先天性心疾患を大まかに理解する⑤
さて、ここまでのところで
構造の理解
① 静脈(大静脈、肺静脈)
② 心房(右、左)
③ 心室(右、左)
④ 動脈(肺動脈、大動脈)
肺血流とチアノーゼ
圧負荷と容量負荷
の3点について、お話ししてきました。これらを活用して血行動態を把握してみましょう。
症例 1:下図の心奇形を把握してみて下さい。
まずは構造を把握します。
① 静脈(大静脈、肺静脈):正常
② 心房(右、左):正常
③ 心室(右、左):右室と左室の位置はOK 。しきり(心室中隔)に孔
④ 動脈(肺動脈、大動脈):OK
以上から、心室中隔欠損症 と診断します。
肺血流とチアノーゼはどうでしょうか?
肺だけに血を送れば良い右心室よりも、体全体に血を送らなければいけない左心室では、心室内の圧が違います。たくさんの血を処理しなくてはいけない左心室の圧の方が高くなりますので、通常、
左心室の圧>右心室の圧
となります。従って心室中隔の孔を通って、左心室から右心室に血液が流れ込みますね。つまり「赤から黒」に血液混ざることになります。
心臓の構造に由来したチアノーゼは「黒から赤」に血が混じるときに生じるので、この症例ではチアノーゼは通常見られません(チアノーゼがもしあったら心臓の構造自体の異常では無く何か他の異常を伴っているはずです)。
一方、左心室から右心室に血液が流れます(この血液の流れのことを「シャント」といいます)ので、肺に行く血液は多くなります。
圧負荷と容量負荷を考えます。
左心室から出る血液の量は全身に行く血液はシャントの分減りますから、体に行く血液の量が足りなくなります。このため、体全体の血液の量を増やさなくてはいけません。そうすると、心臓がよりしなくてはならない血液の量が増えることになります。これが容量負荷です。
では、心臓の構造のどこにそれがかかっているか?と考えます。
体に行く血流を体血流、肺に行く血流を肺血流といいますが、この症例の場合、シャントされる血流分だけ減ってしまう体血流を補うことがそもそもの始まりですね。したがって、体血流を 1 とした場合、大静脈から帰ってくる血液も 1 ですね。シャント量を 体血流に対し 0.5 と仮定する(つまり本来左心室から出る血液の半分がシャントしてしまっているということ)と、肺動脈から出る血液は 1.5 となります。すると肺には 1.5 の血液がながれ、肺静脈を通って 1.5 の血液が左心房に帰ってきます。
このように矢印を書いてみると、矢印が重なっている部分に容量負荷がかかることになります。
この症例では、流れが滞ったり、流れが制限される場所がありませんので、圧負荷は通常かかりません。
まとめ
先天性心疾患を大まかに捉える方法をお話ししましたが、如何だったでしょうか?お絵かきをしてみると、お絵かきをしながら、この程度まで把握することができるようになります。
私自身の経験として、「心室中隔欠損だから、、、」という疾患単位毎の理解をしようとしていましたが、なかなか血行動態というか、実際の集中治療の現場で患者さんの状態を把握しようと思うと、同じ疾患の中でもバリエーションが多すぎて対応出来ない、という事態に陥りました。それが先天性心疾患の面白さだったりはするわけですが、なかなか苦労しました。
今回ご紹介した方法で疾患を捉えながら、実際の患者さんの管理を積み重ねると、複雑に見えた疾患群が、だんだんシンプルに捉えられるようになります。先天性心疾患に携わっておられる先生方はそれほど多くないとは思いますが、参考になるといいな、と思っています。
小児科、小児集中治療室を中心に研修後、現在、救命救急センターに勤務しています。 全てのこども達が安心して暮らせる社会を作るべく、専門性と専門性の交差点で双方の価値を最大化していきます。 小児科専門医/救急科専門医/経営学修士(MBA)/日本DMAT隊員/災害時小児周産期リエゾン