Wikipediaにおけるアートとジェンダー

ユミソン(現代美術家)

ウィキペディアは「誰でも」執筆に参加できるオンライン上の百科事典です。ウェブで何かを調べればすぐに目に付くウィキペディアの記事は、知らないうちに私たちの知識に影響を与えています。その知識が、社会を作る一端を担っています。しかしアメリカではその編集者の8割から9割は男性で、人物記事の8割も男性に関するものだという統計が出ています。日本では少し内実は異なり、女性に関する記事はポルノやAV女優として多いとされています。

また、アートは自由で独創的だと思われがちですが、それは男性にとってだけでした。女性は見られる対象でこそあれ、感性や表現力はないという「社会常識」があり、美術教育は受けられませんでした。歴史に名を刻むアーティストも男性ばかりです。2021年3月の時点でウィキペディアのカテゴリ「日本の女性芸術家」は357ページですが、「日本のAV女優」は4,342ページ。現在は毎年美術大学や教育機関から多くの女性アーティストが輩出されているのにもかかわらず、ウィキペディアの中では、女性アーティストよりAV女優の方が12倍も多く存在しています。そしてAV女優のほとんどは演技や批評が記されていません。

このことから女性が書かれていると言っても、演技者というより性の「消費財」としてインデックス利用されていることがうかがわれます。つまり男性に読みやすい記事が、男性によって書かれているのがウィキペディアの現状です。それを改善するには、女性編集者を増やすほかありません。私はアーティストとして、2016年からArt+Feminism Wikipedia Edit-a-thonというアートとフェミニズムをテーマとしたウィキペディアの書き方講座を、毎年国際女性デー周辺で開催しています。女性の編集者と質の向上を目指していますが、女性アーティストの美術館への収蔵は圧倒的に少なく、大手ニュース媒体や学術論文で扱われる例も少ないので、「特筆性がない」「検証可能でない」と言われがちです。ウィキペディアは権威づけられているものを書き記すべきで、この催しは無駄だというようなことを言われることもあります。

社会が変わらなければ百科事典の内容は変えられません。しかし同時に百科事典の内容、つまり知識が変わらなければ社会も変わりません。「誰でも」書ける、日常で親しんでいるウィキペディアが、女性によって書かれるべきだと考えているのはそのためです。

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