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[Game]ガスコイン神父が教えてくれたこと

私はアクションゲームが下手だ。
謙遜ではない。弁解の余地なくほんとうに下手だ。
前回の記事でもちらっと書いたけど、マリオは一面すらクリアしたことがない。ノコノコとかクリボーとか怖くて仕方ない。ていうか、ぶつかるだけで体力が減るような謎生物が特に目的もなさそうにウロウロしてる世界とか怖すぎる。マリオは今でも苦手である。

そんな私がどのようにして「ぶつかるだけで死ぬような謎クリーチャーが目的ありげにウロウロしている世界」であるところの『Bloodborne』や『ダークソウル』シリーズをこよなく愛するようになり、また全ボスソロクリアを楽しめるようになったのか。
今日はその、ごく私的なブレイクスルーの話です。
めちゃめちゃダサい話なので正直書くのはめちゃめちゃ恥ずかしいんだけど、きみ、よければ聞いてくれたまえよ。

ガスコイン神父に勝てない

私が自分のダメさ加減にとことんまで向き合うはめになったきっかけは、ガスコイン神父というボス敵である。

ハイこの人です。うわあ、こわい。
色あせない永遠の名作アクションRPG『Bloodborne』(PS4/PS5)の世界でプレイヤーが最初に出会うこのボス、じつに全プレイヤーの4割程度が振り落とされてその先に進めないという、ある意味では実質のラスボスである。(もう一体先に出会うボスもいるにはいるのだが、いわゆる「チュートリアル・ボス」というやつ。本ボスはガスコさんが初となる。)
ブラボに慣れた今となっては、なぜ彼が初ボスを張っているかがよくわかる。非常に良い敵だと思う。
が、勝てないときはそんなの関係ない。とにかく勝てない。強い。怖い。

ガスコさんの何が怖いって、私の場合は後半のスピードだった。
あっという間に追いつかれて猛ラッシュを入れられ、「わあ」とか言う間もなく死ぬ。それはもう無慈悲に死ぬ。
それまでは難しいなりに順調に行っていたブラボの進行が、ガスコさんに遭遇して以来ピタリと止まった。
再戦に再戦を重ね、10戦目を超えるあたりから、彼の体力が半分くらいになると恐怖で足が竦むよう、もとい手が止まるようになってしまった。

くやしくて死にそう

あまりに勝てない日々が続き、しぜんとゲームからは足が遠のいた。
折悪く、いつもゲームを手伝ってくれていた恋人とは大喧嘩中。助けは求めたくなかった。ツイッターで「勝てない……」と絶望している私を見るに見かねた友人が、「手伝うよ」なんて声を掛けてくれたりもしたが、それがなんだかよけいに惨めに思えて、ことさらに堪えた。
悔しかったのだ。
『Bloodborne』は、ローンチトレーラーで出会って一目惚れした。そこに映る世界の全てが、「これは私のための作品だ」と思わせてくれるほど魅力的だった。私の好きなモノしかなかったのだ。もう、このゲームのためだけにPS4を買おうと秒で決意した。
そして実際に蓋を開けてみれば、その期待と想像をはるかに上回る素晴らしい世界が広がっていた。道ばたに置かれたオブジェクトの一つひとつにまで行き渡った美的感覚は、私が求め続けてた「世界」そのものだった。
それなのに。
骨の髄まで耽溺できる理想の世界が目の前にあるのに、そこを自力で歩くことができない。
何が「私の世界」だよ。一人でボスも倒せない半人前が、この世界にいていいわけないだろう。
本当に、本当に悔しかった。

白状すると、ゲームを始める前は「難しいとは聞くけど、まあ詰んだら人に助けてもらおう」と軽く考えていた。
けれどBloodborneの世界に惚れ込みすぎた私は、その設計者であるフロム・ソフトウェアが意図した狙いどおりに苦しみ、彼らのデザインする「死闘」とやらをきちんと味わいたくてたまらなくなっていた。好きになればなるほど、この世界に「ちゃんと」馴染みたいという思いが強くなった。
そして思った。
私は、ずっと苦手なアクションは人に(主に恋人に)やってもらっていた。しかし、本当にそれでいいのだろうか? この先ずっと、「アクションゲームが下手な女子」で居続けるつもりなの? そう在りたいの? そんな自分でいいの? そう考えた瞬間、

ザッケンナコラーーーーーー!

