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インフルエンザ最新情報UPDATE【2018-19年シーズン版】

この記事はおまけ記事以外、
無料で最後まで読めます。

私は、インフルエンザワクチンを毎年自分自身に接種します。妻にも接種します。患者さんにもおすすめします。インフルエンザワクチン有益性が害を上回ると考えているからです。

しかし外来では、様々な質問があります。

「インフルエンザワクチンは効かないって聞いたことがある」
「インフルエンザワクチンは去年打ちましたから、大丈夫と思うんですけど」
「毎年型がかわるのに、接種する意味あるの?」

そういった質問です。

それらにお答えするためには、最近の研究結果を知っておく必要性があるでしょう。
もちろん、「予防接種に関するQ&A集(日本ワクチン産業協会)」や「KNOW! VPD」を参考にするのも有用です。私もその場で調べるときにはよく使います。

しかし、そういった二次資料には引用先が明示されていなかったり、海外の方法と違ったりしています。そこで、毎年インフルエンザワクチンの接種時期になると、自分自身でもアップデートできればいいと努力しています。でも、実際に一次資料(発表された論文そのもの)を読んでいくのはとても大変です。きっと皆さんも苦労されているのではないでしょうか。

そこで、現在、イチ小児科医である私がピックアップした最近の論文をご紹介させていただき、共有させていただきたいと思います

それぞれの詳細に関して、私のブログに元論文がある場合は翻訳記事をリンクしました。

医療者皆さんの日頃の診療、患者さんがインフルエンザワクチンを受けたり治療を受ける際の参考になれば嬉しく思います。


この記事は「医療関係者向け」です。でも、ご興味がある方はだれでもOKだと思います。


初版 2018/11/7 第1章、第2章、おまけ記事を公開
第2版 2018/11/11 第3章 を公開
第3版 2018/11/11 第4章 を公開
第4版 2018/11/12 第5章を公開・おまけ記事の「インフルエンザ濾胞」を無料へ公開
第5版 2018/11/13 第6章を公開(一応の完成)
題6版 2019/10/1 もくじ機能の設定

細かい点の修正や情報の追加を適宜行う予定です。


第1章 インフルエンザに罹る頻度と合併症

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 1.1 あるシーズンにインフルエンザにかかるリスクはどれくらい?

インフルエンザは一般的な風邪(普通感冒)より症状が強く、合併症も多いです。では、今シーズンにどれくらいのインフルエンザに、かかる可能性があるでしょうか?

最近、季節性インフルエンザ計13,329人(32試験)に対するシステマティックレビューによる報告が発表されています。

システマティックレビューとは、発表されている文献を事前に決められた方法で調査して、質の高い研究のデータをデータの偏りを限りなく除き、分析する調査手法を指します。

すると、予防接種をしていない場合、インフルエンザへの年間の罹患率は、小児(18歳未満)で12.7%(95%信頼区間 8.5%~18.6%)、成人で4.4%(95%信頼区間 3.0%~6.3%)、高齢者(65歳以上)で7.2%(95%信頼区間4.3%~12.0%)と推定されています。

すなわち、ワクチンを接種していなければ、子どもでは5人に約1人、成人では10人に1人が毎年季節性インフルエンザに感染することとなります。



 1.2 生後6ヶ月未満の乳児のインフルエンザ、入院をへらすには?

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コクーン戦略(Cocoon Strategy)とは、「免疫が弱い方を、周囲が予防接種をすることで繭玉(コクーン)の中にいれて守っていく」という戦略です。特に生後6ヶ月未満であるとインフルエンザワクチンは接種できません。
そのため、生後6ヶ月未満のお子さん122人の入院リスクが検討されています。

すると、生後6ヶ月未満の乳児がインフルエンザで入院するリスクは、兄弟姉妹がいるとリスクが15.8倍、祖父母の予防接種により0.22倍に減少したと報告されています。すなわち、家族の予防接種は有効と言えましょう。
すなわち、コクーン戦略といえましょう。


 1.3 インフルエンザ脳炎/脳症はどれくらい発生する?

