パウレタの建築学科日誌1~ピーク~

 イワタニ君は建築学科でぼくと同級生だった。彼は一浪して大学の建築学科に入ってきたから一つ年上。大学に通ってる人、通った人であればわかると思うが、もう入学してしまえば、ひとつ年上だろうが、年下であろうがそんなのあまり関係ない。

 でもイワタニ君は一浪してひとつ年上ということに自負があったのか、ぼくよりもよく建築を勉強していた。サークルも建築同好会というものに属していた。どういうことをそこでするのかというと、みんなで建築を見に行ったり、建築書の読者会などをしたりというものだ。ぼくはそこに属さず、アルバイトをしたり、友達とキャンパスでうだうだしたりして大学最初の一年をすごしてしまった。

 授業の建築設計課題でも、イワタニ君は一年生のときから優秀な成績だった。他の学生よりも完成度が高いのだ。成績優秀者の作品だけが取り上げられる講評会で、自分の作品を説明している自信に満ち溢れた彼をぼくは見ていた。こういう人が建築家になるんだろうなあ、なんて思いながら。

 でもそういうふうにはならなかった。大学3年生になったあたりからだろうか、設計課題でイワタニ君の作品はとりあげられなくなった。伸び悩んでしまったのだ。作品を見ると、ぼくでもわかる。1年のときと作品の完成度がほとんど同じなのだ。

 そしてついに3年の後期には、うだうだ過ごしていたぼくやその友人たちの課題が講評会にあがるようになった。彼はそこでも選ばれなかった。成長期が早かった子が中学生にあがってチビだった子に追い越される。そんな感じだ。

 けっきょく彼はそのまま壁にぶちあたってしまった。ぼくがいた大学の建築学科では、卒業論文のかわりに卒業設計を制作して卒業することができるのだが、イワタニ君はそれを完成できず留年してしまった。けっきょく翌年は建築史の研究室に所属し、卒業論文を書き上げて卒業に至った。今では設計の仕事には就かず、建設系の記事をのせる新聞社に勤めている。

 別にイワタニ君の大学での過ごし方が悪かったという意味でこの文章を書いたわけではない。彼は彼で、自分の今やっている仕事にやりがいを感じて日々を過ごしている。ただ、彼は建築の設計に関して、やる気のピークを大学の前半でむかえてしまった。それだけだ。その分、早いうちに人生の選択を行えたことで彼はよりこれから幸せな人生を送っていくかもしれない。生まれたばかりの娘さんを抱いて笑っているイワタニ君をSNSで見て、ぼくはそう思った。

 今でも建築家として成功したいと頑張っているぼくや友人たちだって、もしかしたらその転機が訪れるかもしれない。ぼくらはイワタニ君よりも、ただ成長が遅いだけなのかもしれない。

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掌編小説シリーズ「パウレタの建築学科日誌」

建築学科のあのときを綴る、短い小説群
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