正解はわからないけれど 漫画家 ゆむいの選択

お互いを愛し合って、幸せな人生を共に歩みたい…。
そう思っていたはずなのに、もし突然愛するパートナーがモラハラ夫になってしまったら。

私は昔から、そんな不安を抱えている。自分が本当に幸せな人生を歩めるのか、幸せではないと思ったらそれを変えていくことができるのか。その自信がないのだ。
そんなとき『夫の扶養からぬけだしたい』(発行:KADOKAWA)という漫画と出会った。描かれるのは収入がないことを引け目に感じ、夫のモラハラ発言やワンオペ育児にモヤモヤする専業主婦「ももこ」の日々。読めば読むほどリアルな描写に胸が苦しくなった。

それでも、ももこは物語のなかで迷いながらも選択をしていく。その選択が正しいのか、本当の幸せなのかもわからないけれど、なぜももこは自分の人生を選ぶことができたのか。作者のゆむいさんに、作品が作られる背景とともにお話を伺ってきた。

(インタビュー:伊藤まり

伊藤:この作品はゆむいさんご自身の経験も含まれているそうですが、パートナーの方はこの漫画のことはご存知ですか?

ゆむい:はい、知ってます。

伊藤:私がもし夫で、妻にこれ書かれたら耐えられないかもって思ったんですが…(笑)。

ゆむい:ずっとグチグチいってます(笑)。でも基本的には私が漫画を描くこと自体は応援しているので、自分がネタにされても売れたら嬉しいって思ってるようです。

伊藤:この漫画を描いたきっかけって、やはり日頃のモヤモヤの積み重ねなんでしょうか?

ゆむい:そうですね、もともとTwitterで日常の愚痴を小出しにしていたんです。そしたら思ったよりも反響があって。「こういう愚痴は小出しにするより1個の作品にまとめた方が、もっと読んでもらえて問題がわかりやすくなるかな」って。

伊藤:それで出たのがこの本なのですね。共感の嵐だったんじゃないですか?

ゆむい:「うちに監視カメラ隠してるんですか?」って言われたこともありました(笑)。それくらい同じような経験をしている人がたくさんいるんですね。「つとむの言うことが全くうちの夫と同じだ」という人も、「自分の親がそうだった」という人もたくさんいました。でも、逆につとむ側に共感する声も意外と多かったんですよ。

伊藤:え、これを読んで夫側に共感する人がいるんですね…!確かにつとむさん側の気持ちも丁寧に描かれていて、それが逆に辛い気持ちにもなったりしました。

ゆむい:でも最初からこういうふうに、モヤモヤする形で終わらせるのではなくて、なんとなく仲良くなって終わりにするつもりだったんですよ。「ママの求人」という子育て中のお母さんのための求人サイトで連載をさせていただいてたのですが、当初は15話くらいで終わる予定でした。それが思ったよりも読者の方から大きな反響をいただいて「これは適当に終わらせられないな!」って。それで、私の夫が実際に事故にあってしまった事実を取り入れて、つとむ側のことも丁寧に描くことができました。

ゆむいつとむも「ももこを傷つけたい!虐げたい!」と思っているわけではないんですよ。彼は彼の正しいと思うことを言っている。だからつとむも結局謝らないで終わらせました。納得いかないという声もいただいたんですけど、つとむに謝らせたかった漫画ではないんですよね。

伊藤:だから、ももこだけじゃなくてつとむにも共感が集まったのですね。それだけリアルな物語だったし、それだけ多くの人が共通して抱える問題なんだとも思いました。

ゆむい:つとむは事故のあとに部署が変わって仕事自体に少し余裕ができました。そのこともあってか、少しずつ台所に立つことが増えたんですよね。変化しています。逆に私の友人の家庭では、夫が忙しい残業ばかりの部署に異動になった途端、すべてのストレスが彼女に向かって、モラハラ夫になってしまったそうで。

伊藤:「どういう環境にいるか」で心の余裕は変わりますものね。

ゆむい:いやほんとに、職場の環境は、すごく大きいんだと思います。だからって今までももこにぶつけてきた言葉が全部許されるわけではないけれど、つとむ側に共感する人がこれだけ多いってことは、無視できない問題なのだと思います。

