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チャイルドシートやベビーカーは安全か?

乳幼児突然死症候群(Sudden infant death syndrome)は乳幼児の睡眠中の死亡原因として重要な位置を占めています。これを受けて、米国小児科学会は2016年に「乳幼児の安全な睡眠環境に関する推奨」を発表しています。

米国小児科学会「安全な睡眠環境に関する推奨」

推奨ののポイントを簡単にまとめると

・必ず仰向けで寝かせる
・固い表面の上に寝かせる
・母乳育児が推奨される
・少なくとも生後6カ月まで、できれば1歳を迎えるまでは親と同じ寝室に
 寝かせる。
   →ただし、親と同じベッドを共有せず、ベビーベッドやバシネット
    (ゆりかご)などに寝かせる
・乳児が眠る場所に柔らかい物や寝具は置かない
・昼寝や夜の寝かしつけのときにはおしゃぶりを与える
・ソファや椅子には決して寝かせてはならない
・乳児がたばこの煙やアルコール、違法薬物に曝露しないようにする
・推奨されている全てのワクチンを接種する

ということになります。

この中で、「親と同じ寝室にベビーベッドなどを設置して乳児を寝かせることで、SIDSリスクを最大で50%低減させられるとのエビデンスがある」とされる一方で、クッションなど柔らかいものが近くにあるとそれに挟まれ窒息する可能性があり、「ソファや椅子などに寝かせることは大変危険」であるとされています。

一方で、187人の乳幼児を調べた結果、チャイルドシート(Car safety seats: CSS)やベビーカーなどの子どもを座らせておくデバイス(child sitting device)のうえで、一日うち5.7時間(中央値、range 0-16時間)を過ごしていることが解っており、ベビーベッドの代わりなどに使用されているケースが見られたという報告があります。

チャイルドシートやベビーカーは安全なのか?

チャイルドシートについては、車での移動中に適切に使用することで子ども安全が確保されることは周知の事実で、日本小児科学会からも推奨が出されています。一方で、先の報告のように、ベビーベッドの代わりに使用することに危険性が指摘されています。

最近発表された米国の一歳未満の乳幼児を調べた研究で、睡眠中に生じた死亡11,779件のうち、child sitting deviceに座らせている際に発生した死亡が348件生していました。結果をざっくりまとめると以下のようになります。

sitting device使用中の死亡の内、62.9%で本来の目的(移動など)外で使用されている際に発生していることが解りました。

sitting device使用中に死亡した乳児の年齢の中央値は2ヶ月(IQR 1.0-4.0ヶ月)月齢の小さい児は特に注意する必要がありそうです。

詳細な結果は以下になります。

Sitting deviceは本来の目的で使用を!

この結果を受けて本論文では、安全な睡眠環境として親と同じベッドを共有せず、ベビーベッドやバシネット(ゆりかご)などに寝かせることが推奨されているとはいえ、チャイルドシートやベビーカーをベビーベッドやゆりかごの代替として使用することは極めて危険であると結論づけています。

推奨は正しく理解して啓発をする必要がありますね。

【参考文献】
1. Pediatrics 2016; 138: e20162940
2. 日本小児科学会雑誌 2008; 112: p1024-1036
3. Pediatrics 2019; 144: e20182576



小児科、小児集中治療室を中心に研修後、現在、救命救急センターに勤務しています。 全てのこども達が安心して暮らせる社会を作るべく、専門性と専門性の交差点で双方の価値を最大化していきます。 小児科専門医/救急科専門医/経営学修士(MBA)/日本DMAT隊員/災害時小児周産期リエゾン