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「波動医療」に気を付けて!

バイオレゾナンスは「波動医療」の一種。
1970年代にドイツの技術者(医師ではない)パウル・シュミットが開発しました。
その内容は‥

「量子力学によれば物質は全て振動していて、それにより波動が出ている。
 物質にはそれぞれに固有の周波数がある。
臓器の発する波動の周波数を測定することで不調や病気の原因を突き止める。
共鳴により波長を整えることで治療効果を得る」、のだとか。

一体この「波動」と称するものは何なのか?


「波動」ってなぁに?

パウル・シュミットのバイオレゾナンスを日本に紹介したジモン著「パウル・シュミットのドイツ波動健康法」(※)、期待して読んでみましたが、結論から言うと「波動」の正体は「分からない」、と。

そして、「我々は五感を主体に生きていて五感で捉えて判断することに慣れているが、『波動』は五感で捉えられず、科学的な実験でも解明されず、その為『非科学的なもの』という認識で通ってきてしまった」、と恨み節。

五感で捉えられなくても、例えば電波は数多の実験や実用化で幾重にもその存在は証明され疑いようがない。
科学的な実験で存在が確認されなければ、実験条件の範囲内でその存在に疑義が生じるのは当たり前な訳で。

バイオレゾナンス利用者(医師や整体師など)の多くもただ「波動」とのみ記している中で、高橋徳医師はその正体について言及。
彼によればそれは、「周波数が遠赤外線とほぼ同じレベルではないかと推察される天然の電磁波。」

「推察される」ってなんやねん。
測定機器や治療機器が現に存在する(と彼ら自身が主張している)のに、なぜ肝心の「波動」の正体がイマイチはっきりしないのでしょう。

それらの機器は「科学的」ではないことを認めちゃうのでしょうか?
何だか分からないけどたまたま検出できちゃって、ついでに治療にも使えたよ、とでも?

科学は秘匿を許さない

科学は、行われた実験の詳細を明らかにし、誰でも追試が可能なように情報を公開します。
これは全世界共通のルール。

一方エセ科学やオカルトは、詳細なメカニズムが秘匿されるのが一つの特徴です。
バイオリズム、算命学、○○占い‥。
例えば、なぜ木星がおうし座にあると△△さんの今後の人生が好転するのか、とか。
秘匿している言うより本人たちもわかっていない、と言うよりそんなことどうでもよい?

そう考えると、バイオレゾナンスで使用されている「波動」の正体が不明なのも、これがエセ科学であることの現れなのでは、と容易に想像できます。

もし飽くまで科学だと主張するのであれば、最低限「その波動の正体解明を困難にしている要因は何だと思われるのか」、「どんな実験をしてどのくらいまで分かっているのか」、「なぜそれが分かってないのに実用レベルまで応用技術が進んだのか」を示すべき。

まあしかし、彼ら目線では実用レベル、なのにこんな問いをしなければならない時点で、フツーに考えてやっぱり怪しいとしか言いようがない‥。

ちなみに、高橋が言うようにそれが遠赤外であるならば、観測・測定は全く難しいことではありません。
ドイツで開発された仰々しい機器など使わなくとも、コロナ禍以後あちこちの店の入り口にある体温計でOK。
あれなどまさに遠赤外測定器、その波長を測定しています(波長は体温により変化)。
それにしても遠赤外というなら、波長の測定値くらい示して欲しいものです(体温は大体9.4μm)。

援用される量子力学のイメージ

どうもジモン本を見ると、彼らの言う「波動」は外気功の「気」と同一であるらしい。
百歩譲ってここまでは良しとしても、それを量子力学における波動関数の波動と同一視している(p47の辺り)のは見逃せん。

量子力学ではミクロレベルで物質粒子が波動的性質を帯びることが示されていますが、それはあくまで物質粒子の性質の現れ方の話。
「それが故に」物質から「波動」が放射される、という訳ではありません。
知ってか知らずか、「波動」という言葉を軸にその辺を意図的にゴッチャにしている感じ。

量子力学は気功など扱っていませんよ。
それ我田引水というやつじゃないですか?

原子や分子が、連続的でなく離散的な(飛び飛びの)エネルギー値の電磁波を吸収・放出するというのが量子力学発展期の重要な成果でした。

しかし彼らの言うような、あらゆる元素に「基本周波数」があり、例えば40の基本周波数をもつ元素は40キロヘルツ、40メガヘルツ、4ギガヘルツ、40ギガヘルツで「共鳴」するとか、「気」の波動は臓器によって固有の振動数がある、などという論法(p63辺り)は量子力学とは無縁です。
(周波数40キロヘルツって「長波」‼ それをリチウムが吸収するだと!)

更に、波動の「共鳴」現象を利用して、どうやって相手側の周波数を「調整」できるのか?
万が一調整できたとして、それがどういうメカニズムで病を快方に向かわせるのか。
疑問は尽きません。

はっきり言って言葉遊びのレベル

全てが隠匿されたまま、「量子力学」の学問的な雰囲気、「波動」や「共鳴」、「エネルギー」といった用語の醸し出すイメージが独り歩き。
最後に、効果を証明するものとして、決まって彼らが持ち出してくる「治療例」や「体験談」なるもの、これらとて医学的なエビデンスにはなりません

あと、「マックス・プランクの言葉」なるものが引用されていました。
プランクは、光のエネルギー値に最小単位があることを発見し、量子力学発展のきっかけを作ったノーベル賞物理学者。

そのプランクさんが「全ては振動であり、物質は存在しない」との発言をしたとか。

探してみましたが見つかりませんでした。
「そんな発言が無い」ことを示す調査結果は見つけました(笑)。

もしプランクさんがそのようなことを言ったとしたら(言ってないと思うけど)、私は「物質」という言葉の定義をあいまいにしたままでの議論は安易だな、と思います。
物質粒子の定義が時代とともに変遷するからです。

このように、出所不明の著名人の言葉なんてのにも注意しましょう。
どんなものも権威づけのために、利用できるものは利用します、連中は。

最後に改めて、あなたの健康、生活(お金)を脅かす、感覚的な議論や偽情報に魂を持っていかれないように。

(※)「パウル・シュミットのドイツ波動健康法」、ヴィンフリート・ジモン、biobooks、2014年

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