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新卒の私がハラスメントについて思うこと 〜ILO基準のハラスメント指針を!報告会を聞いて〜

職場におけるハラスメント。

私は今年の4月にパレットーク編集部のある会社に新卒で入社した。大学をのんびり卒業したので同級生より少し遅れての就職だったが、多様性やフェミニズムについて扱う職場なこともあって、私自身は職場におけるハラスメントはあまり身近な問題ではない。

しかし高校や大学の同級生の話を聞いていると、日本の様々な企業で深刻なハラスメントがあると知る。

上司に「痩せた方がいいんじゃないの?」など言われた友人。取引先の人に性行為をほのめかされた友人。飲食店のスタッフで、客に痴漢行為をされた友人。出張のたびに飲酒を強要され性暴力まがいのことをされた友人もいる。就職して数年の間で聞いたエピソードは限りない。

そして、その話を聞くたびに何よりも無力感を覚えるのは「たとえ会社に相談窓口があったとしても怖くて申告できない、異動させられるのは自分だろう」という圧倒的に不利な状況。結局は、その職場で彼ら彼女らにできることは限られていて、嫌ならば転職するしかないという状況だ。

セクハラを始め、様々なハラスメントに関して広く議論されるようになったここ数年。「なんでもかんでもハラスメントと言われると、何も発言できなくなる」などと案じる人も出てくるほどには、少しずつだが可視化されてきた。

それでも、今現在多くの人が泣き寝入りを余儀なくされたり、健康を害してしまったりしている状況は改善していない。ハラスメントを禁止する法律や、被害者を確実に守れるシステムが、なんでできないの?と常々思ってきた。

そんなある日、一般社団法人Fairの松岡宗嗣さんから、講演のお知らせをいただいた。

「ILO基準のハラスメント指針を!~あらゆるハラスメントを防止できる実効的な指針を目指して~」と題された講演。なんと16もの団体が集まって、ハラスメント規制法の指針についてリレートークが行われるという。

今の日本の法制度ってどうなっているんだろうか。国際的な基準とはどのような差があるのだろうか。そんな疑問を解決すべく、足を運んだ。

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SOGIハラ、セクハラ、パワハラ、マタハラ、ハラハラハラ…。

まさに「種類が多すぎて…」というボヤキが聞こえてきそうだ。でも、名前が"多いこと"は、それぞれの実態に合わせた焦点を合わせることや対策の必要性を表している。

ハラスメントのない、誰もが安心して働ける環境を作るためには何が必要か。新卒の私が、ハラスメントについて感じたことを書いてみたい。

(文章:伊藤まり)

ILO基準のハラスメント指針って?

今年5月に日本でハラスメント規制法が可決された。法律が実際に施行されるのは早ければ2020年〜2022年とだいぶ先だが、ハラスメントに関して国の指針が一つできたということは大きな一歩だろう。

今回できたハラスメント防止に関する法律は、セクハラやパワハラなどをを「行ってはならない」と明記したもの。事業主は、相談窓口を整備するなど、ハラスメントを防ぐための対策を取ることが義務づけられた。

しかし、この法律に違反した場合にも罰則の決まりはなく、その実効性が疑問視されている。また今回の法律では、ハラスメントが起きる関係性が雇用関係に限定されているのも問題だ。

時をほぼ同じくして今年6月、ILOで「仕事の世界における暴力とハラスメントの根絶」に関する条約が採択された。

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そのILOが初めて、職場で起きるハラスメントを全面的に禁止する国際条約を採択したのだ。

条約では、ハラスメントを「身体的、心理的、性的、経済的被害を引き起こしかねない行為」と定義した。保護される対象は、従業員に限らす、インターン生やボランティア等も含まれる。

たとえば日本でも、まだその職場で働いていない就活生が、インターン中や就活中に受けるハラスメントが話題になっている。OBOG訪問中に性的な行為を強要される、という事件が最近大きな問題になったが、就活中のハラスメントは他にもある。報告会で紹介された事例の一部としては次のようなものがあった。

