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「長い髪を切った=失恋」の想起はどこからきた?

髪をバッサリ切った。
15cmか20cmくらい。
そしてふと思った。

ロングだった(特に)女性が
長い髪をバッサリ切ると
「失恋でもした?」
「なに、彼と別れたの?」
などと失恋とつながるのは
なぜなのだろう。

私は、
失恋して髪を切りに行ったことがない。髪を切るのは
夏になって暑いから、
そろそろ髪が邪魔だから、
髪の量が多いため暑苦しいから、
美容院からお誕生日近くになると
お知らせをいただくから。
その程度の理由。

恋愛に絡むとしたら、むしろ、
整髪を理由に美容院行きたいな
という時は、新しい恋をした時や
好きな人に会えるとなった時が多い。

〈女性の、長い髪を切る=失恋はどこからきた?〉

いつから
「女性が長く伸ばした髪を切る=失恋」
という考え方が浸透して、
なぜそういう風に
言われるようになったの?
今の多くの女性たちにも
そういう人いるの?
失恋したら髪を切る、は女性意志なの?
造られたフィクションなの?
なぜ、男性より、特に女性のときに
髪を切る=失恋
と言われることが
多い気がするのだろう…?
そもそも、本当に
髪をバッサリ切りに行く理由は
失恋が多いの?

色々と疑問に思ったので
少しだけ調べてみた。
前菜程度にしか調べていないから、
もっと詳しく知っている人がいるだろうし、文献もたくさんあるだろうが
今回はなるべく簡潔にまとめよう。

素朴な疑問探求会が編集した
『そういえば、ペンギンが霜焼けにならないの「なんでだろう?」みんなの気になるなんでだろう』でも、

なぜ会社のオジサンたちは若い女性が
髪を切ると失恋と結びつけるのか
について
一昔前、失恋した女性が本当に髪を切っていたということが関係している、と書いている。

〈昔の日本人女性にとっての、髪を切る行為〉

昔の日本人女性にとって
自分の黒髪は自分の分身で、
恋人や夫が戦争へ行くときに
形見のように渡したりしていた。

ここから未練を断ち切る=失恋の場合も
未練を断ち切るため髪を切ると言われたという話がある。

さらに遡ると、平安時代頃に、
大垂髪(おおすべらかし)といって
身分の高い女性は自然のままに
髪を垂らした髪型をしていたそうだ。
この大垂髪は、肩のあたりで髪を
絵元結で結び、その先を等間隔で水引で束ねていく「元結掛け垂髪」から
「大垂髪」になり江戸時代初期までは
これを言っていたそうだ。

そして、夫が死別するなどして
出家するときには尼削ぎといって、
全て肩のあたりで切り揃える。
この、夫の死後、髪を切り仏門に入る慣例のために
夫の別れ=思いを断ち切る=失恋と結びついた、というのが第1説だ。(Rakuten Netより)

さらにORICON NEWSの調査では
次のようなことが明らかになった。

①そもそも髪を切る=失恋という図式は、時代劇などで身分の高い女性が、
夫の死後、髪を切って仏門に入る、
戦争絡みのドラマや映画で
戦地から戻らない夫に対する思いを
断ち切る象徴として髪を切るシーンを
描き出すことがあり、そこから刷り込みで髪を切ることと失恋が結びついたのではないか、という事実の事情がフィクションの作品の中で描かれることで広まったという考え

②女性は、好きな人のヘアスタイルに合わせることがあり、「長い髪の人がタイプ」というから髪を伸ばしていたけれど、別れたり失恋したから無意味になってしまい切った(こちらはフィクションで描かれていたことが実際、世の女性もするようになった気がする)

①の説では、かつて髪の毛が
おまじないや呪い、お守りに
使用されてきた歴史がある。

「髪には霊力が宿り、念がこもりやすい」と考えられ、
特に女性の美しい黒髪には霊力が宿る
とされ、歴史上の著名な女性の遺髪が今も奉納されているそうだ。

1880年の、東本願寺の再建でも、資材の巨大な木材を搬出する際、事故が相次いだため、
霊力が宿ると言われる女性の髪の毛と麻をより合わせ毛綱というものが編まれたそうで、今も本願寺に展示されているという(Rakuten Netの調べより)。

そして、②の流れの人、
実際に美容師をしていると、
一定数いるにはいるそうだ。
元彼が、ロングヘアが好きだったから
伸ばしていたけれど、別れたから
もう必要ないと。
さらにRakuten Netの調べの続きでは、髪を切る理由の2つ目に、
やはり、人気のアイドルや好きな人が
長い髪の子が好きだった、だから伸ばしていたけれど、失恋したからもう伸ばす必要がなくなった、とある。

