サマーソニックのすべて / Summer Sonic Guide


 Summer Sonic / サマーソニックとは、洋楽をメインとしたプロモーター、クリエイティブマン・プロダクションによるミュージック・フェスティバル、所謂、夏フェスである。
 略称はサマソニ、ハッシュタグなどではSSと略されて、後ろに開催年度をつけてインスタグラムやツイッターなどのSNSに投稿されることも多い。(例 #SS08 #SS19)

 開催時期は毎年8月。かつては第2週の週末に開催していたが、同じ千葉県で行われるロック・イン・ジャパンが8月第1、第2週に渡る長期開催となった煽りを受けて、現在では8月第3週の土日開催で定着している。また、その前日には前夜祭とも言えるオールナイト・イベントとしてソニック・マニアも開催されている。(ソニックマニアは、幕張メッセのみを使用。)

 会場は東京と大阪の2つに分かれての同時開催。これはイギリスのレディング/リーズ・フェスティバルをモデルにしたためであり、基本的にアーティストは、東京と大阪で1日ずつの出演となるが、東京と大阪ではステージ数が異なるため、必然的に東京のみ、もしくは大阪のみの出演となるアーティストが生じてくる。

 また、海外から来日するアーティストの中にはサマソニ開催時期に前後した形で単独公演を行う場合もあり、サマソニ・エクストラとして東京、大阪のみならず、他地域の会場を使うケースも珍しくない。

 例を挙げると、2022年にソニックマニアのヘッドライナーとしてブッキングされていたプライマル・スクリームは、その後、サマソニ東京の2日目にも出演することがアナウンスされただけではなく、大阪と名古屋でも単独公演を行っている(サマソニ大阪への出演はなし)。
 サマソニ・エクストラが催されるのは、マウンテンステージとソニックステージの出演者が多く、過去のヘッドライナーでエクストラを開催したのはグリーン・デイやミューズなど極僅かな例しか存在しない。

 サマーソニックが初めて開催されたのは2000年、当時は富士急ハイランドと大阪WTCでの開催であったが、翌年から東京会場は千葉県の幕張エリア、大阪会場は2007年より舞洲に場所を変えての開催が定着している。

目次
1. チケットについて
2.会場について
3.観客について
4.場所取りについて
5.服装について
6.グッズ販売について
7.サイン会について
8.洋楽ファン、邦楽ファンの常識の違いについて
9.マナーについて
10. 持ち物について
11. ソニックマニア、ミッドナイトソニックについて

1.チケットについて
 例年、2月の主催者会員先行販売(クリエイティブマン会員のみ)、先行販売期間を経て5月末から6月頭に一般販売を開始する。2022年は初めて一般発売前に2日通し券が完売したが、売り切れない年もあるし、その場合は当日券が販売される(前売り価格とは異なる)。
 チケットの種類は3つ。 2日通し券、1日券(開催日指定)、プラチナ・チケット。プラチナ・チケットには2日券が存在せず、1日券のみ。よって、2日ともプラチナの恩恵を受けたければ、2日分のチケットをそれぞれ購入しなければならない。

 プラチナ・チケットが一般チケットと違うところは、専用ヴューイング・エリアの設置、グッズ販売に際しての専用レーン、マリンとメッセを結ぶ専用バスの利用、専用の休憩所といったところ。勘違いしている人もいるようだが、プラチナチケットの人が一般エリアで鑑賞してはいけないというルールは存在しない。

 オール・スタンディングのフェスティバルなので、チケットには整理番号も存在しない。但し、マリン・スタジアムのスタンドには当然ながら座席があるし、マウンテン・ステージの最後方プラチナ観覧エリアにもある程度の椅子が設置してあり、早い者勝ちの自由席となっている(*前方プラチナエリアは全ステージがスタンディング)。大阪では野球場を使ったマウンテンステージの後方とソニックステージの2階に座席が存在するが、こちらも全て自由席となっており、人気のあるアーティストの際にはしばしば埋まってしまう。

