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税金と土地の問題をもう一度考えてみよう その5

執筆:ラボラトリオ研究員 杉山 彰

税金の何に不満が発生するのか?

税金は安ければ安いほどいい、という意見があります。必要最低限のサービスがあればいいとする考え方があります。ドイツの社会主義思想家・ラサールが1862年に「労働者綱領」の中で近代自由主義国家を批判して用いた「夜警国家論」があります。国としての役割を、私有財産を外敵から守り国内の治安を維持することのみに限り、他は自由放任にするという国家観です。当時も今も、この国家観は、いろいろ論議を生んでいますが、インターネットが発達し、情報社会、もしくは知識社会としての社会観が定着しつつある今日、この「夜警国家論」は再考に値します。

その根拠は、P・F・ドラッカーが著した「新しい現実」の中にありました。国家が国家として行う事業は、その事業が独占事業として成立するものに限るべきであり、独占事業として成立しなくなった時点で、その事業から直ちに撤退し、その事業に関わっていた組織も法律も、すべてをゼロクリアすべきだという考え方です。官僚はいったん手にした既得権益は、決して手放すことなく、その役割が終えた後まで、延々と、役割が終えた組織を維持し続けるという習性があります。これは習性なのです。

事実、今日、わが国で論議されている規制緩和や構造改革論は、いろいろな立場の人間が、いろいろな議論を展開していますが、答えは簡単なところにあります。これも、例えが古くて申し訳ないのですが、郵政民営化も、もともとはシンプルな話だったのでした。郵政事業は、すでに国家の独占的事業としては存在してはいないのです。民間の事業として十分に成立するようになりました。もちろん、明治の初めの頃は、国が行うべき事業としなければ、郵便も小荷物も適切な料金で私たちの手元に届くことはなかったのでした。郵便ネットワークを構築する設備資金や、そのネットワークを維持する運転資金として膨大な資金を必要としました。当時は、民間がその事業を立ち上げるということは不可能であり、結果的に「国の独占事業」となったのでした。国が私たちの税金を使って郵便サービスを興す事業でした。そして今日、宅急便が飛躍的に発達し、電子メール等が日常的に使われるようになり、民間の保険は、それこそ蟻のはい出る隙間もないほど細分化されて商品化されています。そして、国の事業が民間の事業と競合関係にあるという本末転倒が多発しています。

かたや、私たちの税金を使って立ち上げた事業、かたや民間資本で立ち上げた事業だったはずです。国家が行うべき事業は「独占事業」として成立している事業のみにすべきです。国家が行っている事業を民間が行うようになったら、国家はゼロクリアを前提に、その事業を見直すべきなのです。「警察国家」の本質は、その対極に「福祉国家」があり、前者は「小さな政府の在り方」、後者は「大きな政府の在り方」へと展開し、最終的には、税金をあつめる方法と、税金を使う方法の議論となります。

税金の何に不満が発生したのか?「国が税金を使うために、税金を使っている」ことへの不満です。じつはこの問題は、今に始まった問題ではないのです。あるときから発生するようになった事実でした。ただ、その事実が顕在化しなかっただけなのです。意図的に隠されていたともいえます。無意識のうちに閉じこめられていたとも言えます。しかし、今日、ありとあらゆる情報はインターネットによって無秩序に噴出してきます。わき出してきます。情報操作を行うには、噴出する情報量があまりにも多すぎるのです。マスメディアはマスメディアで、多くが「マッチポンプ」に終始します。権力をこき下ろすことで視聴者のご機嫌を取り結んでいる。視聴者も、自らが当事者であることを忘れて不満を募らせる。民主主義が衆愚政治の様相を帯び始めるのです。 

「租税法律主義」が揺らいでいる

そして税金に発生したもう一つの不満は、租税法の基本理念とも言われる「租税法律主義」の揺らぎです。

「租税法律主義」とは、文字通り、“租税の賦課、徴収を行うためには必ず法律の根拠を要する”という理念です。

言うまでもなく、法律を立法化する機関は「国会」であり、憲法41条によって“国会は、国権の最高機関であって、国の唯一の立法機関である”と謳われています。また国会には、私たち選挙民の意志を反映する手段として、選挙によってのみ選ばれた国会議員が存在します。ですから、租税に関する法律として、直接税としては所得税、法人税、道府県民税事業税等、間接税として、消費税、酒税等が、それこそ蟻の這い出る隙間がない、といってもいいほど、数多くの租税が制定されています。税金の問題は、私たちの私有財産権に対する侵害としての性質を持つものです。ですから租税法は「租税法律主義」と「租税公平主義」の2つを基本理念として、“国民の総意の代表である国会が定めた法律によってのみ負担する”という、「租税正義の原則」、「公平負担の原則」が、どこまでも貫き通されていなければならないのです。

しかし今日、この「租税法律主義」が揺らぎつつあるのです。何が揺らいでいるか? 一つには、国会で立法化された法律の大部分が国会議員によって作成された議員立法ではなく、行政府の官僚の手で作成されていることです。いわゆる閣法の存在です。閣法は、官僚が作成した法律案を大臣、内閣、国会が追認して作成される法律であり、極論するならば、官僚が実行したい政策を、審議会、研究会、検討会などの、いわゆる「専門家」、もしくは「有識者」と称する人たちの意見を利用して作成される法律です。

