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怪文書展『その怪文書を読みましたか』についての考察

怪文書(かいぶんしょ)とは、信憑性および発行者が不明な状態で出回る事実上の匿名文書である。内容的には、その多くが特定の組織個人などに関する情報と称する類のもの、誹謗中傷もしくは一方的な主張を述べるものとなっている。根拠不明であるかあるいは明確に誤った情報でありながら、拾い読んだ者にある種の影響を与え得るために問題視される。

Wikipediaより引用

2023年春。渋谷にて、とある奇怪な展覧会が行われました。
100枚を超える大量の怪文書が並ぶ「考察型展覧会」と銘打った展示の名は『その怪文書を読みましたか』です。
ホラー作家の「梨」氏が手掛けた当展示はこういった類を好む界隈では開催前より話題となっており、僕自身も非常に興味をそそられる内容であったためどれどれと赴いてみたところ、こちらが予想以上に面白く、また先述したように“考察型“展覧会との事なので、なるほどこれは書き記さねばなるまいとキーボードをカタカタとやっている次第です。

ただ、正直なところ展示を見終わった時点では「まあ、こんなもんか」という感想でしかありませんでした。考察型とは言うものの、展示物から得られる情報では考察しようにも大雑把な物語が浮かぶ程度にしかならなかったからです。僕の観察力が足りないというのも大きな理由の一つではあるのですが、観覧時間に20分という制限が設けられていた事もあり隅々まで観察するには少々忙しすぎたのに加え、怪文書が大好きな僕の期待が大きすぎたのも要因の一つかもしれません。会場を出た足取りはやや重いものでした。
しかし帰宅後にとあるものを目にした事を切っ掛けに、次々と現れる情報の糸を夢中で辿り、頭の中でパチリとハマるピースに喜び打ち震え、考察という甘美な沼へと沈んでいく事となるのです。順を追って説明しましょう。まずは会場の様子からご覧ください。


◆怪文書の海

展示が行われたのは渋谷のセンター街にある展示スペースマイラボ渋谷。会場に入るとまず目に映るのが下記画像①ですがこの時点で中々ワクワクさせるものがあります。その後ろで異様な空気を醸しながら見切れているのが画像②の“怪文書の壁”。思わずアルミホイルを頭に巻きたくなる光景です。 雑多と貼られた怪文書とは別に番号が振られ、説明文が添えられた画像③のような怪文書もありこちらがメインの展示物となっております。とにもかくにもいたるところに怪文書が溢れており、しゃがんで覗き込まないと見えないような部分にまでビッシリと貼られていました。相当なこだわりが見て取れます。


ウェルカム怪文書ガチャとスクラップブック。

壁一面に貼られた怪文書たち。圧倒的迫力。

某巨大掲示板の書き込みと思しき怪文書。画像には黒髪の女性と背後に顔が大きく歪んだ男の子?のような人影が写っている。

◆“妖精さん”の存在

番号の振られた怪文書を見ていくと、度々現れるのが【妖精さん】と呼ばれる存在であり、今回の最重要キーワードです。


特徴だけを見るとアジアンビューティーを思わせる妖精さん。

画像④では妖精さんとその通訳となる人物を探している旨が記されていますが、画像⑤では家主が自宅の外壁に貼っていた怪文書の上にさらに怪文書を張り付ける「怪文書on怪文書」という高度なトリックがお目見えします。その内容は「妖精さんに当選した」というもの。


あなたは妖精さんに当選されました。

そして画像⑥では画像④に加筆する形でより具体的な特徴が記されます。「お前本当は妖精さん嫌いだろ?」と勘繰りたくなるような例えを用いて妖精さんの特徴を伝えてくれます。全体的に虫っぽいようです。


アジアンビューティーからモンスターへ変貌を遂げる妖精さん。

画像⑦では「怪文書を作り出す人物は妖精さんの言葉を伝えることのできる人材である」としてその重要性を説いています。
そして満を持して現れたのは画像⑧の『妖精ともの会』です。恐らく④から⑦の画像は全てこの『妖精ともの会』によって作り出されたものと推測されます。これらの情報から考えられるのは、かねてより怪文書を自作していた画像⑤の人物は『妖精ともの会』によって妖精さんの翻訳者としての素養を見出され“選ばれた”という事でしょうか。


怪文書クリエーターは妖精さんの翻訳者として素養があるそうです。

『妖精ともの会』パンフレット

◆その他様々な怪文書たち

その他にも妖精さんとの繋がりがありそうなものや、一見すると関係ない怪文書も大量に展示されていましたが、全てをお見せしようとするとかなりのボリュームになってしまうので一部を載せておきます。あと写真を撮り逃してしまったのですが、参加者がオリジナルの怪文書を作れる『怪文書作成コーナー』も設置してありました。