2.会場について
ここでは東京/幕張会場のみを解説する。
 基本は千葉マリンスタジアムと幕張メッセ、そして幕張海浜公園内のビーチを使った3か所に渡るエリアがサマソニの会場となる。
 ステージ数は開催年によって異なるが、概ね千葉マリン・スタジアムを使用したメイン会場のマリン・ステージに幕張メッセ内のマウンテン・ステージ、ソニック・ステージ、パシフィック・ステージ(レインボー・ステージから改称)、そして砂浜に造られたビーチステージが固定ステージとなっている。その他、マリン・スタジアムの外周エリアには、アイランド・ステージやビルボード・ステージが設置されて来た歴史もあるし、ビーチと反対側のエリアにはガーデン・ステージと野外宿泊エリアがあった時代もある。

 マリンスタジアムやメッセの中は勿論、屋外のビーチも含めたエリアは一帯が封鎖され、チケットを持たない人は入場出来ない。
 かつては、ビーチ・ステージやスタジアム外周に設置されたアイランド・ステージのみ無料で観られる年が存在し、チケットを持たなくとも音漏れを聴いたり、屋台飯を食べて雰囲気を味わうことも出来たが、現在ではこうした行為も一切不可能となっている。

マリン・ステージ(千葉マリンスタジアム)収容人員は3万強
マウンテン・ステージ(幕張メッセ)収容人員は2万弱
ソニック・ステージ(幕張メッセ)収容人員は1万弱
ビーチ・ステージ(砂浜)収容人員は5000人

~過去に存在したステージ
ガーデン・ステージ
 マリンスタジアムからイオン幕張方面に進み、左折した場所に設けられた宿泊エリアにかつては併設されていた。5000~7000人近くが観覧できた場所ではあるが、過去ガーデンにそこまで集客したアーティストはいない。

ビルボード・ステージ
 マリン外周に設置 ライブレストランのビルボードライブと提携したステージで、ジェス・グリンやシェリル・リンといった大物から、ビヨルン・アゲインのようなレアな存在も登場している。収容人員は3000人程度

アイランド・ステージ
 マリン外周に設置した年もあれば、幕張メッセ内に設置された年もある。台湾や韓国などを中心にしたアジアのバンドで固められていた時期もあるし、かつてはスガシカオ、小泉今日子といったお茶の間でも名の知れたアーティストからブリング・ミー・ザ・ホライゾンといった海外バンドもアイランドで演奏している。

3.観客について
 客層は開催によって変わるし、各々が回るステージによってもかなり印象は変わる。集客力の高いヘッドライナークラスの客層に左右されることも多く、クイーン+アダム・ランバードの2014年なら親子3世代で来ている人もいたし、グリーン・デイやレッド・ホット・チリ・ペッパーズのようなバンドであれば、30代から40代のサマソニ常連客が詰めかける。アリアナ・グランデが来た際は、お馴染みの角を付けた女子が多かったし、リアーナの年は普段からクラブで遊んでいる人々が団体ツアーを組んでマイクロバスやワゴン車などを連ねて来ていた。
 下は両親に連れられた幼児、友達同士で来ている中学・高校生から白髪の夫婦まで見かけるのがサマソニの幅の広さ。キッズエリアでは子供向けのサーカスや一緒に踊るイベントが設けられたり、かつては専門の保育士を配置して子供たちに目を配っていた年もあった。

 ステージ毎にファッションが分かれるようなこともあるし、ビーチ・ステージには長く居座る集団が発生しやすく、水着の客に酔っ払いやタトゥー率も高めとなっている。
 洋楽フェスなので、当然ながら外国人客は多く、酒を飲みながら大声で熱唱する。前回リアム・ギャラガーが出演した際(ソニックマニア2017)は、開演前から観客がOASISの曲を大合唱して待っており、壮観な光景だった。
 近年ではクリエイティブマンの方針からアジア(中国、韓国、台湾、タイなど)からの客を意図的に数多く呼びこんでおり、2023年は何千人分ものチケットがすぐになくなったため、海外向けに追加チケットを用意したと清水代表が明らかにしている。