インフルエンザの流行期には、インフルエンザ脳炎/脳症に注意を払う必要性がでてきます。医学が進歩しても、その予後が決して良くないからです。

そこで、オーストラリアのインフルエンザ入院例中7.6%を占める三次小児病院における、インフルエンザ関連神経学的疾患(IAND)とインフルエンザ関連脳炎/脳症(IAE)の検討を3シーズンにわたって検討した報告をご紹介します。

結果として、オーストラリアの14歳以下の小児におけるインフルエンザ関連脳炎/脳症の年間発生率は、1000000人中平均2.8人と少なかったものの、その半数は死亡または神経学的病状を残しました。

また、統計的な有意差はなかったものの、脳炎/脳症に罹患した児の中に、予防接種例は0だったことは注目すべきと個人的には思います。

実際、論文にも、下記のような記載があります。

”Consistent with other studies, we found that the majority of children with IAE and IAND had not received seasonal influenza vaccination.”
(他の研究と一致して、IAEやIANDに罹患した小児の大多数が季節性インフルエンザワクチン接種を受けていないことを発見した).

インフルエンザワクチンは(有意差はないとはいえ)、脳炎・脳症を減らしているのかもしれません。


第2章 迅速検査

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 2.1 インフルエンザ迅速検査は、発症からの時間で感度が大きく変化する

インフルエンザ迅速検査に関し、「発症早期の検査は感度が低い(陽性率が低い)」とはよく言われるものの、「ではどれくらいなのか?」の報告です。

インフルエンザが疑われる18歳までの小児患者311人に対してPCRと迅速検査キットで検査を行い、インフルエンザ迅速検査キットの性能を評価したところ、インフルエンザ迅速検査の陽性と症状出現からの時間や年齢は以下の通りになりました。
すなわち、24~48時間での感度(陽性率)が最も高いと推定されます。

・12時間以内で感度 35%、特異度 100%
・12-24時間で感度 66%、特異度 97%
・24-48時間で感度 92%、特異度 96%
・48時間以上で感度 59%、特異度 100%

検査キット毎の性能差にも注意を要するでしょうけれども、この結果を把握しておくと、夜間の不要なインフルエンザ迅速検査が減らせるかもしれません。
※ なおこの論文は、KID先生のブログで見つけました。ありがとうございます。


第3章 インフルエンザワクチンの有効性は?

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 3.1 小児にインフルエンザワクチンは有効?

「小児にインフルエンザワクチンは効かない」という方もいます。

しかし、この点に関しては、16歳未満のインフルエンザに関するインフルエンザワクチンのランダム化比較試験41試験(> 200,000人の小児)に対するメタアナリシスが発表され、有効性が証明されているといえます。

メタアナリシスとは、事前に決められた手法で多くの研究結果を統合して統計処理をする手法です。エビデンス(証拠)レベルが最も高いと考えられている方法です。

インフルエンザの不活化ワクチン接種群は、プラセボまたはワクチン接種なし群と比較して、2〜16歳におけるインフルエンザのリスクを30%から11%に低下させるという結果でした。

有効性はあきらかですが、「全員の感染を防ぐ」ワクチンではないことも確かでしょう。


 3.2 インフルエンザワクチンは、いつまで効果が持続するか?

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このテーマに関して、ググっても「5ヶ月くらい続くとされています(出典なし)」と記載されている記事が多いです。

実は、インフルエンザの型によっても効果が異なりますし、「5ヶ月経過するまでずーっと効力をもって、時期が来たら0になる」ではありません。

米国インフルエンザワクチン有効性ネットワークの膨大なデータから、ワクチン接種後の期間と、ワクチンの効果の関係を調査した報告があります。

インフルエンザワクチンの効果は、時間が経過するほど効果が低下し、イン​​フルエンザA(H1N1)pdm09やインフルエンザBでは少なくとも6ヶ月間
インフルエンザA(H3N2)では少なくとも5ヶ月間で効果が減弱していく
と報告されています。


 3.3 乳児へのインフルエンザワクチンは有効か?

