褒め言葉とジェンダー

身体の性と心の性があまり一致していない私。好きな服を着ているだけで特に女らしい恰好もしていない。むしろちょっと男性っぽい。それでもなかなか信じがたいことに、なにかで褒められるとき「それを選ぶなんてやっぱり女性だな〜」「さすが女子ですね!」など、性別を強調する一言を追加されることがある。「正気か?」とツッコミたいのは我慢して…、私ですらこんな感じなのだから、見た目と心の性が完全に一致しているみなさんは日常的に他者から性別を強調されているのではないだろうか。

私をこういった形で褒めた人々は、色や形にこだわること、事務作業の正確さ、料理への抵抗のなさなどを女性性と結びつけていたわけだけれども、それって本当に女の特徴なんだろうか? 個人の特徴ではないのか? どういった意図で性別を強調する言葉を付け加えているのか、私は発言者本人ではないので本当のところはわからない。しかし女らしさ・男らしさを強調することが、褒め言葉として一般的に認識されているのはなんとなくわかる。そう言われて喜ぶ人は確かにいる。

しかしその褒め言葉の裏に「我々男は鈍感で、不器用で、家事に不向きだ」という意味があるとすれば、女を褒めているようでいて、それらが不得意(思い込みも含む)な自分への言い訳であるし、ジェンダーロールを相手にも、そして発言者自身にもやんわりと押し付けているということになる。

私はこのような発言をする人に対して「何言ってんだこの人」とは思うけれども、非難するつもりもない。いちいちセクハラなどと叫ぶ気もない。が、発言者自身もジェンダーロールに縛られているのはよくないなと思う。「男(女)だから〇〇しなくていい、〇〇であるべきだ」という発想はその人自身の能力や資質も殺してしまっている可能性が十分にあり、すごくもったいないと思うからだ。実際に私は幼稚園の頃、「ピアノは女がやるもんだ」と思っていたためピアノを習わなかった。今となってはとても後悔している。

特に、性自認が微妙な自分にとって性別とは「生まれた時に与えられた形」以上でも以下でもないから「細かい作業得意なんですね、さすが丸顔!」とか「その色を選ぶなんて、やっぱり足首の骨が太いからだな〜」と言われるような感覚に近い。褒められポイントとの関連性を見出せない。

そればかりか、概念上の「女」に私の褒められポイント(手柄)を横取りされているような気分にすらなる。私が勉強したり、コツを掴んだりしてきた努力や個人の感性を「女」というわけのわからないものに取られてしまうなんてとても悔しい。だから性別を強調するタイプの褒め言葉は私にとってもやもやした感情しか残さず、せっかく褒めてもらったのに一気に台無しになる。

大抵の褒め言葉は「女だから」「男だから」と言わなくても成立するもの。誰かの行動や思いや感性に対して「おおっ」と思ったとき、自信を持って「あなたのここがすばらしい」と率直に伝えてあげてほしい。それはきっといつか自分への肯定感として、やんわりと返ってくるものだと思う。

#ジェンダー #性自認 #褒め方 #自己肯定感 #セクシュアルマイノリティ

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