そんな、絶叫にも似た凶暴な感情が沸き起こった。
「女子はゲームが苦手で当然」とか、そんなありもしないクソみたいな『常識』に甘え、上達なんかハナから視野に入れていない自分という現実を突きつけられ、急激に恥ずかしくなった。自分でもびっくりするくらい、自分への呆れと怒りが爆発した。
(※あくまで私が私に対して思ったことです。苦手な部分は人に任せるという対処が間違っているわけではありません。ただ、「私は」もう、そう在りたくなかったというだけです。)

そして、その日から猛特訓を始めた。

☆STEP1:己を知り、恥で死ぬ

まず、自分のボス戦を録画する。(PS4には録画機能があります。shareボタンを押してから□ボタンを押すと、その時点から遡って15分ほどが自動的に「キャプチャーギャラリー」に録画保存されます。べんりだよ!!!)

すると、たくさんのダメなところが見つかった。
というかダメなところしかなかった。
操作しているときは夢中で気づかないけれど、いざ冷静に眺めてみると、とにかくムダが多い。ムダな攻撃、ムダな回避。ムダムダムダ。つまり、自分が何をしているのかまったく判っていないひとの動きだった。

たとえば、敵が振りかぶったのと同時に自分も武器を振る。
前半のガスコインの得物は「斧(オノ)」で、振りが遅い。対して私の使用武器「鋸鉈(ノコナタ)」は攻撃の出がとても早い。だから、前半だけならそれでもなんとかなったりする。が、なんとかなってしまうが故に、私は「攻撃速度」なんてことを考えてすらいなかった。
よって、後半のガスコインの素早い攻撃ラッシュの前に為す術がない。鋸鉈のフリなんて良いマトでしかないにもかかわらず、まったく理解せずに「ええーい! 当たれ!」みたいなノリで正面から振っている。
死んで当然である。いや、死ぬべきなのだ。今すぐ死ねこのクソざこ。

さらに、敵の攻撃の範囲をまったく見きわめず、場当たり的に逃げる。
こんなもん回避とは呼べない。次に攻撃が飛んでくる方に逃げてどうすんだよ。
ガスコさんのモーションには非常にわかりやすいクセがあるのに、彼が今どのモーションを繰り出しているかもまったく見ていない。謎のタイミングで火炎瓶を投げて、当前のように外す。高価な火炎瓶を、お前、そんな粗末に……。

それはもう見事なまでに「ばかの動き」だったのだ。
恥ずかしくて死んだ。
こんなん、勝てるわけなかった。

☆STEP2:ガチャ押し、ダメ、絶対

そもそも自分の動きが把握できていないことをまざまざと思い知らされた私は、アクション苦手人間の一番だめなところ、すなわち『ボタンのガチャ押し』を直すところから始めた。
画面上のキャラクターと、自分の指の動きを明確に連動させる。
回避、ステップ、通常攻撃、強攻撃、銃撃。自分の分身である"彼女"がしていることを、私自身も正確に把握する。
自分が何をしたかわからないということが極力ないような操作を心がけ、「操作したとおりに彼女も動く」ように、何度も何度も、来る日も来る日もザコ敵で練習した。

結果、ムダ振り・カラ振りが減った。
すると動作がシンプルになる。「画面で何が起きているかわからない」ということも減る。
さらにスタミナ(行動するために必要なポイントのようなもの)にも余裕ができる。スタミナに余裕があれば、敵の想定しない動きにも落ち着いて対処できる。

それまでだって、そこそこアクションゲームは遊んでいた。『バイオハザード』『アサシンクリード』『ALAN WAKE』『Prototype』『Fallout3』……。大好きな作品は枚挙に暇がない。にもかかわらず、私はこのときようやく基本の「き」を学び始めたわけだ。
いま思い返しても「どのツラ下げて」感溢れる話で、顔から火が出そうである。ほんとうに恥ずかしい。しぬ。
けれど、やらなかったらいつまで経っても恥ずかしいままだ。がんばるしかなかった。

☆STEP3:敵を知る

しかしボスに実戦で挑み続けると、輸血液(回復アイテム)の消耗が激しく、心も折れがちになる。
そういうときは、うまい人の攻略動画を何度も見た。
上手な人は視点取りもうまいので、イメージトレーニングにもなって一石二鳥だった。
自分が戦っているときはなかなか余裕がなくて観察することができない「ガスコインの攻撃パターン」も、他人のプレイなら冷静に見られる。ここで覚えて帰ってしまうくらいの勢いで、よーく観察した。隙ができるのはいつか。この攻撃の当たり判定はどこまでなのか。
わかってきたかな~と思ったところで実戦に挑む。頭で覚えたことを、今度は死にながら身体で覚える。アイテム節約のために回復はしない、あるいは輸血液3本使ったらもうダメなどのせせこましい試みを行いつつ、ひたすら神父と戦い続けた。

