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石神井でタンノイを聴く

 毎月「石神井公園ふるさと文化館分室」ではレコードコンサートが開催されている。これは石神井にゆかりのあった芥川賞作家・五味康祐の死後、所蔵していたLPや音響機器を使って行われているものだ。レコードコンサートの方は以前に抽選で外れ、それっきり縁遠くなっていたが、それとは別にオーディオのメンテナンス(音出し)が、毎週火曜と木曜に行われている。こちらの方は申込が不要で、参加費もかからない。

 ふるさと文化室分室は「石神井松の風文化公園」にある。公園はもともと日本銀行の運動場だったところで、開園は2014年と新しい。スポーツセンターの印象が強いが、管理棟前の高い木々が大変立派だ。
 終戦後、クラブハウスと新規の建物が陸軍中野学校の作戦の舞台になったらしい。これは文献も残っている。現在の管理棟は三代目(1987年建造)とのことだが、そういう話を知ると、ここで流れる音楽もあらたまったものに聴こえる。

「石神井公園ふるさと文化館分室」は内装もよい

 コンサートで使われているスピーカーは「TANNOY GRF AUTOGRAPH」(1964年製)である。タンノイは英国の有名なメーカーだ。オーディオはお国柄が表れるとされ、英国のタンノイに対し、アメリカのJBLという具合だ。「いぶし銀」と称され、弦の音に評価が高い。
 近年オーケストラは国際化の一方、均一化も進んだが、オーディオの世界はどうだろう。スピーカーでも、復権しているレコードプレーヤーにしても、最近はお国柄以上に個性が光る製品も多い。いずれにしても、ふるさと文化館分室に置かれているのは、半世紀以上も前のヴィンテージで、家具調の落ち着いたデザインだ。
 タンノイのスピーカーは、何十年間も前、購入を考えたことがあった。大きさに二の足を踏み、イギリスの別のスピーカーを選んだ(ちなみにプレーヤーとアンプは日本製)。あらためて今のカタログを見ると、中身も違うのだろうが、値段がずいぶん上がっている。中古の海外レコードだって、円安の影響かことごとく上がっている。

 メンテナンスの会では、バイオリンのソナタがかかった。オーディオは状態を良好に保つために、定期的に鳴らす必要がある。平日の午前中のためか、参加者は私の他に数人のみ。レコードをとっ替えひっか替えするイメージだったが、別の回のことは分からないものの、曲全体をしっかり聴くことが出来るとは知らなかった。
 スピーカーが大きい分、音楽はやはりゆったりと聞こえる。弦の音色も艶やかで、これがタンノイの実力かと言われれば比聴に自信はないが、ウンチクを忘れ、聞きほれた。
 なお、写真ではスピーカーの前にガードが置かれているが、通常のレコードコンサートでは外れされるとのこと。デザインも悪くないし、あまり気にならない。

オーディオ機器は美しい

 JR中央線沿いにはいくつか名曲喫茶がある。荻窪にある「ミニヨン」は石神井に引っ越してから何度か行った。小さい子を連れていったことがあり、いつ騒ぎ出すかと冷や冷やしたことを覚えている。ここもオーディオシステムはタンノイGRF。お店のホームページによるとターンテーブルはトーレンス、カートリッジ(針)はオルトフォンSPUと万全である。
 吉祥寺にはクラシック喫茶の「バロック」がある。隣が「音吉!MEG」(旧「メグ」)というジャズ喫茶&ライブハウスで、メグの店主は自他ともに認めるオーディオマニアだ。定期的にオーディオの会も行い、活況を呈している。壁を隔ててジャンルの違う音楽が流れている状況が面白い。

「再生芸術」というと何か実演に対して下に見ている人もいるかもしれないが、同じようなシステムでもころころ音が変わるのがオーディオの醍醐味だろう。再発のレコードもたくさん出ているし、「当時の録音は当時の機材で」とは一概には言えないが、その時代の聴き方を知ることで、人によっては、音楽への接し方も変わってくると思う。分室には展示室もあるので、ぜひ足を運ばれては。

今となっては作られないタイプのオーディオ


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