4.場所取りについて
 初めて参加するというか、邦楽目当て、K-POP目当ての人に一番多い質問はこれだろう。「どうしても最前列で観たい。どうしたらよいか?」。
 普段、座席指定のコンサートしか体験していない観客にとっては、努力次第で近くで観られるまたとない機会ということで、気合が入るのは分かるが、アーティスト、もしくはスロットによるとしか言いようがない。

 サマーソニックは入場規制がかからない限り、全ステージ入退場自由。
 入れ替え制でもないので、そこにいようと思えば、朝から晩までいられる。
 但し、マリンステージのアリーナエリアは水以外持ち込み禁止(手荷物検査あり)。マリンステージMCのサッシャの指示により、ステージ転換時には熱中症予防と前方エリアに座らせないため、消防用ホースで頻繁に勢いよく水をまく。そのため、気温だけでなく、湿度も異常に高くなる。
 過去、最も暑かったとされる2013年のサマソニでは、千葉市の最高気温が土曜日37度、日曜日38度を記録している。勿論すりバチ状になっているスタジアムの中は更に熱くなっており、場内の気温は40度を超えていたことがサッシャからも報告されている。

 規模の大きなフェスティバルを知らない人は何時に行けばよいかと悩むかもしれないが、来る時間は人それぞれ。目当てのステージがあれば、余裕をもって早めに入場すれば何ら問題はない。リストバンド引き換えの混雑は開場時間の前後にピークが来るものの、実際の入場数が最も多いのは昼前後だろう。
 近年までは2日券がマリン入口、1日券が幕張メッセでのリストバンド交換となっているため、例えば1日券を持つ人がマリンステージに一番乗りするこは物理的に無理だったが、2022年より1日券の引き換え場所もマリン側に出来ため、今は2日通し券所有者だけがマリン限定の引き換えを強いられている形となっている。

 それではサマソニの客は大体、朝何時から並んでいるのかと問われれば、答えは前日真夜中から。まず、ソニックマニアで目当てのアーティストが終わった後にすぐ並び始める人がいるし、電車の始発組よりも早く深夜バスのツアー客が未明に会場最寄りのホテルに到着するので、メッセ、マリンともに朝方には結構な人数の列ができている。
 とはいえ、朝早く来る人の大半は当日まで入荷数が不明なアーティストグッズの購入が目的であり、ヘッドライナークラスの場所取りのために待機するような人は皆無に近い。
 中には開門直後からマリンステージの最前列を確保し、カロリーメイトや水だけでしのぎ、オムツを履いて頑張るような猛者もいるようだが、そうした人たちも結局は途中で脱落していく。

 人気アーティストの時間となれば、モッシュピットの中はすし詰め状態。体験したことがない人は、ラッシュ時の満員電車の中を想像してもらえれば分かりやすいかもしれない。
 腕を振り上げると降ろす場所はなく、胸や背中には汗だくになった他人の体温を感じながらのライブ鑑賞となる。リズムに乗って足を上げると、かかとを降ろす場所さえ見つからないという状態も生まれてくる。
 腕には人の汗が付き、ノリまくる周囲の客からは、唾や汗のシャワーを浴びる羽目にもなる。ペットボトルの中身を周囲の客の頭上にぶちまけるのは、サマソニではお馴染みのシーンだが、しばしば中身が水(本来、マリンのアリーナは水とお茶以外持ち込み禁止)ではないこともあるので頭からベトベトにされてしまい、殺意を覚えることになる。
 また、そんな中でもモッシュやクラウドサーフが発生し、平気で人の肩からよじ登ったり、頭を蹴っていく輩も出現する。密集の中で意図的に暴れ回り、文字通りに周りを蹴散らせる行為をするような乱暴者から、痴漢行為を働く犯罪者もいることは覚えておくべきであろう。