やはり「失恋→髪をバッサリ切る」は、
あながち作り話やフィクションだけとも言い難い。
また、この(特にロングだった女性)が髪を切る=失恋の話は
昔の物語だけでなく、現在の作品でも出てくる。

2016年に公開された映画
『君の名は。』でも、三葉が
勇気を振り絞って瀧に会いにいったシーンで「誰、お前?」と言われて
ショックを受け、髪を切るシーンがあるそうだ。
このシーンでは、
三葉が突然ショートカットにしてきて
友達のサヤちゃん(女の子)とテッシー(男の子)は次のような会話をしている。この会話から、女性が髪を切る行為に対する、男女の見解の差が見られる。

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テッシー:やっぱ男関係なんかなぁ…失恋とか!

サヤ:男子ってすぐ恋愛と結びつけたがるなぁ。なんとなく切っただけって言っとったのに。

テッシー:そうかあ?なんとなくあんなに切らんやろぉ!
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テッシーは、長い髪であることで女性という特徴を感じる髪として捉えているように見え、サヤちゃんは、長い髪を切ったことに対しては気分だと捉えているように思える。
男性は女性が長い髪を切ることから失恋などを想起するのに対し、同性のサヤちゃんは、女性は気分で髪型変えるもんだよと。
作品では三葉が髪を切った本当の理由は
おそらく述べられていない。

ちなみに、海外でも、髪を切ることと失恋の関係性についての調査があるかをみたが、海外において失恋で髪をバッサリ切る、という関係性は不明確だ。

〈女性が髪をバッサリ切ること:男女の思考・意識の違い〉

溜田の分析「女が髪を切る理由」の、男性の解釈と、女性の解釈は次のように異なるらしい。

(溜田の図を改編)

この図でいくと、
男性の多くは、失恋という事実と
髪をバッサリ切ったという行為を
直線で結びつけ、または、
女性が長い髪を切ったことに
理由づけをするのに対し、
女性の多くは髪を切るという行為と
その理由については個々に考えている
ように思える。
このような男女の考え方の違いという
理由があるためか、一般には男性は
女性の髪型の変化には疎い人が多い
(溜田信もこのように書いている)。
そして男性でも、
女性がバッサリと髪切ったりなどして、髪型を変えたと気づいたときには、
気の利く男性だなと思われたいもので「髪型変わったね」などと声をかけたくなる、とのことらしい。
(私は、そこまで考えてるか?ちょっとした会話をしようところにいい話題だっただけでは?と思うが)

女性が、髪を突然短くした時、男性は
どのように思っているのか、
マイナビウーマンの調査(2015)では

「なぜ切ったのか知りたいので理由を聞く」(32歳/機械精密機器/技術職男性)と理由を知りたいというほかに、
「何か心変わりかなと思ってしまう」(33歳/運輸・倉庫/営業職)や
「別れを考えているのかなと思う」(25歳/運輸・倉庫/事務系専門職)
とやや否定的な意見がある。

先のマイナビウーマンの調査では
「勝手に断りなく髪の毛を切られたくない。彼女の髪は半分自分の物と思っているから。」(33歳/情報・IT/技術職)や
「似合っていればいいが、切る前にひと言相談してほしかった」(30歳/情報・IT/技術職)
という意見もあった。

髪を切る=失恋を予期させるという
連想が作品などからあるとはいえ、
正直、ここまでくると、辟易するが。
これに関しては、調査結果のところにも、彼氏とはいえ、髪を切るなと命令されるのは心外だと記載があった。


〈本当に失恋で髪を切る?〉

さて、女性の
バッサリ髪を切る行為=失恋
のイメージはこのように映画等の作品
だけでなく実社会でも浸透しているが、実際に失恋をしてバッサリと髪を切る
女性はどれほどいるのだろうか。
また、失恋で髪を切る場合の心境は
いかなるものなのか。

これについてもRakuten Netの調査がある。
調査では、実際に失恋で髪を切る女性は少数派どころか、
イメチェン(イメージチェンジ)をして印象づけるため、好きな人ができた時にアピールとして切る人もいるという。

また、失恋で髪を切る場合、髪を切って気持ちも一新したい、髪と一緒に「過去」を切り捨てる、未練を引きずりたくない、という失恋から立ち直ろうという前向きな気持ちによるものが多いそうだ。