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「2歳未満の乳児に対して、インフルエンザワクチンの有効性はない」という方もいらっしゃいますが、最近、大規模ランダム化比較試験で検討した結果が報告されました。

ランダム化比較試験とは、事前に決められた方法でランダムに2(~数)群に対象をわけて、例えば治療効果をみる方法です。一般にエビデンスレベルが高い方法とされています。

バングラデシュの6~23ヶ月の子ども達4081人に対し、インフルエンザワクチンと不活化ポリオワクチンにランダム化され、有効性を評価されました。

結果として、生後6~23ヶ月児に対するインフルエンザワクチンの有効性は、31%(95%信頼区間18-42%)と推定され、有意に効果があったとされています。

一般に、最近のインフルエンザワクチンの有効性は診断陰性例デザイン(Test negative control design)という方法で簡易的に測定されることが多いのですが、今回はランダム化比較試験というエビデンスレベルの高い方法で報告されたことが重要でしょう。


 3.4 インフルエンザワクチンは、子どもの入院率を減らすか?

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「インフルエンザワクチンが重症化を減らす」とは、ネット上にも色々言及されています。しかし、重症化と一言でいっても、目標とする結果(アウトカム)も様々です。

例えば、入院をイベントとするのか、死亡をイベントにするのかでもアウトカムは変わります。

まず、インフルエンザワクチンが入院率を減らすかどうかの報告をご紹介します。

2010~11年から2013~14年の3回のインフルエンザシーズンに、カナダのオンタリオ州で入院した小児におけるインフルエンザワクチンの効果が調査されています。規模としてはインフルエンザ検査陽性1280人/陰性8702人という大きなものです。

すると、インフルエンザに関連した入院に関し、6~59ヶ月の小児に対する完全なインフルエンザワクチン接種群では60%、不完全なワクチン接種では39%の低減効果であると推定されています。

日本でのインフルエンザワクチンは、13歳未満の児には2回接種になっています。
一方、米国では9歳以上は毎年1回、生後6か月~8歳まで(9歳未満)は2回接種ですが、前年に2回接種している場合には1回接種をすすめています。
多くの国は米国と同様の方針をとっていますが、その回数をきちんとこなしている場合を「完全な」ワクチン接種といいます。

そして、年齢ごとで検討すると、完全なワクチン接種群のワクチンの効果は、生後24〜59ヵ月の小児では67%、生後6〜23ヵ月の小児では48%であり、2歳未満での有効性は低下する(効果がないと言う意味ではありません)と考えられました。

 3.5 インフルエンザワクチンは、子どもの死亡率を低下させるか?

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次に、インフルエンザワクチンが死亡率を低下させるかという検討をご紹介します。

米国による3つの大規模なコホートを使用して、インフルエンザワクチンが小児のインフルエンザ関連の死亡率を低下させるかどうかが検討されています。

コホートとは、ある時点で同じ条件で集められた集団のことを言います。この場合、「コホート試験」という研究に参加されている、すでに同意いただいて定期的にデータを取得していくことが決まっている集団を、3つ統合したことになります。事前の先入観がはいらないという意味で、エビデンスレベルは高いと言えます。

2010年7月から2014年6月まで期間で、生後6ヶ月から17歳までの小児におけるインフルエンザ関連で亡くなった方は358人でした。

そこから、インフルエンザ関連で死亡するリスクを減らすことに対するワクチンの有効性は、全体で65%(95%CI 54%~74%)と推定されました。ただし、年齢・シーズンによってワクチンの効果に差があることも分かりました。要は、「型があっているかどうか」で年による有効性に差があるということです。


