20年後の世界を選ぶのは、誰か-「ジェイクみたいな子」を見て -

今年の海の日、パレットのメンバーは連れ立って開催中の「第28回レインボーリール映画祭」に行くことにした。私たちが見た一本は、「ジェイクみたいな子」。4歳の息子ジェイクの小学校選びをきっかけに、ベストな選択を求めるがため衝突する夫婦を描いた作品だと、公式HPに書かれていた。

今月のパレットのテーマは「わたしの選ぶ未来」。1人ひとりが社会のあり方や生き方を選ぶということを考えてきたが、そんななかでこの映画のあらすじを読み、家族の選択というテーマに興味が湧いたのだった。

その日は梅雨の曇り空だったが、表参道のスパイラル会場は多くの人と虹で賑わっていた。

(文章:伊藤まり)

*以下本編の内容に触れています。未見の方はご注意ください。

ジェイクはチュチュを着て、ディズニープリンセスが大好きな子供だ。そんな息子のことを愛情深く育てているのは、アレックスとグレッグ。

ジェイクがディズニープリンセスを好んで見ることも、幼稚園で女の子とプリンセスごっこをして遊ぶことも、取り立てて気にしないアレックス。それでも彼女はハロウィンの仮装のためにラプンツェルをせがまれながらも海賊のコスチュームを買って帰る。強く反発するジェイクに、彼女はその理由をうまく説明することができない。

周囲の大人からの「ジェイクみたいな子は変わっているから」というコメントに、プレッシャーを感じてしまったのだろうか。大切な子どもが「普通ではない」ということで不自由な思いをするのではないかと不安になり、だからこそ自由な私立に行かせたいと奔走し、ジェイク自身がどのような問題を抱えているのかを見つめることができない。さらに息子の将来に対する不安に加えて、自身が諦めたキャリア、流産、母親との関係などがアレックスを追い詰める。その様子は、子育てを経験したことのない私にとってもリアルに胸が苦しくなるものだった。

そんな夫婦に信頼され、頼りにされているのが、ジェイクの通う幼稚園の園長、ジュディだ。

彼女はジェイクの個性を見守りながら、夫婦にアドバイスを与える存在で、そしてジュディ自身も同性のパートナーと暮らすレズビアンであることが終盤で示唆される。

ジュディは次のようにアレックスに語りかける。
「20年前はジェイクみたいな子を育てるのは今よりも大変だった」
その言葉がとても印象的だった。

映画を見終わったあと、近くのピザ屋でご飯を食べながらイラストレーターの子がつぶやいた。「20年後、ジェイクが大人になる頃はどうなっているんでしょうね?」

20年後ならば、ジェイクは24歳。今の私とほぼ同い年だ。その20年の間をジェイクはどのような世界で過ごすのだろうか。

たしかにジュディの言う通り、20年前に"ジェイクみたいな子"を育てることは今と比べてもっと大変なことだっただろう。少なくとも、ジェイクの両親は息子が"男らしく"遊ばないことを拒否することなく、受け止めている。

日本でも20年前は、性の多様性についてほとんど知られていなかった。それが今では、複数の自治体で不十分ながらパートナーシップ制度が開始され、同性愛がテーマのドラマや漫画も人気を集める。LGBTQ+が社会的なトレンドとなっていると言えるだろう。

それでも、親に対してカミングアウトすることは、LGBTQ+当事者にとってまだまだハードルが高く、そして拒絶してしまう親もいるのも現実だ。そしてジェイクの両親のように受け入れられたとしても、様々な未来の可能性を考えたときに、彼らのように動揺してしまう人も多いと思う。

先日イギリス王室のウィリアム王子が、「自身の息子がどのようなセクシュアリティであっても全く構わない」と発言したことが大きな話題となった。私はこのニュースを読んだとき、重要なのはむしろこの発言の後半なのではないか、と感じた。

「子供らがどんな決定をしても全面的に支持するが、わたしたちの立場から考えると、どれだけ多くの障壁や憎悪に満ちた言葉、迫害、差別に見舞われるかが心配だ」
(『英ウィリアム王子、子供がゲイでも「全く構わない」』ロイター、2019年6月27日)

自分の大切な人が、差別や偏見によって傷ついてしまうのではないか。
変わりつつあると言っても、急速にすべての差別や偏見がなくなることはない、私たちの生きる社会。そんな社会で私たちは、単にその大切な人を受け止めるだけでは問題が解決しないことを薄々気付き始めている。

LGBTQ+を単なるトレンドワードとして終わらせてはいけない。LGBTQ+という言葉の認知度を広めるだけでは、誰もが多様な生き方を選べる社会にはならないのだと思う。

この映画はジェイクではなく、アレックスとグレッグが息子のための選択に苦悩し、ぶつかり合う物語だ。だからこそ描かれていたのはジェイクではなく、2人の選択だった。なぜなら、変わるべきは社会であり、選んで行くべきは今大人の私たちだから。

20年後の社会を選ぶのは今を生きる私たちの選択だということを、ジュディの言葉からあらためて考えさせられた。


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