「あなたの人生返品しませんか」という目を引くパワーワード。

「そ」とか「れ」のような文字は苦手で多めにギザギザしちゃう様子。

mixiを思わせるメッセージに「妖精さん」の文字あり。

ドラム缶と怪文書。

以上が会場の様子、展示物から得られる情報と考察です。
この段階では「本物の怪文書の中に、創作の妖精さん怪文書を複数紛れ込ませ、それをネットで拡散させることによって人為的に伝承を作り出す試み」だと考えていました。そういった試み自体は珍しいものではなく「ありがちなだな」と少し落胆してしまったのは確かです。一方で怪文書の展示なんて奇異な企画をやる人がこのような安易な着地点を設定するだろうか?という疑念もありました。ほんの少しのモヤモヤを残しつつ帰宅した後、Twitterでイベントに参加した方々の感想を眺めていると気になる投稿を目にしました。これを切っ掛けに考察の沼へ一気に足を踏み入れる事となります。


◆アリシムジャバについて語るスレ

Twitterのとあるアカウントの投稿です。
過去に2ちゃんねる(現5ちゃんねる)のような掲示板にてアリシムジャバという単語を見た事があるというものです。


一応アカウント名は伏せておきます。

アリシムジャバ。画像⑨の左上の怪文書に書かれていた文言です。記載されたURLをクリックすると2004年当時の2ちゃんねると思しきサイトへ遷移しました。


【あなたの】アリシムジャバについて語るスレ【街にも】

スレッドはレス番号8(以下8)の書き込みを中心にして進行していきます。近所にアリシムジャバの張り紙があるという8によって現地で撮ってきたというアリシムジャバの画像が貼られ、それを境に8の様子がおかしくなりやがて書き込みが途絶えるという内容です。


画像⑭と同様の張り紙。

「昆虫」「触覚」等、画像⑥で示された妖精さんの特徴を思わせる単語が見られる。

ここで「妖精」という単語が現れる。

他にもアリシムジャバの語源はサンスクリット語の「Arishtam Jiva」で災いの生命を意味するものではないかという書き込みもあったため、こちらを調べてはみましたが特にこれといった情報は得られませんでした。何故なら僕はサンスクリット語が分からないからです。
それとは別にもう一つ気になる書き込みがありました。


◆村山歳三という人物


怪怪文書ライブラリー「カイカイ」

怪文書マニアのトシを名乗る人物によって作成された怪文書レビューサイトで、怪文書を見つけた場所と★の数によって示されるおすすめ度、トシのコメントが書かれています。中には『その怪文書を読みましたか』に展示されていたものも含まれトシと当展覧会の繋がりを感じさせます。
そして一番下に書かれている怪文書レビューの内容からはトシの人物像がかなり具体的に浮かび上がってきます。

この怪文書サイトの管理人トシと県議会議員の村山歳三は同一人物と見て間違いないでしょう。なんならサイトのURL内にtoshizomurayamaの文字列がご丁寧に含まれています。画像㉑の文面からはかなり危険な香りが漂っていますが果たしてトシこと村山歳三は無事なのでしょうか?村山歳三の名前を検索エンジンにかけてみると……。


県議会議員 村山歳三 のHOMEPAGE 〜ホームページ〜

ホームページがトップに出てきました。
既に不穏な文章が見えてしまっていますが、一応クリックしてサイトを表示します。そこにはやはりと言うべきか村山歳三の訃報の知らせが記載されていました。


バッチリ“決行”されている

さて、画像⑬のアカウントを発見してからアリシムジャバ、村山歳三という二つの新たな情報に辿り着きましたが一旦、ここまでの情報を整理してみましょう。

  • 妖精さんと呼ばれる何かとそれを信仰する団体『妖精ともの会』が存在する

  • 『妖精ともの会』は妖精さんとその翻訳者を探している

  • 妖精さんの声を聞きとれる人物は、聞いた言葉を怪文書にして発信している事があるため翻訳者としての素養を備えている

  • 上記理由から『妖精ともの会』は怪文書作成者を翻訳者としてスカウト(拉致?)している

  • 妖精さんは一部でアリシムジャバの名で呼ばれ信仰の対象となっている

  • 怪文書を収集していた村山歳三は何者かによって殺害された模様

これらの情報から、
妖精さんを信仰する『妖精ともの会』は怪文書作成者を翻訳者としてスカウトしており、その邪魔となる怪文書コレクターの村山歳三を排除した
という推察が成り立ちます。怪文書は『妖精ともの会』にとって翻訳者を探す重要な手がかりであり、同時に団体が妖精の存在を周知させる手段でもあります。それを収集して回る村山は団体にとって情報を奪う敵として映ったのではないでしょうか。
また、殺害された村山のコレクションが当展覧会に複数枚展示されていた事。怪文書作成者には翻訳者としての素養があり、そして会場には怪文書作成コーナーが設置されていた事。これが何を意味するのか。
この推察を構築する論拠として提示いたしますのが、いよいよ現れました真打、総本山『妖精ともの会』のホームページです。

