ファクトリーガール

His-storyではなくHer-storyを ー ミュージカル『FACTORY GIRLS』を見て

19世紀半ば、産業革命期真っ只中のアメリカ・ローウェルを舞台に、労働条件の改善を求め闘う女性たちのミュージカルが上演された。

タイトルは『FACTORY GIRLS(ファクトリー・ガールズ)〜私が描く物語〜』

女性たちが、女性たちの権利のために立ち上がる物語。
当時は、まだ女性に参政権がなかった時代。貧しい家庭で生まれた女性たちは、工場の働き手として重宝されたという。しかし彼女たちが強いられたのは、一日14時間にもわたる長時間労働で食事の時間もままならない。そして工場内は鯨油ランプで悪臭が漂い、気管支の病気を患う女工も多かった。

現代から約150年前の物語だ。それから時が経って私たちは選挙権を持っている。鯨油ランプの元で働くことはないだろう。しかし今もなお男女の賃金格差は大きいし、職場でのセクハラに傷つく女性もたくさんいる。そして、多くの女性が声を上げている。

そんな150年後の時代に生きる私が、かつて自由を求めて闘った女性たちの存在を知る、ということの意味について考えてみたい。

(文章:伊藤まり)

あらすじ
貧しい家族を助けるためにローウェルの紡績工場で働き始めたサラ・バグリーは、過酷なバックグラウンドを持ちながらも夢を持って働く多くの仲間たち。当時女工たちの間で大人気だった文芸誌『ローウェル・オファリング』の編集長ハリエット・ファーリーは、多くの女工たちの憧れの的。女性たちに、自分たちの想いを言葉を使って表現することを伝えていた。
ハリエット・ファーリーもまた、文章を書くことに新たな自分を発見し、ハリエットもサラの文才を認め、2人は友情を深める。
しかし、工場のオーナーであるアボットが、競合の出現によって業績の落ちてきた自分の工場を立て直すべく、女工たちに劣悪な環境での過酷な労働を強いるようになる。
女性の権利がまだまだ認められておらず、参政権すらなかった時代に、労働闘争へと身を投じるサラと仲間たち。そしてサラは、違った道から女性の権利獲得を求めたハリエットとすれ違ってしまう。
自分の信念に生きようとするサラとハリエット、多くの女性たちは…。

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実在した女性たちの物語

突然だが皆さんは、高校の世界史の授業で産業革命について学んだことを覚えているだろうか?

高校生だった当時の私が必死に覚えたのは、次々と改良される紡績機の名前、蒸気船の発明が与えた影響、米西戦争や米英戦争など度重なる戦争の経緯。政治家の名前や功績、年号、市民運動の流れ。

暗記は苦手だったけど、今に連なる世界の歴史の流れを色々な方向から知ることができる世界史の授業は大好きだった。その時代に生きた人々の様子を想像するのも楽しかった。

しかし、時々ふと思う。私が学んだその世界史のなかで、女性の歴史はどれだけあっただろう。産業革命期だけではない。歴史の授業で、どれだけ女性の物語を私たちは学んだだろう。

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今回『FACTORY GIRLS』を観劇したあと、あらためて産業革命期の女性たちの労働について調べてみた。

そうか。1800年代中頃、中国をはじめ世界中に輸出されたアメリカの綿製品を作っていたのは彼女たちだったのか。ようやく、昔学んだ世界史の知識と先ほど見た舞台が私のなかで結びつく。

そして舞台上の女性たちが本当に存在したということ、実際に声をあげて闘ったということを知る。

彼女たちは、マサチューセッツ州議会に対して、10時間労働を求める請願書を出す。サラは劇中にもあるように、女性の労働団体を設立し、10時間労働の実現と工場内の衛生状態や照明設備の改善を目指した。一方ハリエットは、文芸誌『ローウェル・オファリング』の編集長として、女性たちの啓発と尊厳を守ろうとした。

まだ女性が参政権すら持っていない時代に、だ。

ミュージカルではまた、一日の過酷な労働や闘争のあと、宿舎で歌を合図に就寝に向かおうとするとても美しいシーンがあり、彼女たちの生活の一面を想像することができた。憧れの存在や仲間たちに刺激を受けながら、言葉で自らを語ることの"自由と力"を知る様子は、まるで現在の私の生活とリンクするような感覚すらある。

時を超える連帯の可能性

18世紀の終わりごろ、初めてのフェミニスト著述家と言われるメアリ・ウルフストンクラフトが『女性の権利の擁護』という本を書いた。筆者の私は、大学在学時代に彼女の本を読んで、200年以上の時を経ても解決しない性差別の不公正さに暗い気持ちになりつつも、それでもその200年を超えて他の女性と共有できる問題意識に励まされた。

そしてこの舞台を見ているあいだ、同じような感情を覚える。もしかして今回の舞台に登場したサラやハリエットも、約40年の時差でウルフストンクラフトの著作を読んだのではないか。女工たちが綿や糸を紡ぐのと同じように、言葉を紡ぐことの力を感じたのではないだろうか。

さらにサラやハリエットたちの闘いが、その後の女性の権利獲得に与えた影響を考える。アメリカで女性参政権が認められたのは1920年。21世紀を生きる現代の私たちが、過去の女性たちの生き様を知ることで勇気を得るように、当時の女性たちもそうやって励まされながら活動していたのではないか。綿綿と続く女性たちの歴史の力強さをあらためて強く感じることができた。

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Herstory(彼女の物語)

ところで、育鵬社の作った歴史教科書の「戦後の文化」で紹介される偉人18人中、女性は美空ひばりさんたった1人だったということをご存知だろうか。どの時代においても、おそらく大体、人口の半数は女性だったはずだが、歴史教科書に載る女性は圧倒的に少ない。女性の生き様は、歴史の教科書に載せるまでもない、瑣末なことだとでも言うように。

歴史の教科書に載せるか載せないか、それを決めているのは誰なのか。

そのことに問題意識を持ったフェミニズムの運動がある。男性中心の歴史(His-storyー彼の物語)だけでなく、Her-story(彼女の物語)を語ることの重要性を指摘したのだ。

Her-storyとは、フェミニストの視点から描かれた歴史のこと。歴史における女性が果たしてきた役割にアンダーラインを引き、女性自身が語ることを重視する。そのことによって、今もなお主流である男性の男性による歴史の語りのなかで、"ないこと"にされてきた女性の存在に光を当てる、というものだ。

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今回『FACTORY GIRLS〜私が描く物語〜』を観劇し、産業革命期の女性たちの物語と出会った。登場する女性一人一人の生き様がどれだけ味わい深く、時を超えて生きる今の私に勇気を与えてくれることか。Her-storyの重要性、女性の物語を描き直すことの大切さを、あらためて感じることができた。

ミュージカル『FACTORY GIRLS〜私が描く物語〜
東京公演:10月9日(水)まで、TBS赤坂ACTシアターにて。
大阪公演:10月25日(金)〜27日(日)まで、梅田芸術劇場メインホールにて。

(写真の提供:株式会社アミューズ)

(参考:久田由佳子「市場革命の時代における女工たちの労働運動--マサチューセッツ州ローウェルを中心に」『紀要地域研究・国際学編』(42)、p. 31-50、愛知県立大学、2010年。)

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