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「魅惑の心理」マガジンvol.210(シャーデンフロイデ)

優等生タイプの芸能人が不祥事で番組を降板。嫌味ばかりいう上司がミスをした。日頃から苦々しく思っている相手に訪れる不幸。私たちはつい心の中で喜んでしまうものです。「他人の不幸は蜜の味」ということわざがあるように、昔から日本には人の不幸を喜ぶ人たちが多くいます。

最近では「メシウマ」という言葉が若い世代を中心に広がっています。これは他人の不幸をおかずにするとご飯が進むという意味で使われています。「メシウマ」は SNSでよく見かけるもので、発端は2ch。アンチ巨人が「巨人が負けるとメシがうまい」という発言から広がっていったものとされ、ギャンブルなどで特定の誰かが負けるとアンチを中心に「メシウマ」という言葉をよく見かけるようになりました。

この他者に訪れる失敗、不幸、苦しみを見たときに感じる心地よい気持ちを「シャーデンフロイデ」といいます。シャーデンフロイデは人気アニメ『推しの子』にも見られ、ライバルに向けられる感情としても表現されています。シャーデンフロイデは大小の違いはあれど誰にでもある感覚ですが、この感覚を持つことは恥ずかしいものとされ、多くの人はひたすらみこの感情を隠します。そして、自分の中に芽生えたこの「ざまあみろ」という感覚は、いけないものを生み出してしまったと思い、自己を否定することにもつながります。自分に価値がないと考える自尊感情の低い日本人は、この感覚を持つことを否定して、さらに自分がひどい人間だと責める人もいます。それは違います「シャーデンフロイデは誰にでもある感覚です」。誰もが持つ感覚を否定するのはおかしいですし、安易に増長を続けると必ずしも自分の幸福感が高まりません。

無用に自分を責めるのは、そのメカニズムを知らないからです。またシャーデンフロイデは最近注目のトピックスの一つであり、研究が進んでいます。今回の「魅惑の心理」マガジンでは、シャーデンフロイデの正体を知り、シャーデンフロイデとどう向き合っていくか、数多くの論文か読み取り、そして考察をしていきたいと思います。「知っている」と「知らない」では大違いが生まれます。シャーデンフロイデの秘密に迫ります。

[目次]
・シャーデンフロイデのメカニズム
・シャーデンフロイデを利用する人、応用の可能性
・シャーデンフロイデ抑制の研究

○シャーデンフロイデのメカニズム

シャーデンフロイデが向けられる対象の多くは、自分よりも優位な立場の人、恵まれていると感じる人に向けられます。自分よりも不幸である、恵まれていないと感じる人には抱きにくい感情です。 たとえば多くの人は迷惑系ユーチューバーに「人に迷惑をかけて利益を得ている」と認識しています。そこで迷惑系ユーチューバーが炎上して苦しんだり、収益が止まったりすると、「ざまあみろ」という感覚になるのです。こつこつと頑張っている人が何か失敗してしまうと、逆に大丈夫かな、かわいそうと感じます。もう少しわかりやすい例を出しますと、高校野球で「地方の県立高校」「部員数は15人、努力で初出場」「予算がなくてユニフォームもボロボロ」そんな高校は負けても応援されやすいのですが、「都市部のエリート私立高校」「部員数1000人の中から選出されたメンバー、勝っても負けてもプロの道」「溢れる予算で一人一人にパーソナルトレーナーがいる」なんて高校だと、負けると「よっしゃー」と思いやすくなります。

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