 各ステージの混雑度はスロットにより大幅に異なるが、場所取りが多くなるK-POPの前に当たるスロットを目当てにする人は、特に注意が必要。2022年のTOMORROW×TOGETHERは3つ前の優里の段階で入場規制となり、本来ならマウンテンどころかソニックステージを埋めるレベルではないと思われるEASY LIFE、3OH!3のステージも完全にフロアーは埋め尽くされていた。転換時には抜けていく人が作るスペースを目掛けて女子たちがバリケードを壊したり、乗り越えたりと結構な混乱が生じていたことも付け加えておきたい。

5.服装について
 真夏の野外イベントなので、吸汗速乾の素材が良いだろうが、多くは普通のTシャツなどを着用し、脚を出したスタイルだろうか。サッカーやテニスなどのスポーツウェアを組み合わせている人や、水着で来るような人たちも少なくない。
 邦楽アーティストのファンは概ねロック・イン・ジャパンの客層と似たり寄ったりで、現地で服装やグッズをお揃いにしてあちこちで記念写真を撮っている姿を見かける。

 一方、海外アーティストのファンは、それぞれ独特のスタイルがあったりする。(例:スリップノットならつなぎにガスマスク、アリアナ・グランデのファンなら悪魔の角といった感じ。EDM系のアーティストの場合は流行に敏感な人が多く、年毎に異なる顕著な傾向あり。)

 ビーチステージには水着にビーチサンダルという人もいるし、外のステージをメインにする人はサングラスや帽子の着用率も高い。
 傘は全ステージ使用禁止なので、雨模様の際はポンチョや帽子が必要となるが、猛暑の時期なのでずぶ濡れでもお構いなしの人は結構多い。2022年の東京1日目は、ヘッドライナーのTHE 1975が出てきた際に随分と雨脚が強くなっていたが、アリーナレベルでは雨具を着用していた人の方が少数派であった。
 また、ソニックマニアと同じようにクラブに行くような服装で来る人もかなりいるが、外のステージが目当てなら日焼け対策は必須となる。客がモッシュやクラウドサーフを行うようなステージでは、終わった後に眼鏡やサングラス、タオルに靴などが散乱していることもしばしば見受けられる。

6.グッズ販売について
 アーティスト毎のグッズに関しては、販売場所が2か所に分かれている。マリン・ステージ、ビーチ・ステージなど屋外に造られたステージに出演するアーティストはマリン外周エリアでの販売。
 幕張メッセ内ではマウンテン、ソニック、パシフィックといった屋内ステージのアーティスト・グッズが販売される。
 当然ながら、いずれもリストバンドなし(チケットを持たない人)での購入は不可能となっているが、唯一メッセの駅側に設けられるサマソニ・オフィシャル・グッズだけはチケット交換前に購入する人もいるので、リストバンドの有無による制限はない。また、近年ではサマソニオフィシャルのグッズに限っては、開催期間前後にネットでも購入可能な期間が設けられている。
 今年に入って行われたレッド・ホット・チリ・ペッパーズやThe 1975の単独公演では中国人を始めとした転売ヤーによる爆買いの餌食となり、あっという間に売り切れてしまったモノもあったので、サマソニでも規制を敷かない限り、必ず同様の憂き目にあうだろう。

7.サイン会について
 基本的に海外アーティストのみ。邦楽やK-popアーティストのサイン会は行われない。サマソニのオフィシャルグッズを購入するか、メッセ会場内に設けられたHMVブースにて対象アーティストのCDやDVDを購入した人のみ、参加権利が与えられる。
 昨年は初めて事前にLINEによるネット申込が行われたが、それまではグッズやCDを購入後にサイン会ブース前で整理券をもらう方式を採用していた。
 各アーティスト30名前後の狭き門となっている。アーティストによっては基本不可とされている写真撮影にも応じているが、サイン会観覧者の撮影は、一律に禁じられている。

8.洋楽ファン、邦楽ファンの違いについて
 サマーソニックはあくまでも洋楽フェスとして生まれた経緯もあり、邦楽ばかりのフェスとは根本的に常識が異なる。その最たるものは、座席指定ではないオール・スタンディング形式と観客による撮影の可否となろう。

