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メルチャリの実証実験に見る、シェアサイクル普及の思わぬ課題とは

■ はじめに

8月22日から3ヶ月行われたメルチャリの実証実験@国立市が、11月26日をもって終了しました。

かつで大学時代を過ごした国立市でメルカリがシェアサイクルに挑む、そう聞いた時には「学生時代にあれば便利だったのに!」と思わずにはいられませんでした。その一方で、オランダのごとく自転車専用道路が整備されているくらい自転車ユーザーに優しい国立市で、どの程度まちの人々がメルチャリを使うだろうか、というビジネス目線での疑問も沸きました。

これはぜひ実証実験がどうだったのかレポートを読みたい、いや自分で書いてみたいという欲求が抑えられなかったので、この度noteに投稿した次第です。

鳴り物入りで始まったシェアサイクルは国立市で市民にどう受けたのか。

国立市に住む学生や事業主へのインタビューをもとに、今回の実証実験を考察してみたいと思います。

結果としては、シェアサイクルを普及させるための思わぬ課題が浮かび上がりました。

シェアサイクル事業を検討している方、シェアサイクルがまちにあったらいいのに思っている方の参考になれば幸いです。

■ 目次

1. メルチャリ実証実験概要
2. 現役大学生にインタビュー
3. シェアサイクル普及の課題とは

■ メルチャリ実証実験概要

・期間: 2018年8月22日〜2018年11月26日
・場所: 東京都国立市
・台数: 約100台

■ 現役大学生にインタビュー

— 今日はありがとうございます。それぞれステータスを教えてください。

A 「一橋大学の3年生で、大学へは武蔵境の実家から電車で通っています。サークルの場所へのアクセスのため自転車を大学付近に停めています」
B 「同じく3年で自分は寮住まいですね。小平に寮があるので、大学への通学のために自転車を使っています」

— 二人とも自転車をもっているとのことですが、メルチャリは使いましたか?

A 「結局一度も使っていません」
B 「同じくです。普段から自分の自転車で移動しているので」

— たまに自転車がなくて使いたい時はありませんでしたか?

A 「一度だけ使おうとした時に、クレジットカードを持っていなかったので使うのを断念したということがありました」
B 「自分は特殊ケースかもしれませんが、スマホのカメラが壊れていてQRコードを読み込めなかったため使えませんでした。仮にスマホに問題がなかったとしても、ダサいので乗ろうとは思わないですね。周りにメルチャリを乗っているところを見られるのが恥ずかしいくらいです」

— そんなにひどいデザインでしたか?

A 「デザインについては自分は特にダサいとは思いませんでした。乗れればいい派なので」
B 「デザイン以外でも、サドルが硬そうですし、タイヤが小さく走り心地が良くなさそうに感じました。また、手袋をつけたり自分好みにいじれないのもマイナスです」

— 結局利用しなかったとのことですが、1分4円の価格設定は大学生としてどう感じますか?

A 「値段は気になるような価格ではないです。必要があれば使います」
B 「必要であれば高いとは思いません」

— 周りではどうでしたか? 使っている人はいましたか?

A 「それが、実はあまり使っている人を知りません。大学の図書館の前に停まっているのを一度見たくらいです。周りで使っているという話も聞きませんね」
B 「自分も見たのは3回くらいでしょうか。外で走っている人も全く見たことがありません。実証実験が始まった頃から注目していてメルチャリのことが頭にあったはずですが、それでも街中で見たという記憶がないです」

— 大学には生協が無料でレンタルしている自転車もありますよね。そのせいでしょうか?

A 「緑の自転車ですね。構内利用という制限があるので、そのせいでメルチャリが使われなかったとは思えません」
B 「台数も少ないので関係ないでしょう」

— そもそも国立市の市民はメルチャリの実証実験が行われていることを知っているのでしょうか?

A 「知っているはずです。私は国立市の専門学校の授業をお手伝いもしているのですが、そこの授業で学生がメルチャリを使った地域活性化企画を提案していました。それくらいの認知度はあります」
B 「始まったばかりの頃は話題になってました。周知不足ということもないと思います」

— では、知っているのになぜ稼働している様子がないのでしょうか。

A 「ポートがどこにあるのか分かりづらいというのが一つ原因かもしれません。実際にポートを見たこともないです。わざわざアプリをインストールしてポートを検索するほどでもないので」(注: 海外のシェアサイクルと違って道端に乗り捨てはできない。必ず街中に設置されたポートに返却する仕組み)
B 「そもそも自転車を持っている市民が多いからではないでしょうか。大学の近くの駐輪場は常にいっぱいですし、国立駅前の放置自転車はあとを絶たず、常に監視員が目を光らせているくらいです。自転車のリサイクルも盛んで、大学生には生協を通じて、市民にはリサイクルショップを通じて常に格安で自転車が供給されています。だいたい6,000〜7,000円で買えますよ」

— そもそもみんな自転車を持っているし、ポートが分かりづらい場所で使い勝手が良くなかったということでしょうか?

