務情報
・オフバランスシート情報
・市場関連指標

上記のような統計モデルを使った不正会計検出では、検出力は50-70%程度
AIアルゴリズムを使った不正会計検出も研究されている
以下の指標の説明力が高い
・裁量的会計発生高
・監査人の交代
・Big4が監査人
・受取債権
・アナリスト予測の達成
・期待外従業員パフォーマンス

財務データだけでは検出力の高いモデルを獲得するのは難しい
非財務な定量的データや、定性的データも説明変数に加える研究が行われている

⑧会計士とAI

・シンギュラリティ:AIが人間の能力を超える時点

機械学習の用途
・教師データが必要
 ・予測(Regression)
 ・分類(Classification)
・教師データが不要
 ・クラスタリング(Clustering)
 ・次元圧縮(Reduction)

機械学習の手法
・教師あり学習:通常、複数の手法を組み合わせる(アンサンブル学習)
 ・線形回帰、ロジスティック回帰、SVM
 ・決定木
 ・単純ベイズ
 ・k近傍法
・教師なし学習
 ・クラスタリング

⑨木を見て森を知る

・学習データ:特徴量と結果ラベルのペア
・機械学習モデル:機械学習により獲得されたパラメータのセット

機械学習コミュニティでは、人工知能(AI)という言葉を使うのを避けている
「知能」という言葉が、意識や自我を連想させ、不要な議論を招くため

最初の層では局所的な特徴が各識別器に入力される
・N-gram(自然言語処理)
・SIFT特徴量(画像認識)
・メルケプストラム(音声認識)
最後の層に至るに従って、識別判断が総合されていく

⑩バンディット問題

・確信を持って判断できるほど判断材料(インプット)が得られない場合、どうすれば過去の知見を最もよく活かせるか?
・「複数の選択肢があり、選んだ選択肢についての結果のみを得られる(選ばなかった選択肢の結果は不可知)」という前提条件のもとで、「選択を繰り返して、累積利益を最大化/累積損失を最小化する」ことを目指す問題
・より良い選択肢を見つけるための「探索」行動と、既に良いと分かっている選択肢を選んで利益を得る「活用」行動のバランスが必要となる

・UCB方策
・トンプソン抽出
・ベイズ最適化
・最適腕問題:バンディット問題のバリエーションのひとつで、最適選択肢の特定のみを目指す問題(報酬最大化/損失最小化は不要)。代表例はA/Bテスト。

⑪日本におけるデータサイエンティスト育成

補論:Society5.0におけるアジャイル・ガバナンスとトラスト

付録

AIはデータ(0/1)から情報(意味ありげ、解釈可能)を作り出せるが、情報から監査証拠を作り出せるのは会計士である

不正会計検出の統計モデル

・倒産予測指数(Zスコア)
・プロビット分析(Mスコア):正規分布関数を使う
・ロジット分析:ロジスティック曲線を使う
・Fスコア

参考:EYサイトにおけるAI監査


AI監査ツール


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?