事実、2004年度の1年間に国会に提出され成立した法案のうち、議員立法が23件、閣法が144件です。つまり、およそ20対80の割合で、圧倒的に閣法が多くなっています。そしてもう一つには、政治資金規正法の存在です。そもそも政治資金規正法の問題点は租税法の根本的な欠陥にあります。脱税というものを国家と国民に対する偽証罪として捉えていないことにあります。

また、脱税未遂犯を罰する法律も存在しないのです。このことは何を意味するかというと、会計帳簿へ嘘を書いても、つまり不実記帳、あるいは虚偽記帳をしても、これを罰する法律が存在しないのです。嘘みたいな話ですがこれが真実なのです。会計帳簿を基にして租税申告する場合、これを監査する税理士なり公認会計士には監査責任が存在し、その監査に問題があった場合には税理士なり公認会計士を法律で罰することができるのですが、会計帳簿を作成する納税者自身、つまり経営者が、この会計帳簿に不実記載、もしくは虚偽記帳しても、これを罰する法律が存在しないのです。

そもそも、会計帳簿に嘘偽りがないことを自署捺印する必要がないということは「会計帳簿へ不実記載、もしくは虚偽記帳したら偽証罪に問われることを承知して、私は、私の申告書が、真実、正確、完全であることを宣言します」という覚悟が存在しないのです。ですから、会計帳簿の不実記載や虚偽記帳が発覚しても、忘れていました、勘違いしていました、と言って修正すれば罪に問われることないのです。

申告漏れとして扱われ、修正申告して追徴課税に応じれば罪に問われることはないのです。政治資金規正法における会計帳簿は、いわゆる「政治資金収支報告書」に相当します。会計帳簿と同じように、政治資金収支報告書へ嘘を書いても、つまり不実記帳、あるいは虚偽記帳をしても、これを罰する法律も存在しないのです。不実記帳、あるいは虚偽記帳が発覚したら修正すれば罪に問われることはありません。うがった見方ですが、租税法における罰則規定を強化すればするほど、政治資金規正法の罰則規定を強化せざるを得なくなると言うブーメラン現象が発生するが故に、政治家先生たちが、租税法の不備をおざなりにしていると言えます。

考えてみれば、今日の国会議員の大部分は官僚出身者と、世襲によって生まれた二世三世議員と、いわゆるタレント議員が多く占めるようになりました。最近は、公募による議員も多く誕生していますが、マイノリティ(少数派)の域を脱していません。世襲議員やタレント議員の能力を疑うわけではありませんが、少なくとも権利が利権化され、後援会(地盤・看板・鞄の象徴)の存続イコール世襲議員の誕生という構図は、なにやら封建社会の様相を帯び、民主主義とは対極にある、閉じた世界(当選することは手段にもかかわらず、当選することが目的化する)での政治が行われるようになります。

このような状態で、私たち納税者が納得できる租税法律が果たしてどのように作成され、施行されているのでしょうか? 国民の総意の代表である国会が定めた法律が立法化され、施行されているのでしょうか。「李下に冠を正さず」とい故事を持ち出すまでもなく、政治家自らが租税正義を実践することなく、我々一般納税者が租税正義を自覚することなど夢のまた夢の話になります。(つづく)

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その6に続く→

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【杉山 彰(すぎやま あきら)プロフィール】

◎立命館大学 産業社会学部卒
 1974年、(株)タイムにコピーライターとして入社。
 以後(株)タイムに10年間勤務した後、杉山彰事務所を主宰。
 1990年、株式会社 JCN研究所を設立
 1993年、株式会社CSK関連会社 
 日本レジホンシステムズ(ナレッジモデリング株式会社の前身)と
 マーケティング顧問契約を締結
 ※この時期に、七沢先生との知遇を得て、現在に至る。
 1995年、松下電器産業(株)開発本部・映像音響情報研究所の
 コンセプトメーカーとして顧問契約(技術支援業務契約)を締結。
 2010年、株式会社 JCN研究所を休眠、現在に至る。

◎〈作成論文&レポート〉
 ・「マトリックス・マネージメント」
 ・「オープンマインド・ヒューマン・ネットワーキング」
 ・「コンピュータの中の日本語」
 ・「新・遺伝的アルゴリズム論」
 ・「知識社会におけるヒューマンネットワーキング経営の在り方」
 ・「人間と夢」 等

◎〈開発システム〉
 ・コンピュータにおける日本語処理機能としての
  カナ漢字置換装置・JCN〈愛(ai)〉
 ・置換アルゴリズムの応用システム「TAO/TIME認証システム」
 ・TAO時計装置

◎〈出願特許〉
 ・「カナ漢字自動置換システム」
 ・「新・遺伝的アルゴリズムによる、漢字混じり文章生成装置」
 ・「アナログ計時とディジタル計時と絶対時間を同時共時に
   計測表示できるTAO時計装置」
 ・「音符システムを活用した、新・中間言語アルゴリズム」
 ・「時間軸をキーデータとする、システム辞書の生成方法」
 ・「利用履歴データをID化した、新・ファイル管理システム」等

◎〈取得特許〉
 「TAO時計装置」(米国特許)、
 「TAO・TIME認証システム」(国際特許) 等

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