 近年は邦楽でも日本各地にオールスタンディングのフェスティバルが乱立され、決して珍しい形式ではなくなってきたが、昨年のロック・イン・ジャパンやapバンクのフェスように立ち位置指定や自分のエリアを確保できるようなスペースは一切保証されない。
 そうした中でよく見かけるのが、自分の前にある僅かなスペースに入られて憤慨する邦楽ファンの姿。洋楽のライブで慣れている客ほど隙間に入っていくのが上手いし、それを咎めるような空気もサマソニには存在しない。

 そして、アーティストのジャンルによるものの、開演と同時に前方にいるほど圧縮が激しく起こり、意図的に後ろからつぶされる場面は程度の差こそあれ、どこのステージでも毎回のように生じるものと思った方が良いだろう。
 こうした状態に耐えられない人は、無理に頑張らず、素直に下がった方が身のため。
 背の低い女性がモッシュピットに陣取り、密集の中で熱中症や酸欠状態に陥って、文字通り落ちて行く場面もよくある訳だが、混雑度合いが酷い際にはスタッフによる救護も遅れがちになるし、2019年の大阪では倒れた人を契機に将棋倒しとなった事例も報告されている。
 特に、ノリもせず、その後に出演するアーティストを待っているだけの人を排除するためにわざと体当たりしたり、後ろから他人の背中に肘を突き立てるような悪質な連中も中には結構いる。着ているTシャツや人気曲に対する反応で、所謂地蔵目的の人はすぐに分かるので、ターゲットになりやすい。音楽のジャンルによっては無理やりクラウドサーフやダイブをする人も頻繁に出てくるし、モッシュは勿論、サークルを作る派手なタイプまであるのがサマソニの見慣れた光景。暴れることを煽るミュージシャンも多いので、周りを確認し、危険を感じたら場所を移ることが安全に過ごす第一条件となる。

 また、2018年までマリン・ステージのみL&Rと左右のブロックで分けられていたが、それも2019年より廃止され、どちらのブロックにも自由に行けるようになっている。これもメッセ内のステージでは存在しないLRの区分けについて、サマソニ初出演だったENDRICHERIのファンが無知な状態でスタッフに多くのクレームを入れたことが契機となったという(スタッフ談)。

 そして、何より観客の考え方、運営の対応に違いが出るのは、撮影についてであろう。一応、サマーソニック公式サイトも撮影禁止をうたっているが、これは実質的には邦楽アーティストのみ対象となるものといえよう。(BiSHのような例外もあり。)
 基本的に洋楽アーティストはプロ仕様のカメラや自撮り棒、一脚、フラッシュを使用しなければ、撮影はOKというか、黙認となっている。

 これは世界的にMySpaceが流行り、カメラ付きケータイが普及した2007~8年くらいから顕著な流れで、日本でも昔はサマソニやフジロックだけではなく、来日公演での撮影も邦楽ライブと同じく不可であった。それが決定的に変わったのが、スマートフォンの普及であり、音源のフィジカルリリースからダウンロード配信、そしてストリーミングへの転換という世界的な流れ。

 今でも日本ではシングルCDが発売され、秋元康プロデュースやジャニーズLDHなどのグループを中心にファンが何枚も同じCDを購入することでチャートを押し上げる形式が長く継続している。
 しかしながら、海外ではCDという存在そのものが駆逐され、逆にコレクション・アイテムとしてのLPレコードが復権するなど、全く違う流れがスタンダードとなっている。

 欧米のアーティストは既に何年も前からフィジカル(CD)リリースに見切りをつけ、全く金にならないサブスクリプションやストリーミングなどの音源にも頼らない(頼れない)方向に舵を切っている。アルバムはCDやカセットテープでの販売も一切無かったり、アルバムは作るけどシングルは発表しないアーティストも出て来ており、その対応はジャンルやアーティストにより様々。

