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通い婚の夫婦喧嘩《ゆびがゆユングトゥ》

《ゆびがゆユングトゥ》波照間島の古謡です。

通い婚というのは、夫が夜だけ妻のもとを訪れるという結婚形態で、子どもが二三人もできると妻の実家から出て新しい家を立てるというものでした。

このような結婚形態は近代以前の西日本や沖縄の民衆層の結婚では、ごく普通に見られたものでした。

波照間島に伝わる《ゆびがゆユングトゥ》では、その通い婚時代の夫婦のやり取りが歌われています。

「ゆびがゆ」は「夕べの夜」という意味。「ユングトゥ」というのは、八重山古謡のジャンルの一つです。

出典は、喜舎場永珣『八重山古謡 下巻』(1970年)で、歌詞は囃子以外のカタカナ表記をひらがな表記にし、「ちぃ」などの中舌母音を「つぃ」などと表記しています。訳は具志堅要による私訳です。

ゆびがゆ ユングトゥ(波照間島)

ゆびがゆや なうちやむいどぅ ヨーイ おうらなーだる
夕べの夜は 何を思って いらっしゃらなかったの

いくだゆや いかちむいどぅ おうらなーだる
過ぎた夜は どういう思いがあって いらっしゃらなかったの

ゆびがゆや あみぬふるんでどぅ ふなだるヨーイ
夕べの夜は 雨が降るから 行けなかったんだよ

いくだゆや かじぬすぎどぅ くなだるヨーイ
過ぎた夜は 風が吹いていたから 来れなかったんだよ

あみぬふるんで どぅぬとぅずぃん してぃるんなヨーイ
雨が降るからといって 自分の妻を 捨てるのですか

かじぬすぐんで どぅぬみやるび なぎるんなヨーイ
風が吹くからといって 自分の恋人を ほっておくのですか

めぬがまでん かちやがまでん ねなーだーなーヨーイ
蓑さえも 笠さえも 無かったのですか

めぬですや ふびやねーぬ めぬやりヨイ
蓑というのは 首のない 蓑だったんだよ

かちやですや じんやねな かちやがまヨーイ
笠というのは 頂上の無い 笠だったんだよ

ふびすらし じんすらし おーりやなーだー
首を修理して 頂上を修理して 来れなかったのですか

すぃたらみりば てぃびらだきぬ よいだき
下の方を見たら 掌〔さえも見えない〕ほどの 暗闇だったんだよ

すぃたみりば ふんぴやんだき みらるぬ よいだき
下を見たら 踏む指先さえ 見えない 暗闇だったんだよ

まるびいしに ぱんばきりしどぅ くなだーどぅ
躓かせる石に 爪先を蹴って 来れなかったんだよ

むいいしに しぶしんばりどぅ くなーだるヨーイ
突き出ている石に 膝小僧を割って 来れなかったんだよ

しぶるにし ふくたどぅり
冬瓜の〔蔓の〕ように 石垣をたどり

なべらにし ますぃたどぅり おれらば
糸瓜の〔蔓の〕ように 垣根をたどって 来たら

くぃんいちやや むむかくし ぬびゃらば
一枚の着物で 腿を隠し 寝れたのに

かかんいちやや ぱんかくし ぬびやらば
一枚の腰巻で 足を隠して 寝れたのに

みやらびとぅ むむやらし ぬべらば
恋人と 腿を重ねて 寝れたのに

かぬしゃまとぅ うでぃやらいし ぬべらば
愛しい女と 腕を重ねて 寝れたのに

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