ヤマギシの軌跡

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ノート

2011年、夏 その3

夢にまでみたカブトムシが、目の前にいる。しかも三匹。
おれは、息すらしていなかった。というかできなかった。

目の前にいるカブトムシは、ちょっと息を吹きかけただけで飛んでいってしまうんじゃないか。そんな気がして息ができなかった。

はしゃぐ隆成を制し、おれは息を必死に殺してカブトムシに近寄った。
心臓の鼓動が、自分の耳にまで聞こえる。網を持つ手が震える。

足を擦るようにじりじりとカブトムシに近づ

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2011年、夏

蛍光灯に照らされた台所で、水色の網に黙々とバナナをいれる。
青いビニールテープで口を縛って、さらに大きな袋につめる。木に巻き付けられないと困るから、テープは長めに。長すぎるぶんには問題ない。

「ちょっと焼酎ちょうだい」

まだ6時だってのに親父は、たっくんとおじいちゃんと一緒に酔っぱらってる。

「カナタ、あんまりたくさん使うなよォ」
「ムシにあげるために買ってきたんじゃないんだからな」

親父

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タキタの乳首をみた

みてしまった。おれはタキタの乳首をみてしまった。

しかし悪気はなかった。
それは小学校6年の夏、プールの着替えのときだった。

当時は男女の着替える場所が、多目的室と教室とで、なぜか毎週入れ替わる。
隔週で場所が決まっていたのかもしれないが、そんなこともすっかり忘れ、教室の隅のカーテンに絡まってくるくる回っていたおれは、今週の着替える場所が、どっちなのかを確認しそびれてしまったのだ。

総計23

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将棋に負けた言い訳を2000字で徹底的に説明した

きのう、今働いている塾の室長・岡田と将棋をやったら、こてんぱんに負けた

俺にとって将棋は小学生以来で、それもルールすらままならない4つ下の弟としかやってこなかった。
弟には「将棋を教える」という体で適当な駒を動かさせ、その隙を突いてフルボッコにすることで、「兄としての威厳」をかみしめていたのだ。

【備考:弟と将棋をたしなんだ日々】
ぼく「この、"ギン"、っていうのは、ななめと、前にいけるんだ。

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「モテキ」に触発されて”おじさんアイコンのユーザー”に会ったらおじさんが出てきた話

【頭がバグっていた時の話】

「モテキ」をご存じだろうか。
いや、この際ご存じでも存じ上げなくても結構で、かく言う私も原作をみていないので「ご存じだろうか」などと高圧的に詰問する筋合いはない。
もうモテキの概要でもなんでもないが、「この話をするうえで必要なエッセンス」だけを抽出してまとめると、

「こじらせサブカル男子・藤本幸世(森山未來)、twitterで知り合った“おじさんアイコンのユーザー”

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おもいで-スマホがほしい

スマホがほしい。ほしくてたまらない。

高校入学を前にした友達は、高校入試が終わると同時にガラケーからスマホに買い替えたり、新しくスマホを買ってもらっていた。
俺は、買ってもらえなかった。

同じ高校に行くことが決まったまっちゃんは、スマホを持ってる。いまはメールではなく、「ライン」というチャットのようなもので連絡をとっているらしく、春から同じ高校に通うことになる他の中学の人たちともすでにこのライ

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仙台城という城が、ない

仙台には、仙台城という城が、ない。ないのだ。

いや、正確には「あった」のだが、第二次世界大戦時に焼失してしまい現在はその跡しか残っていないのだ。

ふざけんな
ねえのかよ!!なにが仙台城"跡”だよ!!申し訳程度に書くなよ!!よく読んでなかったじゃねえか!!

それも、俺は跡地をみて初めてないことに気がついたのだ。散々肩透かしを喰らった俺はもう、仙台城に対する憤りを抑えきれない。

険しい坂道を登

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おもいで-嵐が嫌いだった

あの子は、嵐が好きだった。

小学校5年の春、密かに想いを寄せていたあの子は、嵐が好きだった。

僕ではなく、嵐

足がはやくてめちゃくちゃモテたのがのっくんで、出席番号も頭の良さも一番だったのが青木さんで、いつも飲めない給食の牛乳を机に何本も忍ばせていたのが八子ちゃんで、その八子ちゃんが大切に育てていたカナヘビに無理やりミルワームを食べさせて窒息死させたのが僕だった。

眼の前でおこること、手に

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2018年に置き去りたいおもいでー大学不合格体験記

今年においていきたい、大学受験のことについて書きました。たぶんこのさき一生この話をしないと思います。

受験が終わってからはや二年、べつに根に持ってるわけでもないのですが、3年以上たってもなお受験の話をしているともう過去の栄光にすがろうとしてる老害感すごいし、受験終わった直後に受験ネタで笑い取ろうとしても強がってるようにしかみえません。これくらいの時期がちょうどよいのではないでしょうか。

因みに

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おもいで-卒業式

小さい頃から、自分ひとりだけが取り残されるのが怖かった。

風邪でひとりだけ遊びに行けない日の家の中とか。

皆がすやすやと眠る中、自分ひとりだけが寝付けない修学旅行の夜だとか。

皆が何一つ苦労せずにできること。

そんな当たり前のことができず、ひとり取り残される。

その感覚が怖かった。

そして僕はこの瞬間、またひとり取り残されそうになっている。

今日は小学校の卒業式だ。

6年間過ごした

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