たかまつなな

"諦める"力は、社会を変える − お笑いジャーナリストたかまつななの信念

日々の生活に感じる、さまざまなモヤモヤ。「社会のこんなところを変えたい!」そう思っても、知れば知るほど問題は大きく感じられ、何から手をつけたらいいのだろうと悩む。また勇気を出して声を上げたとしても、心無いバッシングや孤立感に心がくじけてしまいそうになる。

そう感じている人、多いのではないだろうか。

そんな空気のなかで、数多くのバッシングにも負けず政治について発信を続ける人がいる。お笑いジャーナリストのたかまつななさんだ。彼女は大学在学時代から政治を笑いで伝える活動を続け、笑下村塾を立ち上げた起業家でもある。全国の学校へわかりやすい政治の講演を届け、時事YouTuberとしても活躍するたかまつななさん。

そんな彼女の幅広くエネルギッシュな活動の原動力を伺いに行ったら、"諦める"ことの力強さを知ることができた。

(文章:伊藤まり

政治について発信する人=変な人

伊藤:芸能人が政治について声を上げるとバッシングされる風潮がありますが、女性だとなおのことですよね。ぶっちゃけ、バッシングってされます?

たかまつ:それはもうしょっちゅうですね…。「芸人なんかが発言するな」とか「ジャーナリストだったらこうしろ」とか、肩書きだけを見て批判してくる人もいるし、ただ揚げ足を取ってくる人もいます。

たかまつ:もちろん、ちゃんと向き合って議論してくれる人もいますけどね…。

伊藤:お笑い業界のなかからの反応ってどんな感じですか?

たかまつ:なんとなく煙たがられているな、と感じるときはありますよ。政治のことをやりだしたらもう"別のジャンルの人"って距離を置かれる感じというか。お笑いのジャンルにはコントや漫才、モノマネなどいろいろありますけど、そこに社会風刺は入ってないんだなと感じます。

伊藤:壁を作られちゃう、と。

たかまつ:業界のなかだけじゃないですよ。たとえば「たかまつななのお笑いライブやります!」って言ったらお客さんが500人とか集まってくれるのですが、「政治のトークライブやります!」って言ったら20人とか…(笑)。今では"お笑いジャーナリスト"としてのイメージも付いてきたので、お客さんが集まるようになってきました。それでも政治的な発言をする人=変な人っていうイメージが、やっぱりまだまだ強いんだと思います。

伊藤:たしかに「政治的な発言をする人はちょっと怖い」みたいな感覚、ありますよね。だからみんな、政治について話さないし、知る機会もなかなかない。

たかまつ:そうですね。私は全国の学校でお笑いを通して主権者教育をする活動をしてるんですけど、小学生向けと大学生向けでカリキュラムの内容はほぼ同じです。

伊藤:ええ、小学生と大学生で…!?

たかまつ:それくらい、大人も全然政治について知らないんです。正しく知られていないことで起きている問題ってたくさんありますよね。たとえば「性教育をすると、性に対してみだらになる」という意見の人がいますけど、きちんとエビデンスを見たらそんなことはないはず。

伊藤:だからこそファクトを多くの人に伝える、ということが大事ですよね。でも、そもそも問題に関心がない人にはその情報も届きにくい…という問題があります。

変えるために、諦める

たかまつ:世のなかのほとんどの人が政治について関心がない状況で、それでも政治について発信して伝えていくためは、"諦める"ことが大事だと思ってます。

伊藤:諦める?