 そうなると、重要なのはライブで稼ぐこと。J-Popのアーティストであれば、毎年のように行われる全国ツアー毎にDVDが発売されたり、こまめにシングル曲をCDとしてリリースすることでファンの購買欲を刺激しているが、海外アーティストは殆どツアー映像作品を発売しない。
 これはワールドツアーに伴う著作権等の複雑さ、各国で違う映像フォーマット(NTSCやPAL、Secam)などもあり、そこにコストをかけるよりYOUTUBEやインスタグラムなどで広く宣伝効果を求めた方がバイラル・チャートのポイントも稼げるため、有益となっている。

 また、今では廃れてしまったが、誰でもアーティストとして登録でき、双方向のインターフェイスとして音楽ファンを世界的につなげる役目を果たしたMySpaceが時代を変えた側面も見逃せない。
 それまで、ミュージシャンの公式サイトというものは、一方通行かつ閉鎖的なものだったが、アーティストからの発信のみならず、ファンが公式サイトを充実させていくという手法が一般的なものへと変容していった。

 例えば、ツアー・アーカイブを構築する際に、ライブの写真やセットリストを投稿し、ファンが共有する形は広く採用されたし、アーティスト側からはツアーで来てほしい街を募り、それが実現するとMySpaceやレーベルがファンイベントをそのライブ開催地で行うというパターンも数多く見られるようになった。
 当時、日本だけはその流れに乗って来られず。折角、来日公演があっても何の写真も公式サイトにアップロードされないため、日本公演は日程上は存在するけど、本当に開催されたのかどうかさえ世界のファンは分からないという状態が長く放置されてきた。
 こうした中で、日本のファンが写真を載せられずに御免なさいと公式サイトに謝罪のコメント残すケースも数多く見受けられた。

 このようにガラパゴス化していた来日公演下の事情も、2010年代に入ると徐々に変化して行き、今では予めスマートフォン以外での撮影は禁止と看板表示があるようになったり、バックストリート・ボーイズやテイラー・スウィフトといった大きな箱を使う来日公演では、事前にスマホでの撮影は静止画、動画ともにOKという場内アナウンスも入るようになっている。

 そして、サマソニでの対応もコンパクトデジカメやケータイでの撮影に対して警備員が咎める場面は年を追う毎に少なくなり、2010年代半ばには洋楽アーティストは撮影OKという空気に変わっていった。

 これはサマソニ当日にアルバイトで入るスタッフにも周知されているようで、邦楽ステージの際はスマホを掲げると目ざとくバツ印を作ったり、直接注意しに来るスタッフであっても、海外アーティストのステージでは同様の行為を完全に無視した態度でやり過ごしている。

 但し、海外アーティストの中にも撮影を快く思っておらず、禁止させるケースも皆無ではないので、観たいアーティストについての撮影可否情報は事前に仕入れておくべきだろう。

9.マナーについて
 洋楽ファンと邦楽ファンでマナーの常識が大きく異なっているため、お互いが不満を持つことは避けられないのが、ごった煮と言われるサマソニの持つ特徴。二者は根本的に会場内での動き方も異なる。

<邦楽、K-POPファン> お目当てとなる絶対的なアーティストが1組もしくは2組ほどおり、何時間も前からひたすらそのステージに張り付こうとする。最前列というポジションに拘りが強く、場所取りに必死。自分の目当てと同じステージの出演者を楽しもうと予習してくる人もいるようだが、それは完全に少数派。サマソニ初心者が多く、リピーターも中にはいるものの、参加回数は圧倒的に少ない。

<洋楽ファン> どのアーティストも数少ない来日の機会なので、出来るだけ多くのステージを観たい。特別に目当てという訳でもなければ、そこまで観る場所には拘らないし、ステージの移動も頻繁に行う。品定めをして、眼鏡にかなわなければ立ち去る足も早い。サマソニ自体のリピーターが多く、導線にも慣れた動きをする。気に入ったアーティストであれば、後から来ても僅かな隙間を縫ってグイグイと前に行ってしまうのもサマソニ常連者の特徴だろう。

