小学6年生が受け止める"多様性"の意味

––突然ですが、みなさんに質問です。日本の人口に対する神奈川県の人口の割合は、約何%でしょう。正解は、約7.5%です。一見少ないように聞こえますが、神奈川県の人口は、全国2位なので、それほど少なくありません。この割合は、全国にいる「LGBT」の方の割合と同じくらいです。–––

よこはま子ども国際平和スピーチコンテストのクラス代表に選ばれた横浜市の小学6年生、R.I.さん(仮名)は、6年生の同級生と下級生にむけて語りかけた。

このスピーチコンテストは「よこはま子ども国際平和プログラム」の一環として神奈川県横浜市が開催している。横浜市の小学生と中学生が参加し、各区の予選で選ばれた代表者は、ピースメッセンジャーとして国連本部などを訪問するという。スピーチのテーマはSDGsの目標から児童・生徒がそれぞれ選ぶ。SDGsとは、国連が定めた持続可能な社会に向けての目標のことで、貧困、環境問題や教育、福祉などに関する17の目標のことだ。そして今回R.I.さんが選んだ「ジェンダー平等」も、このSDGsが掲げる目標のうちの大切な一つ。

実はR.I.さんのお父さんは、パレット事業部があるアラン・プロダクツで働く私たちの同僚で、髪の悩みに寄り添うヘアプロダクトを作る仕事をしている。R.Iさんは、お父さんに連れられていった会社のお花見で、パレットのメンバーと出会った。

R.I.さんはお花見でお父さんの同僚たちと一緒にご飯を食べてゲームなどを楽しんだ後日、お父さんから「お父さんの会社にはLGBTQ+をテーマにした仕事をしている人がいるんだよ」と聞かされたという。

パレットのメンバーにはLGBTQ+の当事者も複数いる。初めて、LGBTQ+についてオープンにしている当事者と話したR.I.さん。彼らへの印象は「何も特別じゃない、普通のお兄さん、お姉さんたちだった」という。

そんな経験があったから、彼女はスピーチの題材にジェンダー平等という項目を見つけたとき「LGBTQ+についてみんなに話そう」と思ったそう。

R.I.:学校の図書館にはLGBTQ+について書いてある本がなかったので、家に帰ってインターネットで調べました。

伊藤:"LGBT"についてスピーチするよって言ったら、まわりの友達はどんな反応でしたか?

R.I.:みんな「そうなんだ〜」という反応で特別大きなリアクションはなかったです。

伊藤:そんなにあっさりしていたの!?みんな、LGBTQ+が何だかわからなかったとか…?

R.I.ほとんどの子が、"LGBT"という言葉を知っていましたよ。それぞれの意味まではあまりよく知らなくても、単語としてはみんな聞いたことがあるって感じ。

伊藤:ホントに!?(今時の小学生ってそんな感じなんだ…。)

筆者は彼女の淡々とした言葉に驚いた。
私が小学6年生だったのは今から13年前の2005年。私自身は当時性のあり方が多様であるということをどれだけ知っていただろう。

まず当時の私はLGBTQ+という言葉を聞いたことも見たこともなかった。2015年に全国で初めてパートナーシップ制度が開始されて以来、広く浸透してきていると感じるLGBTQ+という言葉。当時その言葉を知っていた小学生はまわりにもほとんどいなかったのではないかと思う。

一方で、ドラマのなかで性同一性障害のキャラクターが描かれたり、海外の同性愛をテーマにした映画を見る機会はあったので、「私とは違う」性のあり方を持つ人がいることはなんとなく知っていたかもしれない。そして、そういう「なんとなく自分と違う人たち」について話すことは、少し勇気がいることだった。

それが、打って変わってR.I.さんの小学校では、友達のほとんどがLGBTQ+という言葉を知っていて、さらにそのテーマでスピーチをすることが何一つ特別なことではないという。私の時代とは大きく違い、今時の小学生にとってLGBTQ+という言葉は、はるかに身近で当たり前のものになっていたのだ。

R.I.さんと話すなかで私は一つ気になったことがあった。それは、LGBTQ+をテーマにすることでみんなから自分が当事者ではないかと思われ、いじめられるかもしれないという不安はなかったのか、ということ。社会でLGBTQ+への差別や同性婚が議論のトピックになることで、逆に現在の生活が脅かされるのではないかと不安を感じる当事者の方も多いからだ。

そんな疑問に対して彼女は、何の気なしにこう答えた。

R.I.そういうことは全然考えたことなかったです。スピーチした後もクラスメイトの態度は何も変わらないし、そもそもクラスでは別にみんなと違っても特別視されるという空気はもともとありません。

今の小学生は、大人たちよりはるか前を進んでいる。

もちろん、全ての学校でこういう状況があるわけではないだろう。セクシュアリティを理由とするいじめで苦しむ子どもたちはいまだに多くいる。それでも、確実に社会は変わってきている。特に若い世代で、その変化は大きいのかもしれない。LGBTQ+についての知識の広がりだけではなく、小学生のなかからこのように差別や偏見といった問題についてスピーチをしようという人が出てきているのだ。

彼女のスピーチから一部抜粋して、ご紹介したい。

ー未来が平和であるためには、色々な人の色々な個性をみとめるということが私たちにできる第一歩なのではないでしょうか。ー
ーその人をみとめるというのは、その人と話し、その人のことをよく知るということだと思います。ー
ークラスの中や学年の中で他人の個性を尊重することについて話し合い、考えを深めていくことができると思います。ー

彼女はもうすぐ小学校を卒業する。彼女の同級生たちも卒業してそれぞれの進路に進むだろう。そして彼女/彼らが中学校に入れば、また違った環境から集まってきた同級生と新しい関係性を作っていく。性というテーマがより身近になってくる年頃で、悩みを抱える場面も増えてくるかもしれない。それでも同級生たちの心には彼女のスピーチを聞いたという経験と、それが普通に受け止められていたという経験がどこかに残り続ける。


忘れてはいけないのは、私が小学生だった時にも、今と同じだけ当事者はいたということ。ただそのことについて私が、そして多くの子どもや大人が知らなかっただけなのだ。そして差別や偏見はいまだに根強く、もしかしたら完全になくなる日は来ないのかもしれない。悲観的な気持ちになることも多いが、たとえそうであったとしても彼女の言葉と出会えたことで、私は次の一歩を進む勇気をもらえた気がした。


(文章:伊藤まり)

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