8 血塗れの少年・・・#実験小説 #あまりにもあいまいな

                   「母たちよ、父たちよ、
                    わたしを あわれと思って下さい。」リルケ『形象詩集』

 幼児から少し大きくなった頃、こどもたちの世界にも大人の世界が反映されて「遊びともだち」「仲間」といった「構造」が生まれて来る。
 この頃の巧の写真を見ると分かるのだが、どれも決して楽しそうではない。
同じ年齢か、少し年上の子どもたちと遊ぶのが苦手だった。巧は、まったく楽しくなかった。むしろ、虐められていた。背が高かったことも災いして、時には暴力も受けて、泣かされていた。いつも鼻水垂らしたガキ大将が居て、お下がりの学生服の袖で鼻水を拭いているので、袖がテカテカになっていた。そのヨレヨレ・テカテカの学生服姿の悪ガキを今でもよく覚えている。
子どもだけで、何処かに遊びに行く時も半強制だった。一度「行かん」と言ったら酷く殴られ、泣かされた。それ以来、いやいや、ついて行かされた。
近くの小さな洞窟に入った記憶が鮮明に残っている。蝙蝠がたくさんいて、子どもたちが入って行くと、キーッと鳴きながらさっと飛び立った。洞窟というか、防空壕跡だったのだろう。巧には、ヘンな感じがあった。

 ひとり遊びの方がずっと楽しかった。
「錬金術ごっこ」の記憶がいまだに残っている。
勿論当時は、そんな名前は付けていなかったが、今考えると本気で「錬金術」をやろうとしていた。
煉瓦の欠片のようなものや金属片を集めてきて、水の中で擦ったりして、ドロドロになったものを型に入れて固めた。何か別の物(物質)を作ろうといていた。何故できないんだろう?と本気で考えていたことは記憶に残っている。何処かで、大人がやっている何かの作業を見て思いついたのかもしれない。

 笑えるのが、土を掘って、掘った土で小さな「山」を作って、掘った溝に水を入れて「池」を作った。「池」の中に泥鰌のような小魚を入れて、ドングリを小さな「山」の上から転がした。「池」にポチャンと入るけど、「泥鰌」は決して出て来て「こんにちは」とは言わなかった・・。 (これ、ホントのはなし)


ある日、近所で大騒ぎがあった。いつも巧を虐めていた鼻水垂らした悪ガキが、ふざけ過ぎて、透明のガラス戸に飛び込んだ。ガラス破片が体中に刺さって、頭も顔も真っ赤になって、ヨレヨレ・テカテカの学生服から血が滴り落ちていた。人間とは思えないように真っ赤になって、その少年はぐったりしていた。何の感情もなく、ただ見ていた。何処かに運ばれて行ったきり、少年の姿は見なくなった。
「これで・・虐められない」とも思わなかった。
ただ、ガラス破片が体に刺さる瞬間に感情移入して身がすくんだ。ガラスは怖いというイメージが残り続けた。尖ったガラス破片が体に刺さる夢にうなされた。


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