病理が見える

病理医という希少人種です。ジョン・ベリーのような病理医を目指しています。

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    病理学・病理医に関する事柄をゆるく語っています。

最近の記事

寄生虫の話

感染症に便乗して寄生虫の話をしましょう。 ある生物が別種の生物の体内または体表に生活の場を得て、一時的あるいは生涯にわたって栄養をとりながら生活することを寄生といいます。生活の場と栄養を得る方を寄生体、提供する方を宿主(しゅくしゅ)といいます。寄生体が原虫、蠕虫、衛生動物の場合、特にそれらは寄生虫と呼ばれます。 寄生虫は進化の過程で宿主と密接なかかわりを築いてきました。宿主は寄生虫に生活の場や栄養を提供するだけでなく、感染や伝播の経路としての役割も果たしています。栄養状態

    • 感染症

       感染症についてお話します。病理学総論では、免疫との絡みで一緒に勉強することが多いです。病原微生物というのは、外から体内に入ってくる有害因子として、頻度が高いですしね。  感染症は、非医療従事者でもなじみのある言葉でしょう。日本にずっといると、予想もしませんが、感染症はいまだに世界規模で見た死亡原因のNo.1です。実は、日本でも病院への来院理由のNo.1は感染症です。風邪や腹痛というのは、感染症ですよね。ちなみに日本人の死亡原因の第5位は肺炎です。肺炎も感染症なので、実はか

      • 免疫

         炎症と密接なかかわりのある免疫についてお話します。免疫は一大分野で、本来病理学とは別に真剣に学ぶべきものですが、ここでは、病理学に関係のあるところだけをかいつまんでお話しします。  まず、免疫の主役たちを知りましょう。どんな細胞がかかわっているかを知ることは大事です。  好中球に代表される顆粒球系と呼ばれる細胞たち、マクロファージ、ナチュラルキラー細胞(NK細胞)、樹状細胞、Tリンパ球、Bリンパ球、形質細胞が免疫の主役です。身体の中に有害因子が侵入した場合、これらが免疫

        • 炎症 その3

          今日は炎症の形態像を見ていきます。実際の病理診断では、この形態像を見つけることで、今起こっている炎症がどのような炎症なのかを推定していくこととなります。 まずは、急性炎症の組織像を見ていきます。 ① 漿液性炎 急性炎症では、液体成分が出てきますが、少量の炎症細胞と、フィブリンを含まない液体が組織の周囲にみえます。サラサラとした液体があるなあ、という印象です。これが多量になるとカタル性炎と呼ばれます。鼻水がじゃんじゃん出ている状態はカタル性炎です。 ② 線維素性炎  線

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          炎症②

          炎症 その2 炎症のプロセスと種類について、お話しします。ざっくりと全体像を把握しましょう。 ① 血流の停滞 ② 血管の拡張 ③ 血管透過性の亢進 ④ 好中球の遊走 ⑤ マクロファージの遊走 ⑥ 細胞組織破壊 前回、炎症細胞たちを紹介しましたが、炎症細胞は通常血管の中にいます。病原菌やその他の有害因子は、通常、血管の外の組織にいますから、炎症細胞はまずそこにたどり着かねばなりません。そのとき、一番最初に起こるのが血流の停滞です。炎症が起きている組織の近くの血液の流れが遅く

          炎症①

          炎症 その1 細胞レベルでみたとき、病気によって起こる変化は5つしかないと言いました。もう一度、その5つをここに書いておきます。 ① 炎症・免疫、② 循環障害、③ 代謝障害、④ 先天異常(奇形)、⑤ 腫瘍 前回は、これらの変化に対して、細胞や組織がどのように応答するのかを話しました。今日からいよいよ病気による変化をみていきましょう。まずは炎症・免疫のお話をしていきます。炎症は日常生活でも比較的なじみがあるものですね。たとえば、蚊に刺されてぷくっと腫れた。あれが炎症です。見

          サマーフェスト

          週末(8/31、9/1)は病理医の夏フェス=第13回 診断病理サマーフェスト-病理と臨床の対話-に勉強に行ってきました。この診断病理サマーフェストというのは、毎年8月末ないしは9月初週の土日2日間で行われる座学の勉強会で、毎年一つのテーマが決められ、そのテーマの日本のエキスパートの先生方(ということは必然的に世界的にも有名)が講演をしてくれるという何とも贅沢な勉強会です。今年のテーマは ということで、婦人科腫瘍の病理と臨床でした。婦人科病理は大きくわけて、卵巣、子宮体部、子

          サマーフェスト

          細胞の応答

          細胞の応答 細胞レベルでみた場合、病気によって起きる変化は5つしかないという話を前々回書きました。5つのそれぞれをこれからお話しすることとなるわけですが、今日まで準備が続きます。今回はストレスや刺激に対する細胞の応答について話をしましょう。 細胞が集まって一定の働きをするようになったものを組織といいます。細胞だけで話をするよりも、それよりちょっと大きい組織という単位で捉えた方が考えやすいことがあるので、細胞と組織という言葉を知っておいてください。 病気というのは、細胞にス

