トランス女性

外国人トランス女性が持った希望 – 愛する人と日本で暮らすために

9月2日(月)、東京地方裁判所で、ある嬉しい記者会見が行われた。
日本人パートナーのBさんとともに特別在留許可を求めて審査を受けてきた外国人トランスジェンダー女性のAさんに、特別在留許可が与えられたというものだ。

東南アジア出身のAさんは、1993年からオーバーステイの状況で日本に暮らしてきた。そして2001年に日本人のBさんと出会い、以来2人は婚姻同然の暮らしをしてきた。

法律上同性のパートナーであるということ、そしてAさんがオーバーステイであるということ。年齢を重ねるなかで、病気や将来に対する不安を抱えながらも、真摯な関係性で互いを支え合ってきた2人。

そんな2人の明るいニュースを受けて、私たちは今後何を目指していけばいいのか、あらためて考えることができた。

(文章:伊藤まり

Aさんが持った希望

東南アジア出身のトランス女性のAさんは、1981年にはじめて来日した。エンターテイナーとして日本と出身国を行き来していたが、1993年からビザの更新ができずにオーバーステイの状態で26年間日本に暮らしてきた。

出身国ではLGBTQ+に対する偏見や差別が強く、子どもの頃から精神的・肉体的に暴力を受けていたAさん。日本でダンサーとして仕事をするなかで「自分の居場所を見つけられた」と感じた。1993年にビザの更新ができなくなったとき、「自分の国には帰らない」と決意したという。以来26年間、日本で隠れるように暮らしてきた。

そして出会った、パートナーとなる日本人のBさん。働いていたショーパブのお客さんだったBさんと2002年に交際を始め、以来2人は婚姻同然の生活を送ってきた。しかし、オーバーステイであるAさんとパートナーのBさんは、出かければ見つかるのではないかという不安、2人の将来に対する不安を常に抱えてきたという。

実際、Aさんは2013年に肺がんを患い、手術を受けた。Aさんは健康保険にも入れていなかったために、治療は経済的にも大きな負担となったという。Bさんも、くも膜下出血や舌癌、大腸癌などの大病を患い、その度2人で支え合って乗り越えてきたが、将来への不安はさらに大きくなった。

そんな2人に転機が訪れる。2015年に日本で初めて自治体による同性パートナーシップ制度が始まったというニュースを見たAさんは、もしかしたらこの状況を変えられるかもしれないと思ったという。「私たちもトライしてみませんか?」そうBさんに伝えた。

「勇気を得るためにはこれだけ時間がかかった。Bさんに出会って、パートナーシップ制度をニュースで知って、(ビザを申請する)理由と希望を得た。」

Aさんは、そう語った。

そして2016年、2人の関係性を証明する合意契約公正証書を作成。翌年の2017年、ついに入国管理局に出向き、在留特別許可を求める申請を行うことになった。

当然、入国管理局に申請に行くということは、26年間のオーバーステイが明らかになるということ。国に帰らされる可能性も十分にあった。その不安を抱えながらも、Aさんは、Bさんや弁護士の代理人とともに、何度も面接を受けた。

そして、8月14日。パスポートを持って入管に来るよう連絡を受けたAさん。そこで出された書類は、国外退去を命じる書類ではなく、1年間の在留許可カード。
Aさんはその瞬間、嬉しさで泣き崩れたという。

「自分たちは家族だと思ってやってきたけど、それが認めてもらえた。」


2人の希望を次に繋げる

もしかしたら国に帰らなくてはいけなくなるかもしれない、という不安を抱えながら申請する、とはどれだけ不安で怖いことだっただろう。ならば、このまま隠れて暮らし続けることもできたのではないか。

しかし2人は、安心して暮らせる未来のために勇気を出したのだ。

とても不安だったというAさんに対して、「大丈夫」と自信たっぷりに構えていたというBさん。会見の中でも、時折涙で声を詰まらせるAさんが、Bさんの腕に触れ、手を握る瞬間が何度もあった。

そんなBさんも当然、たくさんの不安を抱えてきたと思う。それでも互いの心の支えであり続けようとする2人の姿。その様子だけで、2人の間にどれだけ深い絆があり、互いを支え合ってきたかが見て取れるようだった。きっと、審査をした入管の方の目にもその姿が響いたのだろう。

国によって、法律上は同性である2人が家族として認められたということ。この、心から嬉しい出来事を、私はさらに未来の希望につなげていきたいと感じた。

出身国では、トランスジェンダーであることで精神的・肉体的に暴力を受けていたというAさん。子どもの頃から家族に、男らしくさせるために山の中に一人置き去りにされたこともあるという。出身国に比べて、日本ではとてもよく扱われているというが、まだまだ課題が多いのも事実だ。

現在、全国で同性婚の法整備を求める訴訟が起きている。AさんとBさんも、同性婚ができるようになったら「すぐ、私たちは結婚する。本当に望んでいます」と語った。

しかし、今回2人の関係生を認めた法務省と同じ国が、一方で同性婚に関しては後ろ向きの姿勢を保っている。

平成30年、同性愛であることを理由に迫害された人が難民認定された。代理人の1人で、同性婚訴訟の弁護団も務める中川重徳弁護士は、「入国管理局の情勢でもSOGIによって不利益を受けるのはおかしいというのは、一つの流れになりつつある。国も正面から認めて欲しい」と語った。

同じく代理人の三輪晃義弁護士は「同性婚訴訟では、国は"憲法24条は同性同士の結婚を想定していない"と主張しているけれど、今回明らかになったように想定せざるをえないということが各地で起こっている」と述べた。

同性婚が実現していないことをはじめとして、まだまだ"いないことにされてしまっている"人が多くいる日本。日常生活での差別や偏見、制度の穴をなくし、誰もが安心して暮らしていける社会は、実現していない。

AさんとBさんは、同性パートナーシップ制度のニュースを見て、この日本社会で安心して暮らす未来への希望を持った。今度は私たちが、この2人の嬉しいニュースを希望として、さらに先の未来へ繋げていかなくてはいけない。そう強く感じた記者会見だった。

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