 3.6 妊娠中のインフルエンザワクチンは乳児のインフルエンザも予防する

妊娠中のインフルエンザワクチンは安全であることが米国産婦人科学会からも報告されています。

ACOG Committee Opinion No. 732: Influenza Vaccination During Pregnancy

さらに最近、妊娠中のインフルエンザワクチンが、生まれてきた生後6ヶ月未満の乳児にも、インフルエンザの防御効果をもたらしていることが報告されました。

この研究では、3441人の乳児に対し、母のインフルエンザワクチンが乳児のインフルエンザ発症予防に働いているかを検討されています。

すると、特に「出生前」のワクチン接種が有効であり、ワクチン有効性は61%(95%信頼区間 16~81%)と推定されました。出産後の母のワクチン接種の有効性は53%(-28~83%)と明らかではなくなっていました。

出産前のインフルエンザワクチンはお子さんへの予防のプレゼントになるのかもしれませんね。


 3.7 前年にインフルエンザワクチンを2回接種していれば1回接種でよい?

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前シーズンにワクチンをしていれば、今シーズンのワクチンが1回で良いかどうかの報告は多くはありません。

3価ワクチン(インフルエンザ株が3種類)の報告では、前シーズンワクチンをしていてもインフルエンザB型に対しては、今シーズンのワクチンによるブースター効果は少ないという報告もあります。

そこで最近、4価ワクチン(現在日本で使用されているのも4価です)に関して、前シーズンの接種が、今シーズンのワクチンへブースター効果があるかどうかを検討した報告が発表されました。

この研究では、まず、あるシーズンで生後17〜48ヵ月の小児に対して、4価ワクチンを接種する群と接種しない群にランダム化して4価ワクチンの効果を検討しました。

そして、翌シーズンの4価ワクチン接種後の抗体の上昇を比較しました。

すると、前シーズンの4価ワクチン2回接種をしておくと、免疫の記憶は誘導されており、今シーズンで1回接種でも抗体産生が良かったと報告されています。

ただし、この結果は、あくまで抗体価の上昇をみているだけなので、臨床的なワクチンの効果はまた別途検討する必要があります。


 3.8 インフルエンザワクチンは、2季連続 vs 今季のみで有効性が異なるか?

昨年ワクチンをしていれば、今年のワクチンの有効性があがるか?に関しての検討の二つ目です。今度はメタアナリシスです。

ランダム化比較試験 5件(参加者11,987人)のメタアナリシスで、連続した2シーズンでワクチン接種を受けるとワクチンの有効性は71% (95%CI 62~78%)と、今シーズンのみワクチン接種した場合の有効性の58% (95%CI 48~66%)に比較しても、ワクチンの有効性に差はないという結果でした。

この検討も、「前シーズンまでに2回のインフルエンザワクチン接種した児に対し、今シーズンに1回接種でよい」というプラクティスに根拠を直接あたえるものではありません。

日本でのインフルエンザワクチンは、13歳未満の児には2回接種になっています。一方、米国では9歳以上は毎年1回、生後6か月~8歳まで(9歳未満)は2回接種ですが、前年に2回接種している場合には1回接種をすすめています。

どちらが本当に正しいのかどうかは、これらの結果からは導くことが出来ません。すなわち、現状では厚労省の推奨通りでも、海外での方法でも、どちらが正しいとは言えないようだと私は考えています。


第4章 インフルエンザワクチンとアレルギー

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 4.1 米国小児科学会のインフルエンザ診療に対するUPDATEからみる、卵アレルギーに対するインフルエンザワクチン

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卵アレルギー児に対するインフルエンザワクチンは、現在日本では慎重な接種が求められています。例えば、東京都感染症情報センターのページには、

重度のアレルギー(アナフィラキシー反応既往)のある方はその他の成分によるアレルギー反応が生ずる可能性もあるので、接種時にかかりつけ医に相談してください。
東京都感染症情報センター

