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救急救命士養成研修所での講義

一気に寒くなりましたね。今朝は思わずストーブを付けました。でも日中太陽があがると良い陽気で過ごしやすい季節なのかもしれません。昨日は表題の講義にいってきました。一駅ほどの距離だったので、散歩がてら歩いてみましたが、空が青く抜け、とてもすがすがしい陽気でした。紅葉も進み、月並みですが、秋ですねえ、、、

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帰り道で自家焙煎コーヒーの豆をうっている小さなお店を見つけ、なんだか得をした気分の一日でした。

ということで、講義の雰囲気をお伝えしますね。

救急救命士とは?

救急救命士は、救急隊の中でも専門的に教育を受けた国家資格者で、資格取得後にさらに訓練することで、心肺停止の患者さんに気管挿管を行ったり、ショックの患者さんに点滴を取ったり、病院前で患者さんを評価し、介入することができます。

一方で彼らの処置(特定行為といいます)は、メディカルコントロールという体制によりきっちりと管理され、その安全性・質を担保していく体制になっています。

われわれ救急に関わる者にとっては、最前線で患者を評価し必要に応じて介入して下さる力強いパートナーです。誤解を恐れずにいえば、われわれ病院内にいる医師の眼となり、手となり、一緒に患者さんの診療に当たって下さる方々です。

今回は、その救急救命士になるべく、全国(といっても担当範囲の問題で東海三県)から選抜された38人の方と3時間ぐらいご一緒してきました。(写真を撮り忘れた、、、、)

そもそも、なんで評価するのか?

今回の担当範囲は、症候学としての「頭痛」と「体温上昇」くわえて、耳と鼻に関する疾患の各論でした。

救急救命士の方が患者さんを評価し、病院を選定し、われわれに患者さんの状況を教えて頂くことで、病院は患者に必要な処置(場合によっては手術室の確保まで)を考えて、患者さんの受入準備をします。

一方で、現場からの連絡が、「状況報告」「家族からの伝言ゲーム」になっていることも多く、救急救命士としての「評価」「判断」に到らない連絡になってしまっているという現状があります。(もちろん、適切に「評価」「判断」を伝えてくださる方もいらっしゃり、大変心強いのですが、、、)

これには背景もあり、

- 受け入れ先の医師がそもそもそこまで評価していない
- 受入の決定が「かかりつけかどうか」だけで決まる病院も多い
- ひとりひとりそこまで真剣に評価するには、あまりも「タクシー」代わり
  の利用が多すぎる

など、病院側の問題、社会の問題がありますが、それを言い訳にせず、まずは純粋に医学的に「評価」「判断」ができる、というところがあってこその話だろうと思っています。

ということで、症候学の講義でしたので、こんな質問から始めました。

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まあ、想定通りですが、「病院を選ぶため」「病院に状況を伝えるため」という話が来るわけですが、では

「伝えるのは何故ですか?」
「伝えた結果、何を望んでいますか?」

と続けると、だんだん皆さんの雰囲気が変わってきました。こいつ何が言いたいのだ?と、、、、

よくよく考えてみると患者さんは病院に来れば良いのではなく、何からの処置が必要かどうかの判断をし、必要があれば治療をすることが目的です。
救急救命士が活躍できるのはこの時間を以下に短縮できるか、必要に応じていち早く介入できるか?ということになります。

であれば、救急救命士が病院に連絡をすることによって、「病院の準備が変わる」、「患者さんに必要な処置がいち早く行われるようにする」ところまで、医師や看護師(救急車の電話を受ける人はまちまちです)の「行動」を変えないと、わざわざ国家資格を持った方が病院前に行かれる意味は無いと思うのです。

逆に言うと、救急救命士の報告は、病院のプラクティスをこのように変える力があるということだと思うのです。

ということで、「人に何かを伝える」ということの意味を、皆さんで議論し、是非誇りを持って報告頂きたいということをお話ししました。

そうそう、これにあたって、まとめとして以下の動画を使わせて頂きました。

ちなみにこの『一分で話せ』は人にプレゼンするときのゴールを明確にしてくれており、とても良い本だと思います。プレゼンについてまず一冊、という方にはおすすめです。

要約はこちらから。

https://www.flierinc.com/summary/1553

症候学・臨床推論とは?

日頃救急救命士の方とお話ししていて、「臨床推論」ということをあまり意識されておらず、精度の低い snap diagnosis を繰り返しているように感じています。

ということで、頭痛、体温上昇を例に、臨床推論の中での症候学の位置づけをお話ししました。これだけで連載ができてしまうないようなので、ここではちょっとだけ。

救急救命士の活動は、暑さ・寒さも厳しく、活動状況も狭い、危ないなど大変制限される状況の中、衆人環視の中で行われる大変厳しいものだと理解しています。このため、現場で評価、判断せよ、といっても大変限られた条件の中で行うことになります。従って、本講義でメッセージとして、現場のゴールを下記としました。

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この為に、どんな疾患を考え、どんな徴候を捉え評価していくかということになります。

症候学を学ぶ意義は、所見をとることによって、ある可能性をどうやって高めるか?あるいは下げるか?ということになります。

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例えば、頭痛を持つ患者さんはどんな疾患があるか?ということをかんがえるのが症候学ですが、その疾患で頭痛を持つ可能性はどれくらいの頻度があるか?は疾患毎の各論で学ぶことです。

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このあたりの線引きというか、網の目のようになっていることを意識しながら勉強しないと、症候学は全くつかみ所の無い勉強になってしまい、「頭痛の鑑別診断リスト」を軽重なく暗記する苦行になります。

ということで、横糸(症候学)で考えると、こうなるけど、ここは縦糸(疾患各論)でしっかり勉強してね、、ということを3時間繰り返したわけです。

事後のアンケートで、「何を勉強していたかやっとわかった」というコメントを何人かの方から頂いたので、少しは伝わったのかな?

ということで、私としても初めての試みをしながらのお話でしたが、うまく伝わっているといいなあ。そして皆さんの国家試験の合格と来年以降、一緒に働けることを楽しみにしています!


小児科、小児集中治療室を中心に研修後、現在、救命救急センターに勤務しています。 全てのこども達が安心して暮らせる社会を作るべく、専門性と専門性の交差点で双方の価値を最大化していきます。 小児科専門医/救急科専門医/経営学修士(MBA)/日本DMAT隊員/災害時小児周産期リエゾン