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つくもがみ

 われはつくもがみ。長い年月を経た道具などに精霊が宿ったもの。人をたぶらかすと言われておるが、大事にしてくれた恩人をたぶらかすなど以ての外。われは幸いをもたらすつくもがみ。

 代々引き継がれた指輪。だが、次の貰い手は
「結婚指輪は彼が買ってくれるし、そんな古い指輪なんていらない。指輪が幸せを運んでくるなんて、ありえない。気持ち悪い。」
それを聞き、主は悲しそうな顔をする。
「そうよね、時代は変わったのよね。私にとっては先祖代々引き継がれ、想いが込められた大切な指輪。この指輪に込められたご先祖さまがたくさん私を救ってくれたけど、そんなの今の子は信じないわよね。どうしましょう……」
指輪を磨きながら、主は呟く。

 江戸の頃は良かったのう。哀しい出来事も、妖怪の仕業と思えば誰も憎まずにすむ。粋な時代じゃったのう。それが今じゃ、妖怪なんて存在しない、科学的に説明出来ると嘘をつき、妖怪たちは忘れ去られ、忘れ去られた妖怪たちは消えていく。百鬼夜行も参加する妖怪たちが減っていると聞く。時代の流れには逆らえん。われも消えるときがきたんじゃな。なぁ、主よ、われはお前が大切にしてくれたから、幸せじゃった。最期がお前で良かったと思うておる。デモなどおこしやせんから、安心せぇ。

 最期に一つ、われの願いを叶えるためにやっておかなくてはな。

 われをいらんと言った女が寝静まった丑三つ時。われは人間の女の形に変化し、家鳴りをおこし、女を起こす。

「指輪は祖母とずっと一緒にするように。さもなければ、お前の身に不幸が訪れるぞ。」

 女は真っ青な顔をしている。われは一瞬で姿を消す。非科学的なことは信じないと言うても、口先だけじゃ。これで大丈夫じゃろう。 


 ついに主は亡くなり、火葬された。われは一緒に火葬してもらえると思うていたが、金属は入れられないと断られた。なんと融通がきかないものか。結局われは主の仏壇に飾られた。使われることはないが、定期的に磨かれ、大切に扱われた。

 思ったようにはいかないものじゃ。主がわれに最期に語った言葉

「これからも家族を見守っていて下さいね。」

 主はご先祖様と言うておったが、われの存在に気付いておったのかもしれん。つくもがみを座敷童子としようとするとは、どうやらわれは一杯くわされたな。主の笑顔がうかんでくる。われの負けじゃ。消えゆく運命が、主のおかげで生き永らえた。仕方がない、主の願いじゃ、我が身が朽ち果てるまでこの家を守るとするかのう。


未完


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