と記載されています。

しかし、東京都感染症情報センターのページにも記載されているように、インフルエンザワクチンへの卵の含有量は極めて少ないです。

そのため、2017~2018年シーズン診療から米国小児科学会では、重症卵アレルギーのある全ての小児に対しても、全てのワクチンに対して推奨されている予防措置以上の追加処置は必要とせず、インフルエンザワクチンを接種できるとされています。

卵アレルギーがあるから、もしくはある程度卵が摂取できていても「生卵が食べられないと当院ではインフルエンザワクチンは接種できません(1歳なのに、、)」と言ったプラクティスが未だ見受けられます。

状況が変わってくることを願っています。


 4.2 本邦で検討された、インフルエンザワクチンによるアナフィラキシーの原因とは?

では、インフルエンザワクチンはアレルギー症状、とくにアナフィラキシーは起こさないのでしょうか?

2011~2012年度のインフルエンザ・シーズン本邦で報告されたある製造業者(製造業者A)がインフルエンザワクチンに関連したアナフィラキシーが多かったことが報告されました(平年1例/140万dose、2011年1例/40万dose)。

少なくとも、これくらいのアナフィラキシーは起こりうるということです。

そして、このシーズンに全国調査がおこわなれましたが、アナフィラキシーの原因は卵ではありませんでした。

製造業者Aは、防腐剤として2‐フェノキシエタノールを使用し他の業者はチメロサールを使用しており、一部は2‐フェノキシエタノールが関与した可能性があるとされています。


第5章 インフルエンザの治療

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 5.1 インフルエンザ薬の中心、タミフルはどれくらい効果がある?

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2017年のメタアナリシス(Malosh RE, et al. Clinical Infectious Diseases 2017; 66(10): 1492-500.)を確認してみましょう。

オセルタミビルによる治療は、インフルエンザの持続期間を有意に短縮し(RMST差 -17.6時間、95%信頼区間[CI] -34.7〜-0.62時間)、しかも喘息のない患者ではその差はより大きくなった(-29.9時間; 95%CI -53.9〜-5.8時間)と報告しています。
そして、中耳炎のリスクは34%低下したものの、嘔吐を多く認めました。

結局、最新のメタアナリシスでみても、タミフルによる発熱持続時間の短縮は17.6時間であり(喘息がなければ29.9時間)、嘔吐の副作用が多いという、既報通りの結果にまとめられます。


 5.2 タミフルは、症状出現後48時間以上経過しても有効?

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タミフルは、インフルエンザの特効薬として広く知られているものの、発熱期間を半日~1日程度短縮させる程度の有効性しかなく、限界も大きい薬剤でもあります。

 特に、「発症48時間以内」という治療開始時期は一般の方々でも良くご存知かと思いますが、48時間以上経過してから使用した場合は効果はないのでしょうか?

年齢が中央値5歳の1190人が登録され、臨床症状・ウイルス分離持続期間、および治療中のタミフル耐性の頻度が検討されています。検討された患者のうち、発症から48時間未満が67%、発症から48時間以上33%でした。

結果として、タミフルは、全体では症状持続期間を1日有意に短縮し、やはり発症48時間以内で開始すると1日症状期間が短縮していました。
48時間以上経過してからでもわずかな有意差があり、発症48時間以上経過した参加者においても2日目と4日目にウイルスの分離が有意に減少したそうです。しかし、その差は小さく、やはり48時間以上経過してからの使用はあまり有効ではないといえそうです。


 5.3 リレンザとイナビルの比較試験。どちらが優勢?
 5.4 ゾフルーザは本当に必要?

5.3~5.4に関しては、最初は自分で考察を書こうと思ったのですが、EARL先生のブログに詳細で十分な記事がありましたので、引用させていただきます。

【レビュー】インフルエンザにゾフルーザ®は使うべきか?