 上記のような傾向があるため、2013年にはMCのサッシャが某テレビ番組で事件として紹介した「ミスチル地蔵」の出現が話題となった。

 2013年のサマーソニックでは、小林武史プロデューサーからの逆オファーを受けてMr.Childrenが初出演。トリ前に割り当てられた。
 すると、普段は大きな箱であってもチケット入手が困難な超人気バンドを目当てにチケットは早々にソールドアウト。初日の大阪で事件は起こった。

 ミスチルの前に登場したのは、アメリカン・オルタナティブの雄スマッシング・パンプキンズ(通称スマパン)。グラミー賞でのノミネートは二桁に及び、1990年代を代表する世界的なバンドである。サマソニには2度目の出演。前回出演時はマウンテン・ステージのトリを務めていた。
 しかしながら、大阪のオーシャン・ステージに詰めかけた観客の殆どは、ミスチルが目当て。スマパンなど全く興味はないため、メンバーが登場しても拍手はまばらで、世界的なヒット曲を歌っても反応は乏しいまま。歓迎されていないと感じたフロントマン、ビリー・コーガンはセットリストを縮めてステージを降りてしまった。
 この時の観客の態度はひどいもので、柵にもたれてケータイをいじったり、大声でライブとは関係ない会話をしたり、混雑している場内に禁止されている大型の椅子やクーラーボックスを持ち込み、ミスチル登場まで灼熱の中で鋭気を養う強者までいた。
 こうしたミスチルファンの姿はツイッターなどで話題となり、彼らのファンの中にはマナーの改善をSNS上で訴えた者もいたようだが、翌日の東京マリンステージでも様子はそれほど変わらず。置くスペースなど存在しないのに、折り畳み椅子を持ち込み、スマパンのライブ中には暑さと密集に対する愚痴を言い合い、挙句の果てには次の曲を紹介するといつまでやるのかとばかりにため息をついていた。そのため、ビリーは「暖かい歓迎をありがとう」と彼なりの皮肉を言って、ステージを終えた。

 その後スマパンは一度も来日していないどころか、他国での公演中に日本国旗を踏みつけるパフォーマンスまで見せている。
 後にビリー・コーガンは日本メディアのインタビューを受けた際にサマソニを振り返り、「あそこに僕らのファンはいなかった。」「歓迎されていると感じることは出来なかった。」と語っており、今後も来日公演は期待できないであろう。

 勿論、ミスチル地蔵の責任はファンそのものにあるが、あの並びにしたクリエイティブマンにも大きな責任はあるといえる。

 これを教訓としてか、翌年のサマソニでは国民的ヒット曲を持つドリカムをトリから数えて4番目に配置し、後ろに控えていたリッチー・サンボラやアヴリル・ラヴィーンのファンが被害を受けないようにしていた。

 とはいえ、こうした事例は枚挙に暇がなく、個人的には2019年のミッドナイト・ソニックに蔓延ったK-Popファンが過去最悪の態度であったと断言したい。  

 2019年のミッドナイトはMGMT、SEKAI NO OWARI、NCT 127、R3HUB。
一番手に登場したMGMTがK-POP地蔵の被害を受けた。
 折り畳み椅子を持ち込み座る。決して空いているわけではないフロアーで文字通り寝転んで起き上がらない、ひたすらスマホをいじる。最大出力で音を出している扇風機を手に持ち、電話をかけてしゃべりだす。後ろに向かって手を挙げたり、ジャンプして自分がどこにいるかをアピールして友達と合流しようと努めるなど正にやりたい放題。
 自分が目当てのアーティストのライブを見ている中で、同じことを目の前でされたらどう感じるかという想像力が完全に欠如しているファンしかそこにはいなかった。
 その態度には次に登場したSEKAI NO OWARI(2014年にも出演)のファンもかなり憤慨していた様子だったので、フェスに慣れない韓国アイドルのファンが如何に常識に欠けたものであったかは、邦楽屈指の人気バンドのファンにも相当悪質なイメージを残したのだろう。