※アリシムジャバについてですが、僕のリサーチ能力不足ゆえ有用な情報が得られませんでした。何かご存じの方がいらっしゃいましたら情報提供お願いいたします。


◆妖精ともの会


『妖精ともの会』ホームページ。

『妖精ともの会』で検索するとこれもまたトップに表示されます。
クリックした次の瞬間から襲ってくる猛烈な懐かしさと危うさ。どうしてでしょうか。レトロと(オ)カルトは非常に相性が良いように思います。少し下へスクロールしてみましょう。


あらまあ……。

答え合わせが完了していましました。
『その怪文書を見ましたか』は『妖精ともの会』によって開かれた妖精の翻訳者を選定する場であるという結論に辿り着きました。が、せっかくですので最後まで見てみましょう。


画像上部に見切れた不自然な虫達。

サイト最下部のリンク

画像㉗のリンクをクリックすると会員向けのページへと遷移します。そこには会員の一人が“衰弱”してしまっている事。展覧会を開催する事。全国青年部集会を開く事などが記載されており、衰弱という言葉を除けばさほど不自然な点は見受けられません。
問題はスクロールした先にある「◇ともだより2月号より◇」のタイトルの下に書かれた文章です。

展覧会開催によせて

嘗て、渋谷の街をはじめとした都市近郊には、さまざまな落書きや貼り紙などがあり、その一部には妖精さんのおことばを反映した文書もたくさん存在しました。
しかし近年、妖精さんのお導きである、“思い”や“こえ”を届けてくださる方々の数は減少傾向にあります。ここ最近で貼り紙などの撤去・清掃が進み、さらに媒介をしてくださっていた十二番さんが衰弱されてしまった今、お導きの減少が加速しかねない状況にあります。

そこで協議を重ねた結果、最近お手紙を介してこえが聞こえるようになった方に奉仕していただければという意見があり、我々の保有する貴重な収集物・発信物の展示会を開催する運びとなりました。一般の皆様にも妖精さんの素晴らしさを知ってもらうことで、その一部にいるであろう、共感者と出会う良い機会になります。

最近は特に、いわゆる「怪文書」と呼ばれるさまざまな文書は単に「荒唐無稽な文書」としてしか見られていません。せっかく彼ら彼女らが伝えてくださっている「真実」も、妖精さんのこえも、その考証や考察がないままに「こわいもの」としてのみ見られ続けているのです。



本当にそれでいいのでしょうか。



もし、あの方々が伝えている「攻撃」や「事実」が荒唐無稽な妄想などではなく、たとえば純粋な恐怖心からくるものだとしたら。

おこえを止めてはいけません。
わたしたちはそなえる必要があります。
会員の皆様はより一層ご尽力をお願いいたします。


本当にそれでいいのでしょうか。

『その怪文書を読みましたか』公式Twitterアカウント

本当にそれで

渋谷の街、主にセンター街は平成15年より美化活動と称して排水溝の鉄網目詰まりの除去、路上についたガムの撤去等、365日の毎朝徹底した清掃活動を行っているそうです。その清掃活動には無許可に貼られたチラシの撤去も含まれます。これによりかつて溢れていた怪文書の貼り紙も大幅に数を減らしたのでしょう。情報網を断たれた『妖精ともの会』は怪文書コレクターの村山歳三を排除し、翻訳者としての素質を持つであろう怪文書ファンを集めて新たな妖精ネットワークを構築すべく『その怪文書を見ましたか』を計画したのではないでしょうか。
清掃に携わった人々でなく村山を狙った理由は不明ですが、恐らくHPを公開しており県議会議員として身分を明かしている村山は個人の特定がしやすかったのではないかと考えています。
そしてページの一番下までスクロールすると◆バックナンバーはこちら◆というリンクテキストが貼られており、クリックすると以下のページへと遷移します。


候補     選定前

候補。選定前。

クリックします。

そういえば

僕のところにも










おめでとうございます。


※おまけ
怪文書展『その怪文書を読みましたか』についての考察~補足とメタ視点からの検証~


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