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Five minutes

 赤音とはトルコで出会った。トルコは治安が不安であったが、いざ行ってみると、親日のためか、皆優しく声をかけてくれ、一人旅の私は安心して旅を満喫していた。

 現地の人に勧められたお店でメニューと格闘していると、隣の席の日本人女性が現地の男性に口説かれていた。日本人女性は必死に何を言っているか分からない、とジェスチャーしている。雰囲気でナンパだと気付かないものか?と思うが、困っている人を放っておけない優しい人なのかもとも思う。だが、話を聞こうとすることで男性はいけると思うだろう。英語が全く話せないその女性が受け入れるとは思えず、早く彼を解放してあげるべきだとも思うが、助け舟を出すほどの義理も邪魔もしたくない。
「Five minutes okay ?」
キリがないと判断したのか、男性が女性に言う。吹き出しそうになるのを必死に抑える。
「え、ファイブ ミニッツ?ホワット?」
女性は余計に困惑している。さすがに声をかけようとしたところ、女性の元に黒髪で鼻筋が通った芯の強そうな美人な女性がやってきた。
「ねぇ、ファイブ ミニッツって言ってるんだけど、どういうこと?」
女性は彼女に助けを求めた。どうやら友人らしい。彼女は流暢な英語で男性と話し始め、彼女に翻訳した。
「あなたのことが気に入ったから、これから遊ぼうって。」
「そうだったんだ。でもファイブ ミニッツはどういうこと?んー、でもいいや。じゃぁ、行ってくるね。」
私は今度は違う意味で吹き出しそうになった。
「ここは日本じゃない。あなたの想像以上に危険があることは分かってる?」
彼女は真剣に問う。
「うん、でもこの人悪い人じゃなさそうだし。」
私は女性の返事に頭を抱える。
「分かった。でも1つだけ約束して。明日までにきちんと帰ってくること。」
「うん、分かった。じゃぁ、行ってくるね!」
女性は男性と出て行った。驚きの展開に思わず話しかけてしまった。
「行かせて良いんですか?彼女全く英語を話せないのに、危険すぎませんか?あれじゃぁ、助けも求められないでしょう?」
彼女は私の方に顔を向けた。
「彼女の自由。それを止める権利は友人でもないわ。明日帰ってくる約束したから大丈夫でしょ。」
彼女は淡々と答えた。
「良かったら夕飯を一緒にどう?」
考えるより先に私は声をかけていた。無意識に彼女の出会いはこの旅で1番の収穫となると確信していた。

 彼女は赤音と名乗った。海外旅行が好きで、派遣で1年働き、1、2ヶ月海外に行くという生活を繰り返していると言う。赤音の生き方は自由と引き換えに不自由も抱えている。赤音は自分の人生に責任を持って生きている。だから他人の人生に口を出さない。私なら友人を危険だと止めただろう。だが赤音は友人の判断を尊重する。明日までに友人が帰ってこなければ、すぐ行動するだろう。いざというときに対応出来る力がある。私の英語力では不可能だ。友人の意見を尊重し、且つ優しさと冷静さを併せ持つ人。私たちは同年代と分かり、趣味も同じという共通点もあり、意気投合し「Five minutesって本当かな?」「いやいや、それはないでしょ!」と2人で笑い合った。

 翌日赤音の友人はきちんと帰ってきていた。そして、夜はまた昨日の男性と遊びに行ったらしく、赤音から夕飯を誘われた。私たちはスーパーでお酒とつまみを買い込み、ホテルで共に過ごした。「危険がなくて良かった。でも5分じゃなかったみたいね。」「違う意味で5分ならもう行かないよね。」と下卑なつまみとともに笑い合った。
「私なら行かない。でも赤音と出会えたように旅の出会いは大切にしてる。赤音の友人も同じことだったのよね。自分が恥ずかしいわ。」
「旅の目的はその人それぞれの自由よ。」
赤音はそう言って微笑んだ。

 それから私は1週間赤音と夕飯を共にし、帰国後も連絡を取るようになった。嬉しいことに私たちの関係はFive minutesで終わらなかった。

【あとがき】
 年末年始の休みにバイトで出会った人がモデルです。暇でめちゃくちゃその人と語りましたー。内容が多すぎて、今後一つ一つ小分けに紹介しますので、赤音(私の彼女のイメージ名)は今後もたくさん出演予定です(笑)でも物語じゃなくエッセイ寄りになりそう…物語が書きたい…でも頭の中で完成していた物語が消えた!駄作だったと諦めよ😅

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