山のガイドはどうやって近未来を迎えるか

今日は1月も28日。かなり遅くなりましたが、新年あけましておめでとうございます。今年もよろしくお願い申し上げます。

2021年は、新型コロナの感染拡大とアメリカ合衆国大統領選の混乱と、波乱の幕開けでした。客商売である山岳ガイド業も、非常事態宣言が出るに至って、お客様からのキャンセルと活動自粛で、当面の間、仕事はほぼゼロとなりました。
個人的な見解としては、喧伝されているコロナ問題は医療に偏りすぎていると感じていました。しかし専門家も指摘していますが、「風邪やインフルエンザと同じ」か「重篤化する怖い感染症か」が、世代によってあからさまに違うことが新型コロナの特徴のようです。

すでに新型コロナを扱う病院ではトリアージが始っていると聞きます。私自身の身近でも、高齢の方が新型コロナで亡くなり、病院で最後を迎えましたが、介護のご家族も感染していて、自主隔離の中、葬儀もままならなかったそうです。東京で連日千人前後の新規感染者が出続けている状況では、新型コロナが他のコロナ型の感染症よりも恐ろしい病気であるかどうか置くとしても、このまま行けば、自分が罹患するのも時間の問題かもしれない、と感じます。

日本山岳ガイド協会では、1月10日付けで、ガイド業務を実施するにあたり以下の様な注意喚起を所属ガイドに向けて行っています。
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*引き続き自身の健康管理に注意する
*持病(高血圧、糖尿病など)のある方は、しっかりと管理する
*密を避け、適切な対人距離(1-2m)をとる
*マスク着用が現実的な場面(屋内や対人距離が保てないような状況)では、適切(サージカルマスクを推奨)なマスク着用を徹底する。
*相手がマスクを適切に使用できない状況で近づく際には、マスクの着用に加え眼鏡などで目の保護を行う。
*こまめな手洗い、手指衛生を徹底する
*むやみに手で顔を触らない
*屋内の飲食に際してはマスクが着用出来ないことに留意し、適切な距離や方向を意識し、大きな声で喋らないこと
*飲酒機会においてはこういった意識が希薄になりやすいため、特に注意を要する
新型コロナウイルス接触確認アプリ(COCOA)を必ずスマートフォンにインストールする
*移動にあたっては、当該地域の行政からの要請に従う
*クライアントへは直近 2 週間の健康チェックを怠らないようにする
*山行前の PCR を推奨しない
*SPO2 モニターは、結果を医学的に理解できない場合の使用は推奨しない
*怪我や疾病により通常の医療が受けられない可能性がある。リスクが高い山行を控える
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これらを踏まえて、我がPeak2Peakでは、当面の間以下の3点をガイド山行実施の要件とすることにしました。

①山行の難易度を下げる
②ガイド山行の募集人数を2名までとし、同じ家族やご友人など、普段接している方同士でのご参加のみとする。1:1のプラベートガイドをお勧めする
③宿泊を伴う場合、個室またはそれに準じる対応ができる施設に限定する

お客様には、当面のガイド山行はいったん山行を白紙に戻し、改めて行程と募集人員を変更したプランをご提示しました。

この様な対策は我々登山をする側の問題ですが、この間、登山を取り巻く状況も厳しくなってきました。登山口への移動手段である高速バスの減便(首都圏から北アルプスエリアへの高速バスは減便しています)、山域の移動手段である路線バスの運休、新穂高ロープウェイ(しばらく休業)や谷川岳ロープウェイ(時短と運休)の臨時休業や営業時間の短縮山小屋の受け入れ態勢の変化などなど。
またスキー場アクセスのBCスキーが盛んな上越方面では、カグラや苗場スキー場がスキー場スタッフに感染者が出たため当面クローズする発表がありました。

ガイドとしては、与えられた条件内で、知恵を絞って、お客様を山にお誘いするしかありません。

そもそも登山ガイド、山岳ガイドは、個人事業主である事がほとんどで、しかも社会的に認知された職業ではないマイナーな職種です。専業ガイドでやっている人数は、日本全体でおおよそ2000人にも満たないと思われます。我々は、現今のコロナ禍にあって公的機関が実施している様々な救済処置を受けられないでいます。

登山という行為は、そもそも「自助」が不可欠です。ガイドであれば、クライアントの安全と命を守るために、様々な策を講じる能力、努力が必要です。そのような職業倫理からすれば、どんな状況下でも自らの創意工夫で生き抜く、これが山岳ガイドたるものの価値観であって然るべきで、と言いたいところではありますが、ビジネスが成り立たない現状では、暮らしていく事ができません。展望が開けない状況が長く続けば、現状を維持していくことができない仲間も出てくるかもしれません。そしてこのコロナ禍は、人々にその働き方や暮らし方を変えるように迫っています。

さて、来るべきこの「近未来」を我々ガイドはどう迎えるのか。

しかし、新型コロナがもたらした今の状況は、悲観的なことばかりではないのです。

新型コロナ感染拡大で要請されている移動の自粛は、自然から人を遠ざけました。山は静かになり、野生動物たちは、人間という邪魔者がテリトリーから消えたことで活発に行動し、自然は本来の姿を取り戻しています。人と人との生身の接触が避けられたことで、大人数で登るツアー登山が敬遠されています。山小屋は、完全予約制になったところもあり、来るもは拒まず何人でも泊めることを止め、週末でも小屋では静かな落ち着いた時間が流れています。

「インタプリター」という言葉がありますが、ガイドの世界では、「自然の大切さや素晴らしさを参加者に伝える人」という意味で使われています。我々ガイドは、トレッキングガイドであれ、クライミングガイドでれ、スキーガイドであれ、本来的にはこの「インタープリター」であると思います。そして今の状況は、もし「一緒に行きたい」というお客様さへいらっしゃれば、「インタプリター」の役割をとても発揮できる環境にあるのではないでしょうか。少人数で混雑していない山で、ゆっくりとした時間を過ごす。お客様と一緒に自然の呼吸を感じ、時には自分を見つめ直す時間を共有すること、これは素晴らしい時間になるでしょう。

「このルートは人が多く歩いているから安心」という感覚は、山に登る人なら、多少なりともあるのではないかと思いますが、山から人が消えた今は、その安心感もエリアによっては少なくなりました。登山道整備に手が回らない山小屋も多く、今年は無積雪期にも道が荒れている箇所も出てくるでしょう。ここにガイドの役割が普段よりもあるかもしれません。

派手な見栄えのするルートではな行けれど、歴史や先人の活動を感じられるルート、多少の藪漕ぎがあって疲れるけど、山を歩くということは本来どういうことかを感じられるルート、誰にも合わずにただただ、風と樹々の音と匂いを感じながら歩き続けるルートなど、アイデアと工夫でお客様に豊かな時間を提供できるようになれればと思います。

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