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菅内閣発足冒頭に起きた「学術会議任命拒否問題」――世界に広がる批判・抗議と政府・自民党の「論点逸らし」の攻防

▽理工系の93学会が、任命拒否を憂慮する共同声明

 日本学術会議が推薦した会員候補105人のうち6人を、首相に就いた菅氏が任命しなかった問題。その抗議と批判の声は、各界に大きく広がり続けている。朝日新聞は10月8日付で、同紙のまとめでは「8日までに90以上の学会や大学、市民団体などが抗議の声明を出している」と報じた。
 また時事通信は9日、理工系の93学会が9日、任命拒否を憂慮する声明を発表したと報じた。日本地球惑星科学連合、日本数学会、日本物理学会のほか、生物科学学会連合と自然史学会連合の傘下学会が共同で出したもので、政府が理由を示さずに会員候補の任命を拒否した事態を憂慮し、対話による早期解決を求める内容。
 この動きは陸続と続いている。
 学術機関や各分野の研究者集団は、政治が学術を支配すれば国が滅ぶことを肌で知っているし、いまそれを感じ取って共有している。自らの自律と学問の自由確保の正念場である。思いをさらに共有し、陣形を大きく広げて官邸と自民党を包囲していく必要がある。

(PEACE_FLASH「ニュースの検証」=JUNZO_KOWASHI)

▽科学誌ネイチャーとサイエンスが、学問の自律を損なう動きに警鐘

 共同通信とNHKニュースは8日付で、英科学誌ネイチャーが「世界各地で政治家が学問の自律や自由を後退させている」との論説を公表したと報じた。新型コロナウイルスを巡る米トランプ大統領の対応などと共に、菅義偉首相が日本学術会議メンバーの任命を拒否した問題に言及。学問の自律は現代の学術研究を支える基盤で、これが損なわれれば「人々の健康、環境や社会の健全性を危機にさらす」と警告した。
 なお東京新聞が9日付で、米科学誌サイエンスが5日、「日本の新首相、学術会議との戦いを選ぶ」との見出しの記事を掲載したと伝えた。ノーベル賞受賞者の梶田隆章・日本学術会議会長が反論という写真を掲げ、記事では、首相が任命のプロセスを「混乱させた」と指摘、研究者たちは「学問の自由への脅威とみている」と伝えた。
 大きな包囲網が形成される中、首相の菅氏は9日、学術会議が作成した105人の推薦リストを「見ていない」と言い出した。「会員候補リスト」を見たのは、9月28日の決裁の直前だったと記憶しているといい、自分は6人の排除に関与し得る立場にはなかったと強調し始めた。にもかかわらず、その排除した6人についての決定を「変更することは考えていない」ともいう。

▽学術会議に「非」をなすりつける「論点すり替え」に警戒を

 結局、そもそも菅氏がまず最初に明らかにすべきと求められている「排除の理由」をきちんとした言葉で言えない。これまでの「総合的・俯瞰的」という説明も口先だけだったことも判明した。いかにも「安倍政治」の継承者らしい振る舞いとしかいいようがない。
 保身のためならいくらでも時間の無駄を重ねてもよいと考えているのだろうか。政府・自民党はこれ以降も「論点のすり替えに躍起」(「学術会議問題 論点すり替え 目に余る」朝日新聞10月9日付社説)になるのだろう。
 同社説は<学問の自由をめぐるミスリードも人々を惑わせる>として、<加藤官房長官らは、学術会議の会員でなくても自由に研究はできるとして「今回の対応は学問の自由の侵害に当たらない」と繰り返す。だが研究を踏まえて発表した内容や発言が政権の意に沿わず、不利な人事につながったのは疑いようがない。これでは学者は萎縮し、学問の発展は期待できなくなる>と指摘する。
 菅首相によると、会員任命を自身が最終的に決裁したのは9月28日。会員候補リストを見たのはその直前だったと記憶しているという。その時点では最終的に会員となった方(99人)がそのままリストになっていたと述べ、6人の排除に関与し得る立場になかったと強調した。

 安倍辞意表明が8月28日、学術会議は8月31日に新会員候補105人の推薦名簿を提出(内閣府から105人の改選定員を上回る人数の候補者リストを提出するよう求められていたが、定数通りで提出)。安倍内閣の総辞職は9月16日午前。内閣府は9月24日に任命候補を起案したとしている。菅が28日に決裁。
 もし、「自分は6人の排除に関与し得る立場にはなかった」という菅氏の言葉通りであるとすれば、排除の決定はその前。当たり前だが。「名簿確認時に候補6人はすでに除外されていた」「名簿は6人が外された状態で決裁された」というのならば、名簿からの排除は安倍氏か内閣府(改ざん行為の可能性も)が行ったものと推察される。
 菅氏は先走って、この任命を巡って「安倍前首相から引き継ぎはなかった」旨を口にしているが、それらと同時に菅氏は<分が悪いとみて、学術会議の側に非があるという「印象操作」に走っているように見える。しかも菅首相らの発言内容には誇張や歪曲(わいきょく)が多い>(同社説)。

 9日には、河野太郎規制改革相が学術会議を巡って、1)行政改革の対象とし、2)予算や事務局の人員の妥当性を検証する方針を打ち出した。河野氏からの明らかな「論点のすり替え」の援護に乗るかたちで、「よい方向なら歓迎」の姿勢で返した。このあたりは菅氏との間の「緊張感」も伝えられる「麻生派」との関連も念頭に置きたい。
 菅内閣発足冒頭に発覚した、この信じがたい時代錯誤のアカデミーへの人事介入。学術会議は安倍時代の内閣府から、105人の改選定員を上回る人数の候補者リストを提出するよう求められていた。しかし会議側は「定数通り」で提出した。そこで何が起きたか、をはっきりさせる必要がある。菅氏が論点そらしに躍起になって責任逃れに終始するなら、その点をはっきりさせることがなおいっそう重要になってくるに違いない。

【参照記事】

・学術会議の任命拒否、広がる抗議 90超の学会など声明 朝日新聞 2020年10月8日
・理工系93学会が緊急声明 「任命拒否を憂慮」 学術会議問題 時事通信 10/9
・共同声明「日本学術会議第25期推薦会員任命拒否に関する緊急声明」発表記者会見を行いました 2020年10月9日(日本物理学会)
・「政治が学問の自由を脅かす」 英ネイチャー、学術会議にも言及 共同通信 10/9
・科学誌「ネイチャー」 日本学術会議の任命見送り 社説に掲載 NHK 2020年10月9日
・日本学術会議の任命拒否問題、「学問の自由の脅威」ネイチャー、サイエンス海外科学誌が注目 東京新聞2020年10月9日
・Japan’s new prime minister picks fight with Science Council Science
・菅首相、推薦リスト「見てない」 会員任命で信条考慮せず―学術会議会長と面会も時事通信2020年10月09日
・菅首相、105人の名簿「見ていない」 任命再考は改めて否定 毎日新聞2020年10月9日
・(社説)学術会議問題 論点すり替え 目に余る 朝日新聞2020年10月9日
・学術会議、行革の対象に 首相「よい方向なら歓迎」 日本経済新聞2020/10/9

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([PEACE_FLASH]2020/10/10 2645号より)
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