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ミッドナイト・ドライブ

出社して仕事をしていたら娘からLINEが届いた。
「川崎で23:50までの映画見ても大丈夫かな?終電は23:58なんだけど。」って、いやいや、映画館からホームまでどれくらいの距離があるか知らんけど、普通に考えてダメでしょ!何かあってからじゃ遅いので、やめといたら?と返信した。しかし、「エンドロール見なければ間に合うんじゃない?」などと、なかなか諦めがつかないようだ。見に行くつもりだった映画の終了が急に決まったらしく、今晩しかチャンスがないとのこと。「でも、終電に乗り遅れたりしたら大変だよ」と送ったところで、はたと思いついた。"今日の帰宅時刻…明日は朝も余裕があるなぁ…ひょっとして行けちゃう?終電ギリギリなら行くしかないよね?" という邪念が頭の中を瞬時に巡り、思わず「川崎駅まて迎えに行ってあげるよ」とLINEで返信していた。
「え急に優しくてどうしたのほんとに?」「ありがとうすぎるけど」と矢継ぎ早の返信の最後に、「そんなにチンクに乗りたいんだったら、私が助手席に乗ってあげるよ!」と、急に上から目線のメッセージが。
あれ?バレてる?

仕事を終えて帰宅すると、あきれ顔の妻から「かわいいのはどっち?娘ちゃん?チンク?」と軽く嫌味を投げかけられたので、「どっちもでしょ!」と笑顔で往なす。「今日はゆず湯にしたけど、お風呂に入るのは帰ってからだねぇ~」そうか、今日は冬至だ。身支度を整えて外に出ると、澄んだ空気が肌を刺す。相棒に掛けてあったカバーを外しながら天を仰ぐと、月が明るく輝いていた。ざっと始業前点検。暗くてよく見えないが、まあいいだろう。未だなれないドアを開け、相棒に乗り込む。いつも通りキーを捻り、チョークを引いてセルモーターを回すと、ちょとグズッたもののエンジンが息を吹き返した。2気筒の奏でる音が静かな住宅街に響く。ちょっと心苦しいが、今日のところは許してもらおう。ほどよく暖気が進んだところで、そろりとアクセルを踏み込んだ。

せっかくに機会なので、皇居を目指し都心で映える夜景でも撮ってから川崎まで戻る、というなるべく長くドライブを楽しむ行程を立て、高速の入り口に向かった。ETCの入り口って60km/hで抜けられますよね?チンクのメータ60km/hならさらに余裕、とゲートに向かった。
バーに近付きそろそろ上がるはず?あれ?あれあれ?上がらんのか〜い‼︎ 
背丈の低い我が相棒は、無常にも閉じたままのバーの間を擦り抜けてしまった。そういえばETCの起動音聞いてなかった?ゲートに近付く時も音してなかった?と自問しながらしばらく走行。キリのいい出口の手前、端の邪魔にならないところでいったん停車。ハザードを点けて安全確保しようとしたところ、ん?ハザードが点かない?あれ?バックランプも?ETC車載器も無反応。ドアを開けると室内灯も?点かない…。いただきました〜♪ 電装系トラブル〜♪と、ナゾの高揚感と同時に焦りを感じる。外に出てヘッドライト、テールランプ、ウインカーを確認したが、そこは問題無し。ボンネットを開けるもヒューズの状態は暗くてよく見えない。仕方なくボンネットをしっかり閉じる。取り敢えず運転には支障は無いだろうと楽観的な結論を下し(よくわかっていないだけなのだが)、料金所に向かう。ETCのエラーでゲートを潜ってしまったことを申告して精算。そこから先は下道で行くことに変更した。

時間も遅く、上り方向ということでクルマも少ない。しばらくは快適にミッドナイト・ドライブを楽しんでいた。ところが、一瞬油断してしまった!信号で停車する直前、ギアをニュートラルに戻す前にクラッチから足を上げてしまいエンストさせてしまったのだ。慌ててセルを回す。が、エンジンが掛からない!再度回すが掛からない。焦る気持ちを抑えて、もう一度。やはり掛からない!メーターの明かりも消えている。おいおいヤバいよ!こんなところで立ち往生したら、娘ちゃんが路頭に迷っちゃうよ!と、心拍数が急上昇するのを感じたところで、ん?ライトが消えてる?赤ランプも消えてる?ふと視線を横にずらすと、キーが左側に戻ってる⁈ 慌ててキーを捻ると赤ランプが点灯。セルを廻すと何事もなかったように直ぐにエンジンが掛かった‼︎ この間、後続車に一通り追い抜かれて一人信号待ち。ふと車外に視線を向けると横断歩道から心配そうな視線が向けられていた。笑顔でもう大丈夫!と手を振る自分。心を落ち着け、信号が青に変わったところで、何食わぬ顔で発進した。キーを捻ってなくてもセルって回るの?それって正常??と頭の中ははてなマークだらけだったが、そこから先は運転に集中。ひたすら丁寧な運転を心掛けた。

川崎を通り過ぎてに都心に向かう。が、途中で点検したり下道に降りた結果、想定よりだいぶ遅れてしまった。皇居をゴールにすると、折り返して映画の終了時刻にギリギリ? 結局、東京タワー手前まで行ったところでUターン。相棒の鼻先を川崎方面に転じた。

映画終了の10分前に川崎駅に到着。一般車降車場に停車して娘にLINEで知らせると、ほどなくして相棒に乗り込んできた。渇望していた映画を見れて満足気な顔をした娘ちゃん、開口一番「これなら余裕で終電に間に合ったね!」って。おいおい、そりゃないんじゃない(^^;)



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