10.持ち物について
 本当に大事なのはチケットだけ。場内はキャッシュレス化が進んでいるので、人によっては財布も必要ないかもしれない。
 目的がメッセ内のステージばかりであるなら、サングラスや帽子、日焼け止めも要らないだろう。不要な荷物はクロークに預けておき、水やタオルなど最小限度にした方が良い。
 K-Popやアイドルのライブ会場にありがちな自分をアピールするためのうちわやペンライトの類は明確に禁止されてはいないが、熱心なファン以外からすると完全に邪魔でしかない。座席指定のライブではないので、至近距離で真後ろに人が立っていることや、異なる客層が混在するために自分が振った棒が人の顔に直撃する危険性が高いことを認識すべきだろう。
 また、ライティングの濃淡を含めて演出を行うようなアーティストの際に余計な光が入っては台無しとなってしまう。盛り上げるために良かれと思って自前のペンライトを他のアーティストのステージで振っている人もいたりするが、完全に迷惑行為であることを認識すべきだろう。

 他にも、折り畳み椅子や日除けシェードなどは論外。レジャーシートもビーチステージ以外では、危険物となるのでやめるべきだが、後方の空きスペースで寝ころぶために持ってくる人は少なくない。(以前はスポンサー企業が配ったこともあった。)
 邦楽のライブではお揃いの格好で、お揃いのグッズを身に着け、一糸乱れぬ振りをして楽しむことが常態化しているようだが、洋楽フェスではそうした雰囲気は一切存在しない。
 雨天の際はマリン・ステージやビーチ・ステージであっても傘は使用できないし、折り畳み傘以外は会場内に持ち込むことは出来ないので、天気予報には中止すべきだろう。

11.ソニックマニアとミッドナイトソニックについて
 いずれも幕張メッセのみを使用して行われるオールナイト・イベント。
 前夜祭となるソニックマニアは、チケットも完全に別売り。ミッドナイト・ソニックは年によりばらつきがあるが、概ねサマソニのチケットを持っていれば券種を問わずに誰でも観られることが通例となっている。
 深夜帯なので18歳未満は入場不可。入場時に年齢確認できる公的な身分証明書が必須となる。
 とはいえ、入場混雑時には年配客などがノーチェックで通されることも少なくない一方、少しでも10代に見える風貌の人は、生年月日を確認するまで通してもらえない。客層はクラブイベントに慣れた人たちが多く、服装もサマソニ本編とは違ったものを選ぶ人が多く感じられる。夜中ということもあり、泥酔した客がフロアーで死んだようにつぶれている姿もよく目にする。

12.飲食物やコインロッカー、クロークについて
 メッセエリア、マリンエリアともに多くの出店がある(ソニ飯)が、冷房の効いたところやボリュームを求めて近隣のプレナ幕張やワールドビジネスガーデン、イオンモールなどの施設に入っているレストランを利用する人もいる。メッセ内階下に備え付けの自動販売機は大人の事情で隠されてしまうが、入り口にあるコンビニやメッセ内の廊下にある自動販売機は利用できるし、売店でも飲食物は購入できる。

 クロークは2023年より2000円に値上がりしたことによりプラチナチケット所有者でなくとも出し入れ自由となった。とはいえ、戻る時間を考慮すれば預ける際は慎重に手荷物をチェックすべき。コインロッカーはマリンスタジアム周辺や幕張メッセに常設されたものが利用できるし、幕張駅周辺にも多数存在する。コインロッカーの検索サイトでも多数ヒットするので、早めに来れば困ることはないだろう。

 最後に、終演後のJR海浜幕張駅は非常に混雑する。小さなステージが終わる20:30頃から22:30くらいまでは駅自体が入場規制をかけてしまうので、決して思い通りの電車には乗れない。遠距離から来る人や乗り換えの多い人はタイムスケジュールに余裕を持って行動することを心掛けないと終電を逃すことにもなりかねないので注意してほしい。


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