掟になじめない腐女子たちへ

いわゆる「腐女子」地方に身を投じて、一年ちょっと経った。
それまで二次創作というか小説を書いたこともなく、腐った世界のことも概観を友人伝手に知っているだけだったため、参入したばかりの頃は相当に戸惑った。
謎の儀礼や掟に満ち溢れているのだ。固定、リバ、カプ厨、オメガバース、カプ表記、注意書き……。知らん名前、知らん概念ばかりである。
なじめるのだろうかと、ものすごく不安だった。

特に戸惑ったのがカプ表記、そして注意書きの暗黙ルールだ。
私のカプ観とかはどうでもいいので省くが、とにかく私は、どう説明されても「カプ表記」と「地雷除けのための注意書き」という慣習が、理解しきれなかったのである。
しかし、ここはわりと火種になりやすい部分であって、できれば怒られたりとかはしたくなかったので、必死に理解しようとした。
ローカルルールに馴染もうと頑張った。

一年経過して、さいきん私の答えが出た。
馴染む必要はない」。

私と同じ悩みを持つ人の助けになればと思い、かるく書き残します。

じつは参入したてのごく初期の頃は、基本的に自分の二次創作物以外を求めていない(だから布教もしないし飢えるという感覚もない)という傲岸不遜な性格のため、掟についてもかなり適当にあしらっていた。
BAっぽい描写(とか言われても私にはそれが「BAっぽい描写である」と認識できんのがまずもって最大のつらいところなんですが)があっても、ちんこつっこんでなきゃABですと言い張る系の。私の感覚ではABなのかBAなのか「よくわからない」なので、第三者に読んでもらって決めてもらったりもした。

そもそも私の作品の体感固定読者は10名程度の未熟者だから(いつも読んで下さる方、本当にありがとうございます、精進します)、「まあ文句とか言われることないでしょ。あったとしてもメール数通来るだけでしょ」と高をくくっていたのが第一。

それにプラスして、そこ明かしたらネタバレなんですけど……みたいな、作品を書く上でのこだわり的な部分もあった。
二人の関係がどこに落ち着く(落ち着かない)のか、その過程を描きたいのに、いきなりオチ言っちゃうの作者的にはキッツいんだわ、みたいな。

とは言え、時間が経つと燃えたり人が爆死したりする様を目にするようになる。で、びびる。
さすがにジャンルの要請が現にあるのに、そんなこと言うのは書き手のエゴかもな、と思うようになった。
その辺りから、自分の作品に相応しい注意書きを把握すべく、カプ表記について色々調べ始めた。

結果はわりと散々だった。

あっちこっちで語りに語られている「わたしのカプ傾向と全体の俯瞰」みたいな話、正直めちゃめちゃどうでもいい。お前の好みとか知らん。意味わからん。興味ない。ていうか、読んでも読んでも「私の作品にどういう注意書きを付けたら、貴方は私の作品を回避してくれるんですか」が一向にわからん。知りたいのはそこなのに。
むしろ読めば読むほど「どんな注意書き付けても、かならず誰かには叱られるんちゃうの?」という恐怖のほうが強くなった。

さらに、腐女子たちの「(地雷を踏む→嘆く→)自分の地雷について滔々と語りだす」というひとつなぎのムーヴを目にする機会も増えた。
まあ皆さん、ようしゃべりはった。そしてお決まりのように「あ、お気になさらず」「つぶやきです」。
……そんだけ目の前でキレ散らかしといてか。怖えよ。

で。
総じてそれらの「カプ傾向語り」に特徴的なのは、自覚無自覚問わず他責的な口ぶり、そして何よりも「自分の好みを事細かに主張せずにはいられない自我の脆さ」(みんな成人してるのに、だぜ)だった。
そんなん自分で処理してやとしか言えんじゃん、と絶望した。こっちには負えないことばかりなのだから。

さらに、決定的な事件が起きた。
粘着アンチが沸いたのである。
いいねが5個とかの私に、である。びびった。
なんの冗談だよと思ったけど、冗談ではなかった。
たかだかキャラクターの解釈違いというだけで、マシュマロを潜り抜けた嫌味シャワーから始まり、TwitterのDM攻撃、Pixivの複垢取得してまで嫌がらせされるという粘着っぷり。
最終的には何の根拠もないパクリ疑惑まで言い立てられて、さすがにうんざりした。(事務局通報で解決しました。つかれた)

そして、そのとき悟った。

どういう注意書き書いておいたらゴチャゴチャ言われずに済むんだろう」の答えは、「どう書いてもキチガイはキチガイなので、来る」なんだなと。

わりとカジュアルにキチガイが出没する世界ということだけを知っておけば、あとは簡単だったのだ。
注意書きがズレたくらいで読まなくなるような人は、たぶんもともと客じゃないのだ。
そもそも、自分の萌えにジャストフィットしたものなんて、自分以外には作れない。にも拘わらず、他人にそれを要求するような人間のことなど、気にするだけ無駄だ。

憑き物が落ちたように楽になった。
傷つく人は勝手に傷つくし、自己愛の強い自分語りは見なきゃいい。
別に交流を求めてるわけじゃないんだし。
それだけなのだ。

これからは、慣習とか、共感ベースの謎の連帯ムードに心が折れそうになったら、心の篝火となる原点に一人きりで戻ってみようと思う。
自分の書きたい作品を、いちばん読みたいと思っているのは誰か。

答えは明白だ。

●追記
すでに「おめーに地雷はねえのかよ」的反応がありましたが、ありますよ。最近だって「あらーこれは合わないわー」っていうの読んでしょんぼりしました。
けど、だから何ね?って話です。
ヒトの好みは複雑怪奇で、注意書きがあったから回避できるものでもないし、たかだか地雷で凹んだくらいで騒ぐというのが私には理解できない。そんな被害者ヅラの人間に配慮する必要は感じないし、配る気も持ち合わせてないっすわ、というお話なんですね、これ。
それでも意外とやっていけるよっていう。
ええ。