パンダ音楽祭のつくり方(4)「ステージと出演者」

今回は、パンダ音楽祭の核とも言うべき「ステージと出演者」についてお話ししようと思います。

パンダ音楽祭の会場となるのは上野公園の中にある野外ステージ。ステージを中心に扇形にベンチシートの客席が広がっています。客席数は1212席。できて半世紀は経ってますからところどころ古ぼけてますが、それもいい味です。何より、前にも書きましたが僕のやりたいフェス、

・疲れない ・音でかすぎない ・安い ・おもろい ・自由 

これらを実現するためには、この会場がベストでした。風を感じる野外でありながら屋根つき。「雨の野音」みたいのもかっちょいいですが、この歳になるとただの風邪も命取りになります。晴れたら晴れたで暑いのもしんどいし。木製のベンチシートは長く座るとお尻が痛くなりますが、それでも足を棒にしなくて済みます。音量制限があるのであまり大きな音は出せませんが、弾き語りのイベントにはちょうどいい。パンダといえば上野、というくらいこの会場ありきではじまったのがパンダ音楽祭でした。(もしここが使えなくなったらどうしましょう。和歌山アドベンチャーランドあたりで開催ですかね)

パンダ音楽祭のステージはひとつです。ここに毎回6、7組ほどの出演者と司会の藤岡みなみさん、大道芸のお兄さんなどが登場します。いまではフェスというと「ステージが複数あって、それぞれにたくさんのアーティストが出演する」という形式が多いかと思います。でも、あのウッドストックも中津川フォークジャンボリーもビートチャイルドも、ステージはひとつ。どっちがいいとかではなく、考え方や好みの違いだと思います。前者が、自分の好きなごちそうを転々とする「バイキング型」とすると、後者は自分の前に強制的に次々ごちそうが出されていく「コース型」と言えます。パンダ音楽祭は後者です。悪く言えば自分で選べないけど、だからこそ思いもよらない「偶然の出会い」があったりもする。バイキングでは絶対選ばない「食わず嫌いの料理」にコースで出会い、なりゆきで食べてみたら意外といけた!いやむしろ好物かも!みたいな。なんでもかんでもネットで検索できる時代だからこそ「検索ワードに打ち込まない=本人が自覚していないけど、じつは好みのもの」に出会うことの意味が大きい気がします。

では、「パンダ音楽祭コース」で、どんな「ごちそう=出演者」を提供するか。歌がうまい、演奏がうまいのは当然ですが、パンダでは「初見の人でもわかるか、楽しめるか」を重視しています。上に書いたようにお客さんはバイキングのように自分のお好みだけ食べるわけにいかないので、ひと口食べて味がわかる、というのはすごく大事です。それが甘くても苦くても辛くてもいいけれど、「味がようわからん」というのはどうも向いていない。2、3曲のあいだに音楽性やメッセージ、世界観など、そのアーティストがやろうとしていることが力強くハッキリとわかるのがいい。個人的にはスルメのように噛んでいるといい味してくるタイプの人も好きなんですが、パンダのステージは1人だいたい30分程度なので、味付けはハッキリしていたほうがお客さんは楽しいのだろうと思います。その結果気にいるかどうかは好みの問題ですが。

また、わかりやすさということでは「日本語歌詞」ということも大事に考えています。自分が英語がほとんどわからないというのもありますが、ちびっこも多いし、母国語のほうが絶対にメッセージは伝わりやすい。そしてその日本語の発音が美しく、ハッキリとしているとなおいい。これまでのパンダ音楽祭すべてに出演してくれている3組のアーティスト、曽我部恵一さん、奇妙礼太郎さん、チャラン・ポ・ランタンさんは皆、日本語をきれいに歌い上げる人たちです。ほかにもMOROHAさん、前野健太さん、松尾よういちろうさんなど、素敵な日本語の遣い手がパンダのステージに立ってくれました(と言いつつ、Reiちゃんが英語で歌うのはとってもカッコよかった。やはりブルーズは英語でないと)。

あと、ご本人たちがどう思っているかはさておき、「MCがうまい」ということもパンダにおいては大事だと思います。単にしゃべりがうまいというだけでなく、会場の空気をうまくつかむ、観客とのキャッチボールが上手ということです。これは、この会場がふつうのライブハウスと違い、お客さんの顔がステージからよく見える、大箱のわりに距離が近いということによります。パンダでは、観客が出演者にツッコミを入れるだけでなく、出演者が観客にツッコミを入れるという風景がよくあります。お客さん丸見えです。それによって観客席はステージの一部のようになり、会場がさらに一体感を増すんじゃないかと思います。

最後に、最大の秘密(?)を書きます。一度来た方ならおわかりですが、パンダ音楽祭はゆるさが特徴といいつつ、終盤にかけて異常に熱く盛り上がります。ラストの曽我部さんでは知らない人同士が肩を組み大合唱になったり。司会の藤岡みなみちゃんはこれを「ゆるエモ」と表現しましたが、まさにパンダ音楽祭を言い表していると思います。このゆるエモ、当初から実現したかったことでした。そしてそのお手本は、子供の頃に見たプロレスにあります。プロレスを見に行くと、だいたい6、7試合くらいが組まれていました。序盤は若手やベテランの選手がドタバタぽい「笑えるプロレス」をやり、会場を温めます。中盤、技巧派が渋い試合を見せると、一転会場はシーン。静かな緊張感が漂う。そこからメーンイベントへ一気にボルテージが上がり、大観衆は熱狂の渦へ…と、かなり雑なまとめをしましたが、最後の盛り上がりのためには、そこに至るまでの緊張感、温度の緩急が大事で、すべての試合に意味がある、そんなことをプロレスから学びました。そして、編み出された「パンダ音楽祭・ゆるエモの方程式」が、

おもしろい → まったり → 熱い

です。多少の違いはあれど、だいたいパンダ音楽祭のタイムテーブルはこうなっています。こういう流れをつくれるのは、やはりパンダが「コース料理」だからなんですね。バイキングではこうはいきません。そして、お客さんもコースの味わい方をご存知のようで、途中入退場自由のイベントにもかかわらず、ほとんどの方がずっと席に座り、頭から最後までいらっしゃいます。そうして、お目当ての出演者はもちろん、はじめてのアーティストに耳を傾け、時にはファンになって帰って行くのです。「パンダ音楽祭のおかげで新しい音楽と出逢えた」「この人のファンになった」「帰りにCD買ってみた」という声を聞くたび、やっててよかったなあと思います。

もしほんのちょっとでも興味を持たれたら、ぜひ来年のパンダ音楽祭へお越しください。新しいコースを用意してお待ちしています。

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