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Peaceable Education #7 「よき市民」になる練習(1)

奈良県磯城郡川西町結崎にある川西こども園を訪れ、年長さんのピースフルスクールのレッスンを見学しました。5才児の子どもたち23名がサークルになり対話を行う様子を見学し、子どもたちの「成長する力」に圧倒されました。
 
ピースフルスクールは、オランダで生まれたシチズンシップ教育です。2011年3月東日本大震災の直後に訪れたオランダで始めて、ピースフルスクールと、そこで育っている子どもたちの様子を見て、この教育に、「一目惚れ」し、きっと、みんなも、この教育を知ったら、すぐに実践したいと思うに違いないと思い込み、日本にこのプログラムを紹介して、10年が過ぎました。導入実績は、川西こども園以外にも、例えば、神奈川県箱根町や、北海道湧別町が、教育委員会主導でピースフルスクールを地域の園に導入しています。

「よき市民」になる練習

ピースフルスクールには、日本の教育にない考え方があります。それは、子どもは、練習を通して「よき市民」に育つという考え方です。では、「よき市民」になるために、どのような練習をすればよいのでしょうか。いくつかの事例を紹介したいと思います。

●自分の気持ちを扱う練習
子どもたちは、自分の気持ちを言葉にしてお友達に伝える練習をします。私達は、悲しい気持ち、嬉しい気持ち、様々な気持ちになりますが、その気持ちを「なぜその気持なのか」理由を添えてお友達に伝える練習をします。
 この練習のよい点は、自分の気持ちをメタ認知する力や、「なぜ私はそう感じるのか」を添えて自分の気持ちを言葉にする力が育つだけでなく、他者の気持ちを傾聴する力も育ちます。また、人は、同じことに対して、同じ気持ちではないことを当たり前に思えるようになるので、多様性を包摂する力が身につきます。そして、「怒り」のようなネガティブな感情を、コントロールし、気持ちを落ち着かせる練習を行うことで、自分の感情を上手に扱う人に育ちます。大人でも、自分の感情に支配されてしまう人がいるので、ピースフルスクールのレッスンを受けて欲しいと思うことがあります。
 
●自分の意見を持ち、伝える練習
ピースフルスクールでは、「自分の意見を持ちましょう」と子どもたちに伝えるだけではなく、自分の意見を持ち、お友達に伝える練習をたくさんします。川西こども園のレッスンも、はじめのゲームのテーマは、「好きな動物はなに?」という問いでした。「先生は、パンダが好きです。パンダのもこもこした感じがかわいいと思うからです」と、先生が、自分の事例を紹介し、23人の子どもたちが次々と、自分の好きな動物のことを話します。何人かの子どもたちが「ハムスターが好き」と言ったのですが、その理由は、一人ひとり異なります。「可愛いから好き」、「ほっぺたのぷくっとしたところが好き」、「早く走ることができるから好き」等々です。子どもたちは、意見には理由を添えることが大事ということを教わっているので、「どんな動物が好き?」という質問にも、自然に理由を添えて答えることができます。年中さんから継続してピースフルスクールに取り組んできた成果でもあります。
 
●意見が違ってもお友達でよい!
「よき市民」は、多様性を包摂し、対立が起きた時には、話し合いで問題を解决することができます。オランダで生まれたピースフルスクールの強みは、「民主的な社会では、対立が起きて当たり前」と考えること、そもそも、対立を悪いことだと捉えないことです。ピースフルスクールに出会う前の私は、対立が起きると「厄介なことになった」、「困った。どうしよう」などと悪い出来事に遭遇したような気持ちになっていました。しかし、よく考えてみれば、誰もが、自分の考えを持つことができる社会で、人の意見が同じになるはずがありません。
 「意見が違ってもお友達でよい」という考えを当たり前にもつことで始めて、安心して自分の考えていることを正直に話すこともできますから、主体性を育む学校では、この考え方を当たり前にする必要があります。また、この考えを持つことで、お互いの違いを、ネガティブに捉えるのではなく、多様性をポジティブに捉える心も育まれます。違いが原因となるいじめも当然なくなります。
 
●対立を話し合いで解决
子どもたちは、自分の感情を扱う練習を繰り返すことで、対立して気持ちが高ぶっている時にも、「冷静になろう」と自分に言い聞かせることができるようになります。「よき市民」は、感情的になっている自分に気づき、冷静になれていない時には話しません。冷静ではない状況で話し合っても、よい解決策が生まれないことを知っているからです。感情に任せて怒鳴ったり、吠えたりする大人は、「よき市民」ではありません。
 ピースフルスクールで練習を重ねた幼児は、すでに、冷静になることの大切さを知っています。もちろん、いつも、いつも、理想の姿になる訳ではありませんが、理想の姿を知っていることで、自分を振り返る際の指針にすることができます。「さっきの自分は、感情を落ち着かせることができていなかったな」と振り返ることができます。ピースフルスクールでは、サルとトラのパペット劇で、よい事例や、よくない事例を学ぶので、「さっきの自分は、あの劇のトラくんみたいだった」と自分を振り返ることができます。時には、お友達に、「トラくんみたいだよ」と、指摘されることもあります。同じレッスンで学ぶおともだちと一緒に、理想の姿を実践したり、お互いにフィードバックをし合うことで、一緒に育っていくのもピースフルスクールの魅力です。

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