風水では、髪の毛は「人の縁」に影響されるとされているらしい。もともと髪の毛には、良いエネルギーだけでなく、ストレス、人の悪い気、電磁波などマイナスエネルギーも溜め込むとされることから、そうしたマイナスエネルギーを切るために、髪の毛を切るという考えもあるそうだ(Rakuten Netより)。

素朴な疑問探求会(2003)でも、女性の、髪を切る理由は
①ストレスが溜まっているためリセットしたい
②自分に不安や不満があるため新しい自分に生まれ変わりたい
③気持ちを入れ替えて前向きに進みたい
だそうだ。

こうした調査の他に、
はじめにも書いたようにやはり
失恋よりむしろ
新しく恋したタイミング、
新しいことを始めるタイミングで
髪を切る人は多いのでは、と思ったがこれ以上の調査は、ざっと見たところは見当たらなかった。

「失恋すると髪を切る」
ばっさり髪を切ったら
「何かあった?失恋でもした?」
となることも多いわけだが
特に芸能界では
ショートカットにする、髪をばっさり切る行為は、そのイメージや、髪を切るタイミング自体で、自己プロデュースに活用することもある(ORICON NEWSより)。

〈「女性が長い髪を切る理由」なんていらない〉

このように理由はさまざまだ。
個人的には、なんとなくとか
だいたいこのくらいの長さが
気に入ってるから、とか
カラーリングに行ってるついでにとか、こんな髪型にしようかなと思ってとか
はじめに書いたように暑いからとか、
長いと手入れが面倒だとか、
月1回、美容院に行く習慣があるとか
仕事や家事に邪魔とか、
そんな理由な気もする。

女性が意識的に髪を変えるのは、
自己のイメージを変えるためとか
何かの区切りでだと思うが、
これは、女性でなくても、男性だって

いやもっと言えば、特に性別がどうなどと関係なく、
やっているのではなかろうか。

どうも、ORICON NEWSに記載された「男性にとっては髪を切る理由はとくになくとも、やはり女性にとって髪を切ることは重要な自己表現のひとつなのかもしれない」というのは、
執筆者が不明だが、記事を書いた人の、「女性は髪を切ることで自己表現をしている」
と思い込みたい偏見といおうか妄想といおうか、そんなものがあるような気がする。
もし、仮に自己表現として髪を切る
としても、女性など関係なく、どんな性別でも年齢でもあまり関係ない。
もっと言えば、時代や文化や慣習、または仕事の理由で切ることが求められる
わけでない限り、
「長い髪を勝手に切ったなんて!」
と他人に言われる筋合いなど
やはりないし、髪を切る理由なんて
必要なくて「気分」「なんとなく」でいいのだ。

だが、ひとつ、
素朴な疑問探求会の本にも記載の通り、オジサン(に限らずと思うが)が、
若い女性と話すきっかけをつくろうと、仲良くしたい、少しでもプライベートが聴けたらと思って「失恋でもしたの?」などと聞いては、今やセクハラもいいところだから注意した方がいい。

#髪を切る #失恋 #恋愛 #女性 #性別 #自己イメージ #言語 #描写

〈参考文献〉
女性のカットシーンのトップ画像
https://tokyo-biyoshi.com/archives/1526362 (2019年5月14日閲覧).

マイナビウーマン.「男女の本音 彼女が突然、髪を短く切ってあらわれた!そのときの男のホンネとは?」(2015/3/22記事. 2018/7/12更新)
https://woman.mynavi.jp/article/150322-23/view/3/(2019年5月10日閲覧). 106件の有効回答数. 22〜39歳の社会人男性へのアンケートによるもの.

ORICON NEWS.「女性のショートカット、心機一転の手段として未だ通用?」
http://www.oricon.co.jp/special/ 151595(2019年5月10日閲覧).

RakutenNet. 「失恋したら髪を切る」のはどうして?実はこんな理由があったんです」(2016/10/28記事)
http://rakuzanet.jp/Shitsuren-cut.html (2019年5月11日閲覧).

素朴な疑問探求会編.(2003). 『そうい えば、ペンギンが霜焼けにならないの「なんでだろう?」みんなの気になるなんでだろう』.東京:河出書房新社(KAWADE夢文庫).

溜田信.「なぜ女は髪を切るのかー『君 の名は。』の三葉をモチーフに」.GLOBIS知見録.2017.02.04思考. https://app.globis.jp/article/5156 (2019年5月14日閲覧).

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