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「魅惑の心理」マガジンvol.228(ニュースな心理学/2024年2月)

新聞、テレビ、ネットのニュースで報道される人の言動の中には「何でこんなことをするのだろう」というものが多く含まれます。人の言動はまさに謎だらけ。そこで、ニュースの中に見られる小さな手がかりから、人の行動の「なぜ?」を心理学で紐解く、ニュースな心理学です。ニュースの裏側にある人の心理を知ることこは、人を知ることだと思うのです。

今回の目次です
・芦原妃名子さんの急死、そしてその余波
・『海猿』の原作者が書いた伊藤英明さんの態度について
・松本人志さんの性加害報道について、松本さんを擁護する動き
・「ネットいじめ」が増える背景
・花火の燃えかすに多数の苦情があり、花火大会が中止になりました

では参ります。

・芦原妃名子さんの急死、そしてその余波

日本テレビ系ドラマ『セクシー田中さん』の原作者で、漫画家の芦原妃名子さん急死のニュースが1月30日に報じられました。亡くなる直前にドラマの脚本をめぐるトラブルがブログやXに書き込まれていただけに、業界やファンだけでなく、多くの人に大きな衝撃を与えました。「攻撃したかったわけじゃなくて。ごめんなさい」という謝罪の投稿から、誰かに言った自分の言葉を後悔している、もしくは、誰かが自分の意図に反して攻撃したことへの悲しみに満ちた言葉と受け取れるものです。

毎回、マンガを大きく改編したプロットや脚本が提出されていたとのこと、そして、最終的にはドラマの9話、10話についてはご自身で執筆することになったという経緯が綴られていました。その後、脚本家へのバッシングが相次ぎ、芦原さんは投稿を削除、痛ましい出来事が起きました。

このことから芦原さんは脚本家やドラマ関係者が攻撃されることを本意ではなく、自分にとっても苦しい行動と見ていたのではないでしょうか。まるで自分が陽動してしまったかのように責任を感じていたとも考えられます。

時系列から見ると、この不幸な出来事は「マンガを大きく改編したプロットや脚本」が直接の原因ではなく、そこから派生したバッシングを芦原さんはまるで自分が引き金になっているかのように思い、見るに堪えない苦しみ、心を痛めていたのではないでしょうか。メデイアや一部の批判者たちは「テレビ局と原作者」や「脚本家VS原作者」のような対立構造を作り上げていますが、それは論点が少し違うのではないかと感じます。もちろん、意見の違いがあったから、このようなトラブルになったはずですが、多くの人たちが「原作者軽視」の話にすり替えてしまい話が進んでいっているように見えるのです。

私もずっと以前から、原作者などコンテンツホルダーが軽視されることに不満を持っています。それも強い不満です。「売れる」という理由で原作を簡単に改変しようとするテレビ局の方向性にはうんざりです。私程度の物書きのところにですら、テレビ局の意向に沿った発言をすることを求められたことが何度かあります。容認できないものを求めてくる理不尽さを感じていました。漫画は商業ビジネスとアートの中間にあると思います。それが映像化するときに商業ビジネスに一気に寄ってしまうことがあるのも問題があると考えます。

テレビ局には対応を考えてほしいですし、この問題の根底にある原作者軽視構造を変えていって欲しいです。ただ「お前たちが追い込んだんだ」「お前のせいだ」という関係者への非難は少なくても、芦原さんは望んではいないと思います。それは声を大にして言いたいです。

本当に起きてはほしくない出来事です。
作品を必死で守ろうとした責任感の強い方なのに、途中で作品を残してこの世をさる無念を考えたら、本当に苦しかったのだと思います。
芦原妃名子さんのご冥福を心からお祈りいたします。
ご家族の方へも謹んでお悔やみを申し上げます。

・『海猿』の原作者が書いた伊藤英明さんの態度について

『海猿』の原作者である佐藤さんが芦原妃名子さんの急死を受け、『海猿』の映像化の際に制作側から一方的に原作改変された不快感を語りました。佐藤さんは以前にも映画化についてフジテレビとの信頼関係が崩れたことを強い言葉で語っており、「やっぱり言いたくなりますよね」と思いました。さらに映画の撮影を見学したことにも触れ、「プロデューサーが主演俳優を紹介すると言うので挨拶に行きました。撮影前だったらしく、その俳優はピリピリしていました。プロデューサーが話しかけると『原作者? しゃべんなきゃダメ!?』と吐き捨てました。嫌なヤツだと思いました」と誰がどう見ても伊藤英明さんだとわかる記述があります。

この話を聞くと伊藤さんがすごいひどい人だと思われるかもしれません。私が知る伊藤英明さんの姿とは大きくかけ離れているので、ちょっとコメントしたいと思います。佐藤さんがそうおっしゃるので、伊藤さんの態度は誇張とかてはなくてその通りだったのかもしれません。でも、私がドラマ『病室で念仏を唱えないでください』の現場でお会いした伊藤さんは、演技に不安がる後輩俳優を激励して、アドバイスを送る素敵な俳優でした。もちろん何回も撮り直すカットにも嫌な顔一つしませんでした。監督と良い作品を作るために前向きな意見を交換していました。それは伊藤さんの名誉のためにお伝えしたいです。

『海猿』の頃から役者として成長し、気配りや人間性が進化していったのかもしれませんし、『海猿』では大きな役の本番前、緊張と役作りで誰とも会いたくなかったのかもしれません。「プロデューサーが話しかけると『原作者? しゃべんなきゃダメ!?』と吐き捨てました。嫌なヤツだと思いました」を「プロデューサーが話しかけると『原作者? しゃべんなきゃダメ!?』と言われてしまいました。撮影前の本気度が伝わる発言でした」と書くだけで印象が大きく違います。感じ方は人それぞれなので、それは仕方ないです。不信感の中でそんなことを言われたら、確かにそう見えるのでしょう。ただ、同時に書き方一つで人を強く否定することも認めることもできることがあると感じました。

「原作使用料は確か200万円弱」「映像関係者には一人も会いませんでした。脚本?見たことがありませんでした」「作品が自分の手から奪われていく感覚がありました」という感覚、原作を利用してお金儲けに使われたことはとても無念だと思います。原作者全体の地位向上や次の若き原作者たちが苦しまなくて良い環境につながっていくといいなと思います。


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