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[hulu]Channel ZERO:ノーエンド・ハウス - 仔犬に食われろ誘蛾灯

■Huluで配信中の『Channel ZERO:ノーエンド・ハウス』をようやく見た。

■都市伝説に着想を得たホラードラマ『チャンネル・ゼロ』の第二シーズンです。
とは言っても「都市伝説」がコンセプトという共通点以外は、いちシーズンで話が完結するタイプのミニ・シリーズなので、こちらの第二シーズンから見ても問題なし。
1話45分で7話完結という短さで、気軽に見られるのも魅力。

■『ノーエンド・ハウス』の都市伝説ネタは、「お化け屋敷」。
勿論ただのお化け屋敷じゃありません。「6つの部屋を持ち、ひと部屋進むごとに恐怖が大きくなっていき、最後には発狂してしまう。行方不明になる者も……」という恐怖のシロモノ。
サーカスの巡業みたいに世界中あちこちを巡っているらしく、ソレが現れる地域の人たちにだけ、意味不明で不気味な予告が届くらしい……といった、「いかにも」な噂のお化け屋敷に、実際に遭遇してしまった若者4人のお話です。
(※ちなみに元ネタはCreepyPastaのこちらの話→「NoEnd House」)

■すごく良いなと思ったのが、全7話だから各話ひと部屋みたいな感じの構成なのかなというこちらの予想を裏切って、なんと第一話でお化け屋敷を全て駆け抜けてしまった点。
アヴァンタイトルが非常に意味深なのですが、ああ、こう繋がるのかーと納得し、その後の展開に一気に引き込まれました。

■ティーンエイジ・ホラーとしても都市伝説モノとしても、非常にうまくまとまっていて面白かったです。
映像も素晴らしく、悪趣味一歩手前のカニバルへの嗜好や、グロテスクかつ耽美的な不気味さはぼうっと眺めているだけでも気持ち良い。
『レイク・マンゴー』にも似た、不穏な歴史が沈殿しているという気配だけが漂う「町」の薄気味悪さや、「NoEnd House」という存在の異質さ。あるいはそのシステムなんかはSCP好きにも訴求するんじゃないかなあ。

■空気感は『イット・フォローズ』あたりと通じるものがあるんですが、もっとわかりやすい話。抽象には落とし込まず、むしろ卑近で普遍的なテーマをリリカルに描いています。
これが昔ながらのホラー作法というか、滋味あふれる仕上がりになっていて非常に良い。映像の感覚はけっこう新しめのものを持ってきているけど、根底がオールドファッションというか。
最近、隅々までパワーが行き渡った傑作(とされる)ホラーが次々と出ている中、それが悪いわけでは全然ないんだけどちょっと息苦しいんだよなあ、という向きにはぜひ観て欲しい。

■ちなみに私見ですが、『アンダー・ザ・スキン 種の捕食』に強い影響を受けてるんじゃないかなと思います。ここ、個人的に非常にポイント高かったです。
あ、あと第一話で「ダグラス・ゴードンのインスタレーションみたいだな!」という台詞があったり、現代美術とかからも引用がありそうな感じの画が何カ所もありました。「あれーこれ何かのMVで見たぞー」というカメラワークもあったなー。識者~たのむ~。

■なお第一シーズン『キャンドル・コーヴ』では、「不定期にこっそり流れる、子どもだけが見られる海賊電波のTV番組」を材に取ってます。こちらも地味ながら丁寧なストーリーで、白昼の悪夢めいた不気味な映像とノスタルジックな語り口が非常に良い味を出しており、とても好きな作品です。よろしければ是非。

■まあそんな感じでとても面白く、全7話ビンジ(という程の量でもないけど)をしてしまったので、興味を持った方はぜひ見てくれ。
で、ここからはネタバレトーク。
ですが、本当に語りたいこともこの先に詰まっています。

=====ここからネタバレ====

■自分は世界にひとりぼっちで「マーシャン(火星人)」なんだと思いなしていた女の子が惚れ込んだ、やはり自称「異邦人」の男の子が、思春期の自意識レベルではないほんまもんの「まつろわぬ民」だったのが最高でした。笑ってしまった(意地悪)

■「ヒトであった記憶があるせいで、ヒトじゃないのにヒトとしての感情に苦しめられて本来的な在り方からはズレた行動を取ってしまう(が、本人はそれを喜びとさえ見なす)」という『餌』の倒錯が、父娘の愛情物語と交わって謎の化学反応を起こしているわけですが、そういう歪さというか、抑えようのない変態性が美しい映像の裏にじっとり横たわっているのが、このシリーズの素晴らしいところだと思います。本当に。

■全部見てから再度第一話のバーのシーンを見ると、そこにすべてが詰まっていてびっくり。
・「なりたい自分」になれたと思って帰郷したら幼なじみに「全部知ってるんだから、かっこつけてもダメだよ」って笑われてしまうJD(おそらくこれが彼の産むモノの決定打になってる)
・「犬に食われる悪夢」と「思い出の犬を食う」エピソードが呼応
・からの、セスの夢どおりの最期につながる
・JD「仮面を取ったらもう1人の俺だった」(=そのままの話だった)
・JDの胸像だけ割れてない(彼の中には産むべき他者はいなかった)
ざっと見返しただけでもこんなに。細かいところも計算されてるなと感心しました。

■それだけに残念な点も。
①まず、お父さん役にジョン・キャロル・リンチなんて有名どころを使ってしまったのは失敗だったと思う。あの不気味な存在を生かしきるには「誰でもない人の顔」が必要だったのでは。
まあ、スキモノに訴えかけるスターを使う必要とかがあったのかもしれないけど。

②ジュールズが切り札的存在になるのは良いとして、彼女の産んだモノがなんだったのかが曖昧なままだったことで、あのオフィーリア風映像がそこまで重要じゃなくなってしまったのがちょっと残念。
私、彼女はマーゴットの家を訪れた時点で既に死者で(自殺してたのかと)、本人は知らないだけでやはりセスと同じ立場だったのかと……。だからあれは卵で、もう一度生まれ直そうとしていたのかとか邪推してしまった。

③これは完全に好みなんだけど、セスが最後でいきなり狂人ふうに描かれたのがすごく不満。彼はこの世に適応できず、自分が生きやすい別の生態系を見つけただけであって、せっかく「生態系」なんて言葉を使ってるんだから最後まで環境をめぐる生物の生存競争みたいな描き方を貫いてくれたほうがしっくりくる。
ホラー者としても、日陰者にシンパシーがあってこそのホラーだと思っているので。
……まあ、厄介オタクの好みですが。

=====ここまでネタバレ====

■ところで、JD役のSeamus Patterson君がとても良い感じの役者さんでした。
(マーゴット役のジェイミー・フォーサイス、どっかで見たなと思ったら『The Path』の子だった!)

■ていうか『チャンネル・ゼロ』シリーズ、本国では既に第四シーズン開始されてるんですね……。
とりあえず早く次の「BUTCHER'S BLOCK」をお願いしますHulu、いや、はっぴょん。