伊藤:そう言う意味で、男性も含めて働き方を変えていかなくてはいけないし、男が稼いで女が家事、みたいなロールモデルも変えていかなくてはいけないなと思います。つとむさんは自分自身もすごく苦しそうですよね。

ゆむい:女性活躍推進と言われているけど、実際に職場でどうなってるかといったら「女性は要領が良くて短時間でなんでもこなせる優秀な人材だから男性も頑張りましょう」みたいな文章が配られたりしているらしいんです。そういうことではないじゃないですか。

伊藤:う〜ん、「女性だから〇〇」ってことはないですよね。人によって得意分野は違うし。

ゆむい:みんな頑張りすぎちゃって、職場で働いてる人も働いてない人も悲鳴をあげている状態だから、なんでこうなっちゃったんだろうって気持ちです。みんな必死で辛い思いをしているから、誰かが辛い!って声をあげたとしても、自分が責められてるって感じるのかもしれない。責任感と被害者意識がめちゃくちゃになっているというか。

伊藤:物語のなかで、ももこの内面にもたくさんの変化がありますよね。自信を少しずつ持つことで、自分の人生を選択していくようになります。漫画を描く前と後では、ゆむいさんご自身は変化はありましたか?

ゆむい:やっぱり、自信がつきました。私はずっと新卒で就職できなかったことが大きなコンプレックスだったんです。同期とかはキラキラとキャリアを積み重ねているなかで、自分は好きだったイラストの夢も諦めて…って。でもそのときは自分で自信がないことにも気づいていなかった。それがモヤモヤの原因だったんですよね。

伊藤:「自信がなかったんだ」と気づいたのは何かきっかけがあったのですか?

ゆむい:いつもみたいに夫婦喧嘩をしていて、いつもは論破されて負けてしまうんですけど、ある日私が論破できたんです。夢だったイラストや漫画で芽が出てきたタイミングだったので、ふと、自信が持てた!って思って。その時に、ああ私は自信が欲しかったんだって気づいたんです。気持ちの余裕もできたから、子どもにも余裕を持って接することができるようにもなって、まわりも少しずつ見えるようになっていったかなと思います。

伊藤:それこそつとむさんの仕事環境がよくなって少し余裕ができたように、ゆむいさんも気持ちに余裕ができることで、周りにもポジティブな影響があったのですね。読者としても、ももこに共感するか、つとむに共感するかは人それぞれだと思うけど、家庭内やパートナーとの関係性を考え直すきっかけにもなったと思います。

ゆむい:この漫画を描き出したころは自分の経験も含まれているから、辛い気持ちで吐きそうになることもありました。でも読者の方が上手にモヤモヤを言語化してくださって、そういう経験を読者の方たちと一緒に解毒していったという感じもあります。

伊藤:ゆむいさんに気持ちを代弁してもらった読者が、さらに補足したり言い直したりしていて、その言葉にゆむいさんも影響受けるって、すごくいいですね。

ゆむい:はい、それに多くの人に読んでもらって書籍化もできたという実績を持てたということで、「描かなくてはいけない」というプレッシャーよりも「次はこれを描こう」と思えるようにもなりました。


あとがきのなかで、ゆむいさんは次のように語る。

「ももことつとむの選択こそが正解とは限らず、色々な道が拓けているのかもしれません。どんな道を歩むにしても、ママ・パパという立場になった全ての人が、古い常識に阻まれることなく、自分にとって一番幸せな選択をできるようになるといいな、と思います。」

ももこが直面した、女性の働きづらさ、ワンオペ育児、そしてモラハラ夫の問題。これらは、ももことつとむの個人的な経験ではない。多くの人が同じような境遇に直面していても、そのなかにいる間は、なかなかそれが大きな社会の問題だと気づくことは難しいだろう。しかし、何か一つきっかけがあったときに、2人の関係性だけでなくその問題が生んでいる社会の構造自体も捉えることができるのかもしれない。

自信を持つことで、自分の幸せのために不確かな未来を選択していくことができるようになったももこの姿を見て、私も不確かな未来が誰にとっても幸せなものであるように選択していく自信を持ちたいと思った。

今回お話を伺ったゆむいさんの『夫の扶養から抜け出したい』はこちらから。

『親になったの私だけ!?社会福祉士ママと保育士パパの子育て奮闘記』はママの求人で現在連載中


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