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「魅惑の心理」マガジンvol.219(エコーチェンバー現象)

2021年2月から始まったワクチン接種に、どの程度の効果があったのかは十分検証されていません。SNSでは賛成する人と反対する人の意見が極端に分かれ、未だに激しい言葉で溢れています。ポーポーは人がなぜ過激な行動や思考をするのかに興味があります。意見が分かれるのは当然として、なぜ執拗に自分と意見の異なる相手を攻撃し続けるのか、なぜ少ない情報から、決めつけた判断をするのかという部分がとても不思議です。

2023年11月16日に京都大の理論疫学のチームから、新型コロナウイルスワクチンの接種によって、国内の2021年2〜11月の感染者と死者をいずれも90%以上減らせたとの推計結果が発表されました。この期間の実際の感染者は約470万人と推計され、死者は約1万人だったが、ワクチンがなければ、それぞれ約6330万人と約36万人に達した恐れがあるとしています。接種によって感染者数を92.6%、死者数を97.2%減らせたと推計しました。

こうした結果を受けて、「そうなんだ」と受け入れる人もいれば、「何か違和感があるな」と思う人もいると思います。中には「いやいや違うだろ」と感じる人もいると思います。感じかたは人それぞれです。自分を軸に考えて、自分の周りの感染状況、ワクチン接種状況、見てきた報道の種類、誰かと会話した内容などがそれぞれ違うので、当然持っている意見も印象もそれぞれです。多様な意見があるのは不思議ではありません。

私は京都大のリリースを受けて SNSの反応に驚かされました。ワクチンに対してあまり良い印象を持っていない人やワクチンが原因と考えられる重篤な副反応、不幸にも亡くなってしまった実例を間近で見ている人には、受け入れにくいものかもしれません。それによって辛辣なコメントや批判はあるだろうとは予想していました。

ところが衝撃だったのが、この統計の集計方法がおかしいとか、データの見方が違うとか甘いのではないかといった具体的に間違いを指摘するものではなく、ただ感情でロジックを論破することが「科学的である」という思い込みを持った人があまりも多かったからです。「私はこのデータを受け入れられない。それは私の意見と違っているから。だからこれは非科学なんです」というような論法の人が大変多くいました。「私と私の家族はなっていない。だから、コロナなんてそもそもなかったんじゃないか」という小さく閉鎖的な視点で、コロナを受け止める人もいました。

人ですから、それは本能的に受け入れられないものがあると思います。だから、否定したい気持ちが先行して、根拠はないけれども「このデータは捏造だ」というならわかります。しかし「感情で違うと思うこと」と「科学的なデータを集めて評価されたもの」が同じ土俵で語られる違和感は残ります。

このような話はワクチンの問題だけではありません。実は様々なところにもあります。たとえば陰謀論の多くもこんな感じです。ちなみに私も陰謀論は好きです。地球は平面だと信じるフラットアーサーという人たちも世の中には多くいます。アメリカではフラットアーサーは600万人もいるといわれています。世界中で集会があります。もちろん、いろいろな考えが存在しますから、全ての陰謀論や地球平面説を否定するものではありません。個人的には面白い考えだと思います。今回のこの原稿も、京都大の結果について全く議論していません。「正しい」とか「正しくない」ということではなく、人の反応に注目しています。

ポーポーはこれからの時代を生き抜いていくためには、こうした人の思考メカニズムを知ることが大事だと思います。キーワードになるのがエコーチェンバー現象と呼ばれるものです。今回はこのエコーチェンバー現象から、 SNSにおける人の思考傾向、メカニズムに迫っていき、なせあれほどまでに人が怒るのか、このような社会を乗り越えていく方法について考えていきたいと思います。

○エコーチェンバー現象とは

たとえばX(旧ツイッター)では、似た価値観や似た考えを持った人同士で相互フォローをすると、似た情報だけが目につくようになります。すると、その情報が真実だと思い、信じ込むようになります。自分の意見にはいいねがたくさん付き、思考が肯定されるような錯覚を持ち、正解であるという思い込みを作るのです。これがエコーチェンバー現象です。閉鎖空間で音が反響している現象に例えたものです。

エコーチェンバー現象を発生させる心理的な要因として確証バイアスがあります。確証バイアスとは、自身の先入観や意見を肯定するため、それを支持する情報のみを集め、反証する情報は無視または排除する心理作用をいいます。

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