☆STEP4:恐怖心を克服する

しかし、最後にして最大の難所はまだ残っていた。
恐怖心である。
何度も何度もボロクソに負けているせいで、ガスコさんが「ウオーーーーーーーー」をすると「ひゃあ」とか言いながら尻尾を巻いて逃げ出したくなるのだ。怖い。ホント怖い。
フロムの演出がまた巧みなのだ。じつはそこまで広範囲には判定がないような攻撃も、エフェクトや音の演出でやたら恐怖心を煽ってくる。嫌らしいである。あいしてます。
そこを、なんとかこらえて「ふんぬー!」と持ちこたえる。
後ろに下がりたくなる気持ちを懸命に抑えて、前へ出る。
回避するときは、すれ違うように背後へ回った。そうすることで、距離を離すことなく攻撃の範囲外に出ることができた。(※私のやりかたです)

攻撃するときは冷静に、一撃一撃をていねいに、そして確実に叩き込む。決して焦らない。深追いをしない。
相手を良く見て、スタミナに気を配り、欲張らず、しかし諦めない。
フロムゲーの基本の動きが、ここに来てようやく身についたのだった。

☆STEP5:勝つ

練習に練習を重ねていると、不思議なことに先を見なくなった。
大切なのは「今の一撃を当てること」、そして「今の攻撃をかわすこと」。その積み重ねだけになる。

そしてある日、あっけなく私は勝った。

気がついたら勝っていた、というのが正しい。拍子抜けした。
そして、いったいなぜ今まで勝てなかったのだろう、と画面に躍る「YOU HUNTED」の文字を見ながら不思議に思っている自分に気がつき、愕然とした。
私、アクションゲームできるじゃん。
そう思った瞬間、心の底の方からじわじわと喜びが沸き上がったのを今でも覚えている。爆発するような嬉しさではなかった。が、そのじんわり暖かい感情は、あとからあとから湧いてきて、そしていつまでも続いた。

そして、私はフロムの生み出す「死闘の世界」の虜になった。

「今に見ておれでございますよ」の精神

ガスコイン神父にソロで勝つというイベントは、私にとってまさに人生のブレイクスルーだったと思う。おおげさに聞こえるかもしれない。でも、何年か経った今でも、この体験が強烈なものとして焼き付いていることは確かだ。
なにか乗り越えなきゃならない壁のようなものが出現したときに、以前より臆しなくなった実感もある。
練習することの快感も知った。
勝てなかったヤツに、じわじわ迫っていく喜びも。

それまで私は人と争うことが苦手だった。「今に見ておれでございますよ」という精神が今いちピンと来ない人生を送ってきた。幼稚園の通信簿(?)に「もうちょっと競争ということを覚えさせてください」と書かれたらしいが、それが成長しないまま今に至ってしまったわけだ。
けれどフロムゲーを通して、生まれ初めてその真骨頂に触れたのだと思う。「絶対殺すマン」の執念も知れた。うまく使いこなせば、強力な人生の推進力になる力だと知った。
フロムゲーが似合う女になりたいという、なんの役にも立たない見栄が私を成長させたのである。ガスコイン神父には感謝しかない。今ではお助けマン(オンライン協力プレイ)までやって彼をボコボコにしている私ではあるが、いつだって勝利のあと、彼にだけは「狩人の一礼」ジェスチャーを欠かさない。
彼は、私の人生を豊かにしてくれた師だから。

ここまで長々書いてきたが、ゲームが役に立つとかそういうことを言いたいわけではない。ゲームは楽しいので、楽しければそれで充分である。言いたいのは、「何事も、できないなんてこたぁない」ってことである。
本気でやりたいと思えば、絶対にいつかはできるようになる。知らんが。
だから、どうか諦めないでほしい。まず挑戦してみてほしいのだ。
いつか目の前に「どうしても遊びたいのにやれない一本」が出てきたとき、この話が少しでも役に立てば幸いだと思ってこれを書いている。大丈夫。まずは一歩。その一歩が、きっとあなたのゲーム人生を更なる深みに沈めてくれるはず。
ゲームは楽しい。ゲームやろうぜ。

追伸

そういうわけで、皆さまも、どうかフロムゲーをよろしくお願いいたします。
『Bloodborne : The Old Hunters Edition』、絶賛発売中でございます。
DARK SOULS』シリーズもよろしくね☆
(ちなみに、いまだにマリオはできません。あれはまた別の修行が必要みたいです。いつかね。)