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石神井と冬の「牧野記念庭園」

 NHKの朝の連続テレビ小説「らんまん」は、植物学者・牧野富太郎の人生がモデルであった。高知県出身の牧野博士が晩年まで過ごしたのは東京練馬区で、彼の自宅と庭の跡地を公開したものが「牧野記念庭園」である。
 牧野記念庭園の最寄りは西武池袋線の大泉学園駅で、一番近い石神井の住所からはほんの数百メートルしか離れていない。私は熱心な視聴者ではなかったけれど、昨年は地元のイベントや商店街の貼り紙でも、彼の名前を目にすることは多かった。放送は半年ほど前に終わっているし、冬の季節であれば、ほとんど来園者はいないのではないか。そんなことを考えながら、久しぶりに訪れることを思い立った。入園は無料である。

大泉「牧野記念庭園」

 その日は休日ではあったが、寒さの中、予想に反し、結構な見学者がいあた。街の片隅程度の庭園には、現在300種類ほどの草木類が生育しているとのことだ。桜の名木があったり、四季折々にバラが咲き誇ったりはしない。希少なものもあるようだが、庭に生えていれば、知らずに抜いてしまいそうだ。

 ところが、腰をかがめて丹念に見ていくと、視線の先には別の世界が広がる。植木鉢の中でバイカオウレンが開き始めていたが、この白く小さな花が牧野博士が愛した花の一つであることは、家に帰ってから知った。カタクリの花が咲くのはまだ先のことだけれど、春になったら、その姿を確かめに再訪したいと思う。
 牧野博士はこの場所を「我が植物園」と称したそうだ。何をもって見どころとするかは人それぞれだろうが、園内のあちこち草木ひとつひとつに物語が感じられた。

バイカオウレン

 牧野記念庭園には、博士に遺品や資料を展示する記念館がある。今回、再訪して気づいたのは、書斎や書庫を再現したエリアで、これは昨年春公開されたらしく、テレビ放送に合わせてということだろう。
 記念庭園は節目、節目にリニューアルがされているようだが、ずっと以前からこの場所を知っている者にとっては驚きが大きい。というのは、記念庭園の隣は自動車教習所で、何十年前も前、私がここで教習の順番待ちしていた頃はひどく寂しい場所であったと記憶している。
 教習所自体はそのままあって、講習中の車が見えた。当時も家には牧野富太郎の図鑑があったが、まさか朝ドラのモデルになるなんて、その頃の様子から考えると、まるで想像がつかない。

牧野富太郎の像とスエコザサ

 石神井にも「野草観察園」という草木の栽培している区域がある。「池渕史跡公園」や、「農業体験農園・農の詩」の畑が隣接しているため、実際の敷地よりも広く感じられると思う。近くの旧早稲田通りからは高台になっていて、訪れると気分がいい。
 この辺りでは、鳥の撮影愛好家をよく見かける。三宝寺池ではカラスの鳴き声が騒がしいが、少し離れたこちらでは小鳥たちのさえずりと木の幹を突く音が聞こえるばかりだ。
 野草観察園は石神井公園駅からは距離があるし、全く派手さがないが、もう少し人が来てもいいと思う。先日はスイセンとカンギクが咲いていた。入口にその時の見ごろの植物が書かれている。案内を参考に園内を回ってみると、新しい出会いがあるかもしれないし、あって欲しい。

石神井「野草観察園」


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