          すべては細胞から

          細胞についてのごく基本的な知識 病理学総論に入る前に、細胞の話をしましょう。とにかくすべては細胞から始まります。 細胞の中にはオルガネラ(細胞小器官)と呼ばれる様々な構造物があります。その働きをみていきましょう。 ミトコンドリア 糖と脂質の酸化によりATPを産生します。また、ミトコンドリアからのチトクロムcという物質の放出はアポトーシスの引き金となります。ミトコンドリアは核内のDNAとは異なるDNAを有し、そのDNAは必ず母親由来です。 小胞体・リボソーム 小胞体はタン

          すべては細胞から

          病理学総論のはじまり

          本日から少しずつ、病理学総論のお話をしようと思います。僕は高校の生物(あるいは生物基礎)で、病理学総論を教えるとよいと考えています。そのとき、これくらいの内容を教えるべきと思うことを書いていくつもりです。もちろん、どんな方が読んでもよいように、かみ砕いて、できる限り分かりやすく話します。 病理学総論とは何か  いきなり病理学って言われてもなんだかピンとこないですね。そこでまずは病理学とは何かという話からいきましょう。病理学とは次の4つのことを主に調べる学問です。 要は、病

          病理学総論のはじまり

          1人病理医

          病理医は足りていないとよく言われています。まあ、外科だって、産科だって、小児科だって、法医学だって、足りてない議論を始めると、「いやいや、うちんとこだって・・・」と名乗りを上げる診療科は山ほどあるでしょう。いや、あるどころか、多分ほとんどすべての診療科が「何と言われようと、うちの科は絶対に足りていない!」と言うはずです。そもそも、必要医師数を何を基準にして、どう算定するかで、充足しているといえる閾値はかなり変わってきますから過不足の問題は議論が難しいところです。まあ、本質は不

          臨床医とのカンファレンス

          臨床医とのカンファレンスは定期的に開かれています。そこでは、今後手術が行われる人のプレゼンを聞いたり、手術が終わった人の病理結果の説明をしたりします。 カンファレンスは科ごとにあります。「消化器カンファレンス」、「呼吸器カンファレンス」、「婦人科カンファレンス」、「泌尿器カンファレンス」、「乳腺カンファレンス」、「皮膚カンファレンス」、「血液カンファレンス」、「画像カンファレンス」などなど。外科と内科が合同で行うものもあれば、外科と内科が独自のカンファレンスを別々に行う場合

          臨床医とのカンファレンス

          細胞診断

          細胞診断の話をしましょう。とはいえ、これもそれだけでひとつの1大学問をなしているので、僕が語ることができるのはほんの一部です。 細胞診断というのは、細胞1個1個の形態を見て良悪を判断します。すごいですよね。「すべての生物は細胞から」という言葉を聞いたことがあるでしょうか。ベルリンの病理学者ウィルヒョウが言った、医学の世界では知らない者がないほどの有名な言葉です。彼は細胞こそがすべての生命現象の究極的単位であると考えました。とすれば、逆に、生命に起きたあらゆる現象は、細胞に反

          病理学

          病理診断を支えているのは病理学です。医療系の大学や専門学校では当然のように勉強するものですが、一般的にはあまりなじみがないものかもしれません。 病理学とは簡単にいうと、病気についての見方や考え方に関する学問です。もちろん病気は何百種類とあるわけですからそれを個別に網羅すると莫大なものになります。実際、病理学では、それらを個別的に扱ってもいるわけで、そういう意味では膨大な知識の蓄積によって成り立っている学問でもあります。医療従事者であれば、有名なものやよく出会うものに関しては

          CPC

          今日は臨床病理カンファレンス(ClinicoPathological Conference)、略してCPCについてお話します。 病理解剖後、病理医による詳細な検索が終了した後に開かれるカンファレンスです。臨床医、病理医、研修医その他症例に興味あるすべての医師が参加可能です。 まずは臨床から症例のプレゼンテーションが行われます。 「膠原病内科の○○です。主治医として担当していましたので、症例の紹介をさせていただきます。70代男性の方です。不明熱の精査で紹介入院となりました

          病理解剖

          病理解剖についてお話ししましょう。 病理解剖とは最善の治療を行ったにもかかわらず、不幸にも命を落としてしまわれた患者さんのご遺体を解剖させていただき、肉眼的、組織学的に検索したうえで、死因の理解および治療の適切性の検証を行うものです。 病院病理医は解剖当番というのが持ち回りで決まっていて、臨床から要請があれば、昼夜休日を問わず(これは施設によって違いがあります。冷蔵保存設備を完備している施設は夜に亡くなられた場合、翌日に行うこともあります)、病理解剖を行います。もちろんご