たかまつ:たとえば、本当は伝えたいことが100あるとしますよね。でも、その100の情報を政治への興味が0の状態の人に伝えようと思ったって無理なんですよ。100全部伝えることよりも、0を1に変えることの方が、今の日本の社会では大事だと思っています。

伊藤:なるほど、たしかにいきなり専門的な知識をぶつけられても、そもそも興味を持って人は受け取る気になれないですよね。0を1にすることにフォーカスした内容だからこそ、小学生向けと大学生向けで同じカリキュラムなんですね。

たかまつはい。だから"捨てるという覚悟"が必要なんです。どこが本質なのか、どの情報で人の感情が動くのか、そういうのを真剣に吟味して伝える内容を決めていきます。そうするともちろん、本当は大切なことでも諦めなきゃいけないことがあるんですよね。

伊藤:正論だけでは変えていけない、ということですね。

たかまつ:はい、もちろん全てを簡単に諦めることが正しいとは思っていないけど、今の社会でできることをするしかないじゃないですか。そして今必要なのは、0を1にすること。でもそうすると、専門家の人からもめっちゃ叩かれるんですよ。「大事なところが足りない!」「大衆に迎合したポピュリズムだ」とかって。

伊藤:うわー、わかります。知識がある人にとっては、もちろん大切なところが抜け落ちていることが問題だと感じるんでしょうけど。

たかまつ:はい。なので私は、よく思われないとわかりつつも発信しています。そもそも、人は全ての専門家になれませんよね。私は環境問題から社会問題に関心を持って、突き詰めていったら政治について考えるようになりました。だけど、たとえばLGBTQ+のことや経済のことは専門ではないから深くは知らない。

伊藤:1人の人が経験できることにはもちろん限界がありますもんね。

たかまつだから、全ての専門家になることを諦めること。政治について発信をしている若手ってたくさんいますし、それぞれ強みや立場、手法は違います。だから自分や自分の会社で全部やるんじゃなくて、誰かと組む!

たかまつ:たとえば、この前の参院選が終わったあと、 私の知る限り政治について発信している若者に声をかけて、YouTubeの番組をやりました。「ここにはこんな頑張ってる人がいて、この人はこんなことをしていますよ」って。それってある意味ライバルを紹介しているようなもので、短期的には私の会社にとってはデメリットかもしれません。でも長期的な目で見たら、主権者教育の土壌を広げることになるし、社会を変えることに繋がる。自分のメリットにもなるんです。

伊藤:なるほど。それぞれの得意分野や手法の違いを示しながら、輪を広げていく感じですね。伝えたいことを全て伝えることを諦め、みんなに好かれることも諦め、全ての専門家になることも諦める、と。

たかまつ:はい。今ある社会問題を解決するためには、そういう諦めをいくつできるかってことが重要だと思います。

伊藤:なんか、苦しい道のりですね…。たかまつさんはいつその覚悟ができたのですか?

たかまつ:覚悟は今もできてないですよ(笑)。常にやってみては泣いて、の繰り返しです。今でも悩んでいますし、下書き保存してまだ投稿できていないものもたくさんあります。でもやっぱり、社会の問題を目の前にして「それはおかしい!解決したい!」と思う気持ちが強いんです。それに、その都度いろんな人が励ましてくれますからね。それは一緒に働く同志だったり、先輩だったり、お客さんだったり。そういうことの繰り返しなんじゃないかな。

社会の問題に目を向けること、問題を解決しようとすること、そして人に伝えようとすること。その道のりはとても辛く、ときにはくじけそうになる。1人で続けることは難しく、また1人で変えることも不可能だ。

インタビューが終了し、エレベーターまで歩いているときに私は「月に何回くらい講演に出かけるんですか?」と尋ねた。するとたかまつさんは「最近は他の人に回して自分で行く数を減らしています。自分だけでやっていたら、活動は持続できないですからね。」と答えた。

公正で、みんなが少しでも生きやすい社会に変えていくためには、声を上げ続ける必要がある。

お話を伺いながら、たかまつさんの"諦める"という信念は、決してネガティブなものではないのだと感じた。今、この社会でできること、そして一番必要なことをシビアに見極めながら活動する彼女の"諦め"は、後ろ向きのものではない。むしろ前を向き続け、声を上げ続けるための決意なのだと、彼女の強い視線から知ることができた。

(写真:星野泰晴


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