A 「行きたいお店の近くに停めるポートがないのは辛いですね。普段自転車を使っていても結局駐輪場がないため少し離れたところに停めに行っていますし」
B 「国立市は景観にうるさいので最近も大学近くの路上の駐輪スペースが縮小されました。ポートを作ろうにも場所がないというのが実情かもしれません」

— ポートについてですが、2人がサークルで活性化事業を行なっている商店街に設置の依頼はなかったのでしょうか?

A 「ありました。確か去年の冬ごろですね。定例会議でメルチャリの方が来て趣旨の説明とポート設置依頼がありました」
B 「私たちの活動する商店街はURが管理する団地の中にあります。そのため私たち自身で勝手にポートの設置を判断できずに、結局見送りました」

— ポートがあれば人通りが増えてお店の来店者が増える、という考えはありませんでしたか?

A 「それはもちろんメリットだと思いますが、普段私たちのお店を利用している人がたまに使う程度だとそれほどのインパクトはありませんね。全く新しいお客さんが来てくれるなら話は別ですが、今回は市民をターゲットにしていると思うので。メルチャリがすごく使われるなら考えたいですが、まだこれからのサービスなのでそういった商売につながったケースのデータもありませんでした」
B 「そこは福岡との違いですよね。生活するまちなので観光客が来て市内を走り回るイメージは湧きません。外部からのお客さんといえば、むしろJRのSuicleの方が便利です。Suicleなら1時間100円で長時間利用に向いてますし、Suicaで簡単に払えます」

— メリットに対して、URと折衝するだけのコストはかけられなかったということでしょうか?

A 「そうです。Suicleのようにシェアサイクル利用してくれたお客さんにお得なメニューを提供したり、スタンプラリーのように回遊させる仕組みがないとメリットが薄い気がしました」
B 「私たちの活動拠点は例外的な要因があったかもしれませんが、他でもポートを置けるほどのスペースがあるお店というのは少ないと思います。また、ポートを置くことでお金がもらえるわけでもお客さんが増えるわけでもないとなれば、なおさら設置したい人はいないでしょうね」

— 今後メルチャリが本格導入されるとしたら、メルチャリはどう改善すればよいでしょうか

A 「ポートが少ないことが課題だと思うので、ポートの数を増やすことが重要ではないでしょうか」
B 「デザインを見直して欲しいです」

■ シェアサイクル普及の課題とは

今回は大学生二人のインタビューを取り上げましたが、その他にも国立市で事業を営む商店主の方にも簡単に話を伺いました。

その事業主の方はメルチャリが実証実験を行っていることは知りつつも11月26日に終了したことも認識しておらず、あまり関心がなさそうな様子でした。また、メルチャリの利用状況も芳しいものではなく、その原因としてポートの少なさを指摘していました。

当初私は「すでに自転車を持っている人の数が多いから、あえてレンタルする人はどの程度いるだろうか」という疑問でインタビューを行いましたが、想像以上にポートという利便性の問題が大きなハードルになっていると感じました。

このポートの課題には次の鶏卵問題があります。

1. 事業者的にはユーザーが少ないのでポートを設置するメリットがない
2. ポートがないので利便性が悪くユーザーが増えない

もしこの問題を解消するなら1から解消するしかなく、次のようなやり方があるのではないでしょうか。

・ポート設置に奨励金を設ける
・市役所とガッツリ組んで行政施設にとにかく置く
・コンビニなど、トップから攻略できるところに営業力を注ぐ

外国では道端で乗り捨てが可能なシェアサイクルですが、日本ではポートを設置し、ポートからポートまでの利用が通常です。

これは景観問題や、放置自転車が邪魔という市民がクレームをつけるというのを行政が快く思わないため、致し方ない施策であると思います。しかしながらポートという存在は、ユーザー目線ではサービスを使いづらいものにし、シェアサイクルの事業者目線では普及の妨げになるという重荷になっているようです。

真に乗り捨て可能なシェアサイクルが日本にあるのかはわかりませんが、メルチャリがこの問題をどう乗り越えていくのか、今後も注視していきたいと思います。

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