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上石神井でモロッコ気分を

 最近はますます上石神井駅界隈を面白く思っている。歩くだけで「こんなお店が」という発見が多い。緑豊かな石神井公園駅周辺は、高架化と道路拡張で便利になり、近年、街としての魅力を高めた。一方で、悪いことではないが、昔から個人でやってきたお店には厳しい印象もある。

 上石神井駅近く、「RAYAN RESTAURANT(ライアン レストラン)」の水色の看板には前から気づいていた。入口に看板とスツールが出ていて、おしゃれな感じだ。ライアンは「モロッコ&地中海料理」の店で、原宿・表参道あたりにあれば違和感はないのだが、「なぜ上石神井に?」と疑問はわいていた。

 モロッコと言えばアフリカの国で、「アラブ世界の一員にしてヨーロッパ文化の影響を受けている」程度の知識しかない。行ったこともなく、料理にも食べた記憶がなかった。
 ライアンレストランは奥に細長く延びた間取りで、異国情緒を意識した内装と、テーブルは5つ置かれている。初めて入ったのはランチタイムだったが、席が埋まり始め、電話ではさかんに注文が入っていた。
 接客は日本人の若者が担当していて、調理はシェフのハッサンさんが一人でやっている。詳しい話は出来なかったが、モロッコ出身で、大使館で働くため来日された方らしい。

 料理は「タジン鍋」をお願いした。取ってしまうと分からないが、とんがり帽子の蓋が特徴で、肉や野菜のうまみが鍋の中に封じこまれる。香辛料の強いエキゾチックな料理を想像していたが、実に繊細。これがモロッコ料理の特徴なのか、日本人の口にあわせたのかは分からない。ワインがあれば飲みたいと思ったが、「ハラルレストランのためお酒の提供は出来ない」とのこと、当然である。
 私が食事している最中は、テイクアウトの「ハンバーガー」がよく売れていた。確かにメニューにも書かれているが、特に「モロッコ風」との記載はなかったと思う。デザートの販売もされていて、こちらは伝統的なもののようだ。
 季節は3月の終わり頃で、晴れた日だったので、入り口のドアを開けていた。駅前の商店街からは少し離れていて、住宅街に半ば組み込まれている。開けていたドアからはモロッコの風が吹き込む気配もなく、いたって上石神井な風景であった。

「野菜クスクス」

 そのライアンの隣には、緑のひさしに店名が書かれた「ルピナス」というベーカリーがある。懐かしい感じの店構えで、何度も前を通ってきたが、こちらも入ったことがなかった。
 ルピナスでは天然酵母を使用したパンや焼き菓子などを売っている。「ノア・レザン」には胡桃やクランベリーが練り込まれていて、本格的だ。食べる前に温めることをすすめられた。
 ここは四十年以上、地元で続けられているらしい。共存というと大げさだが、新しく開いたモロッコ料理店と老舗のパン屋さんが、新旧隣りあって商売を営まれていることのは素敵なことだと思う。

「ルピナス」のパン

 石神井公園駅付近は街並みが大きく変わり、古くからのお店でここ何年かで引退されたところも多い。飲食店に限らず、少し前まではびっくりするような古い木造家屋も建っていたが、一部は取り壊され、ぴかぴかの街に生まれ変わりつつある。上石神井井も入れかわりはあるのだが、ところどころに懐かしさを感じる店や建物が残っていて、のんびりした空気が漂う。
 その上石神井では立体交差化の話が進んでいる。悪夢のような踏切や横溢極まりないバス通りの問題は解消するだろうが、西友と一体化した駅舎や、付近の商店街はそのままといくはずもない。
 行く末は見守るしかないが、あれもこれも他の街にもあるような店ばかりでは、住人として張り合いがない。歩くたびに発見があるような、個性あふれる街並みであって欲しいと願うが、出来るだろうか。

夜の街もいい感じである


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