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熱中症③ 〜病態生理 2 〜

熱中症は「熱産生と熱喪失のバランスが破綻したことによる高体温」と考えられます。病態生理を理解するために、「分解」の原則に従って、熱産生、熱喪失それぞれのプロセスを分解してみましょう。

熱産生

人間は恒温動物ですので自分で熱を産生します。熱は以下の過程で産生されます。

(1) 基礎代謝の結果
(2) 筋肉の活動(シバリングを含む)
(3) 甲状腺と交感神経系が細胞に作用した結果

70 kg の大人では一時間当たり 100 kcal のカロリーがされると言われています。この為、後述する熱喪失のプロセスが停止すれば、体温は一時間当たり 1.1 ℃ 上昇すると言われています。

熱中症は、古典的熱中症と労作性の熱中症に大きく分類されますが、労作性熱中症では(2) の筋肉の活動による熱産生が非常に大きくなります。

熱喪失

熱の喪失は以下の4つの過程で起こります。

(1) Convention(伝導)
(2) Evaporation(蒸発→気化熱)
(3) Convection(対流)
(4) Radiation(輻射)


接しているベッドなどに伝導によって奪われる熱は、熱喪失の3% 位ですが、空気に伝導して対流が起こることにより運び去られる割合は 12%になります。空気に動きがあれば、熱喪失の60%近くまで上昇します。また、汗や呼吸によって失われる熱(evaporation)は 25%、輻射による熱喪失は  60%程度を構成します。
一方でこれらは環境の影響を強く受けることがポイントです。湿度が高くなれば蒸発による熱喪失は期待できませんし、環境温があがれば輻射・伝導による熱喪失の割合も極度に低下します。

熱の調整(Thermoregulation)

前述の通り体温は筋肉などでつくられて、体全体に運ばれます。では一体何が運んでいるのでしょうか。

実は血液は酸素だけでなく、体温を運ぶ媒体としても非常に重要です。特に体の中心から熱を逃がすためには、体の表面に熱を運ぶ必要があり、皮膚の血流量が重要な役割を果たします。

安静時の皮膚の血流量は心拍出量の 5 - 10% と言われていますが、体温が上昇し熱のストレスがかかった状態では心拍出量の60%まで上昇します。

【参考文献】
1. N Engl J Med 2019;380:2449-59
2. Textbook of Pediatric Emergency Medicine, 6th edition
3. Rosen's Emergency Medicine, 7th edition
4. Roger's Textbook of Pediatric Intensive Care, 5th edition
5. Smith's Anesthesia for Infants and Children, 7th edition

小児科、小児集中治療室を中心に研修後、現在、救命救急センターに勤務しています。 全てのこども達が安心して暮らせる社会を作るべく、専門性と専門性の交差点で双方の価値を最大化していきます。 小児科専門医/救急科専門医/経営学修士(MBA)/日本DMAT隊員/災害時小児周産期リエゾン