・OB訪問の際に、執拗に恋人や性体験の有無を聞かれる
・採用試験中に面接官でない男性からアプローチを受ける
・最終面接で目の前で履歴書をゴミ箱に捨てられる

これだけではない。取引先や顧客からのハラスメントも深刻な問題であることを知った。ハラスメントは、単純に職場の上下関係・雇用関係のなかだけで起きるわけではないのだ。

日本で可決されたハラスメント規制法と、このILOの基準を比べてみると、果たして今回日本で可決された法律が施行されたところで、ハラスメントに傷ついた私の友人たちは守られるのだろうか…?と疑問が浮かぶ。

ILO基準の指針であれば直接の雇用関係にない人も保護することができ、条約では防止のための様々な対策の義務付けだけでなく、違反した場合の制裁措置も明記している。一方、日本でのハラスメント規制法では、直接の雇用関係以外で起きるハラスメントが明記されていない。そして対策の義務付けはされているが、違反した場合にも罰則規定はない。

現状を聞いて、”ILO基準のハラスメント指針の必要性”を感じざるを得ない。

多様なハラスメント被害を取りこぼさないために

今回は、そんな日本での法整備をより実行力のあるものにしていくための報告会。ハラスメントは非常に多様な場面、関係性、環境のなかで起きている。今回のリレートークで報告した方たちからも、セクハラの他にも様々な事例が報告された。

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「職場で上司に勝手にセクシュアリティを暴露された」
「妊娠出産のタイミングで雇用契約を変更させられ、正社員として復帰できなかった」
「中国人の従業員が、職場で中国語を話すことを禁止された」

といった具体例も紹介され、深刻な問題が様々な環境で起きていることがわかる。今回報告された以外にも、本当にたくさんの事例があるだろう。たとえば大学や大学院、研究室などで起きるアカハラ、アルコールを強要するアルハラなどなど…。

その一つひとつをなくしていくために、より包括的で、実行力のある、被害者の立場に寄り添った法律の整備が必要なのだ。

相手にも人格がある、と知ること

近年、日本社会でも多様なハラスメントが可視化されてきた。そして、先に述べたように、それぞれのハラスメントはさまざまな形で現れる。その一つひとつに固有の課題や条件があり、どんな被害も取りこぼさず、防いでいくシステムが必要になっていくと思う。その意味で今回、日本でも、ハラスメントに関する規定を含んだ法律が成立したということは、大きな一歩だろう。

そして社会でハラスメントについて広く認知され議論されるようになってきたこと自体も大きな前進だ。その一方で私が気になるのは、私たち自身がハラスメントにどう向き合っているのか?という点。
「こんなこと言うとセクハラって言われちゃうけど」と一言添えればセクハラ発言をしてもいいと勘違いしている人も多いし、「○○ハラの種類ばかり増えて、何を気をつけていいのかわからない」と感じる人も多い。

しかし本来、私たちが個人として「ハラスメントを行わないようにしよう」と思ったとき、気をつけるべきことは実はとてもシンプルなことなのではないだろうか。

それは、常に力関係に気を留めること、無意識のうちに「この人にならハラスメントをしてもいい」と判断している自分に気づくこと。そして相手にも自分と同じ人格があると意識すること。

○○ハラの種類だけがただ増えているのではなく「目の前の相手にも人格がある」という想像力を働かせるためのヒントが増えてきているのだ、と捉えるのはどうだろう?

誰もが安心して働ける社会に向けては、ハラスメントを防ぐシステムの整備と同時に、私たち自身のそうした想像力が試されているのだと思う。


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パレットーク / 多様性×インタビューメディア

「こうあるべき」を、超えてゆく。をテーマに、LGBTQ+、フェミニズム、多様性について、漫画やインタビューを通して発信しています。セクシュアリティやジェンダーにかかわらず、一人ひとりの選択肢が無限に広がる世界へ。10月の特集テーマは「#むかしの私をハグしよう」。
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