結局、イナビルとリレンザではリレンザが優勢であり、イナビルの効果は今ひとつ信頼が置けないというものです。私も同様に考えています。

また、ゾフルーザに関するNS先生の考察もすばらしいです。

ゾフルーザは、確かにプラセボよりインフルエンザ症状が改善するまでの期間を短縮し、タミフルに比較してウイルス排出期間を短縮する、1回内服で治療完結するといった特徴を有する、新しい機序の抗インフルエンザ薬といえましょう。

しかし、ゾフルーザに関しては、現状での12歳未満のデータが極めて少ないこと、小児では2割以上に耐性ウイルスが出現する可能性が示唆されていること、コスト面などから、現状では手を出しにくいと思っています。

 

第6章 インフルエンザ診療のTips

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 6.1 集団免疫~インフルエンザワクチン集団接種は、インフルエンザによる死亡数を減らしていた~

我々が小さい時、インフルエンザワクチンが集団接種されていたことは記憶に新しいでしょう。目的は、集団接種を行うことで集団免疫(全体の免疫をあげる)ことでした。いわゆる、「コクーン(繭)」の考え方です。すなわち、周囲の免疫をあげることで、中の弱いひとを守っていこうという戦略を繭に例えています。

しかし、インフルエンザ集団接種は中止となりました。色々な考えがあることは承知していますが、集団接種を中止することで起こったことは明らかになっています。

まず一つ目に、高齢者の超過死亡率が明らかに上昇したことです。

論文より引用。インフルエンザ予防接種(グレーの棒グラフ)と超過死亡率(折れ線グラフ)。上段が日本で、下段が米国で、予防接種量が増加すると「高齢者の」超過死亡率が低下し、「学童の」集団接種が終了後、超過死亡率が上昇している。

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超過死亡率、というのは簡単に言うと、インフルエンザが流行したために余分に死亡した率、と言えばいいでしょう。インフルエンザのみではなくインフルエンザによって発生した肺炎で死亡した方も含みます。

超過死亡とは、インフルエンザが流行したことによって、インフルエンザ・肺炎死亡がどの程度増加したかを示す、推定値である。 この値は、直接および間接に、インフルエンザの流行によって生じた死亡であり、仮にインフルエンザワクチンの有効率が100%であるなら、ワクチン接種によって回避できたであろう死亡数を意味する。

感染症情報センターHPより

さらに、2005年に、集団接種は、接種されていた学童ばかりか幼児の死亡も減らしていたことが報告されています(Clinical infectious diseases 2005; 41(7): 939-47.)。

論文より引用。1972年以降、「学童期の」集団接種が中止されるまで、幼児(1~4歳)の死亡のピークは春から夏でした。それが、1990年以降、冬季のピークがみられるようになり、すべてA香港型が流行した年でした。

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1990年代の幼児の超過死亡は800人と推定されています。

さらに2011年、ワクチン接種率と学級閉鎖日数を調査した検討があります(Clinical infectious diseases 2011; 53(2): 130-6.)。

論文より引用。ワクチンの接種率が低下すると欠席/学級閉鎖が増え、接種率があがると欠席や学級閉鎖が減る

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接種率があがることは学童自身にも有益といえましょう。

そして最近、メタアナリシスが実施され、インフルエンザの集団接種に関して4%~66%の集団免疫効果があると推定されています。
特に、2326人を対照としたランダム化比較試験では高い集団免疫効果を認めたと報告されました(Clinical infectious diseases 2017; 65(5): 719-28.)。

1990年代まで行われいたインフルエンザ集団接種に関しての中止は、これらの疫学的な結果を導き、幼児の超過死亡も800人と推定されています。

しかし、我が国の小児に対する医療的な待遇・対応からも、医療現場のマンパワー不足からも、残念ながら集団接種が再開されることはないと、私は考えています。


 6.2 インフルエンザ濾胞

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インフルエンザ濾胞は、咽頭後壁にみえる「イクラ状の隆起」のことです。感度・特異度が高いとされています。

もともとはアデノウイルスなどでもみられるので、あくまで流行期に補助診断として使うのがいいのではと思います。でも、これを応用して、「画像でインフルエンザを診断しよう」という試みも始まっているようです。


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